第67話 ハクとアレックスにちょっと説教してみた
「お疲れさまです、タケルさん」
「悪いな、面倒を頼んで。こいつを戦える程度に仕込んでほしい」
「なるほど。もしかして、同郷ですか?」
「ああ。珍しい黒髪だからな、すぐわかった。探索してたハクから連絡があったんだ、盗賊に襲われてる馬車がいるって。で、ハクと一緒にむかったら、こいつらが乗せられてた奴隷商の馬車だった。護衛たちも満身創痍でな。だから、ハクと俺とニジでちゃちゃっと片付けた」
「ちゃちゃっとって。それで、奴隷ですか?」
「ああ。礼をすると言うから、こいつにすると言えば喜んでその場で手続きしてくれた。レベルの低い鑑定しか使えないから、知らなかったんだろ、こいつのこと。斥候のスキルを持ってる。もともと、棒術みたいなのはやってた。だから、俺たちが討伐している間、仕込んでやってほしい」
「それはいいですが、奴隷に刃物を持たせるのですか?」
「ああ。俺には絶対逆らえないからな。うちの家族をみて、そんな気持ちは失せただろうよ」
「まあ、そうでしょうね。私でも、タケルさんに刃向かおうとは思いませんから」
なんだよそれ、と訓練場を借りることにした。
その前に、登録をと言われてカウンターにいく。
どうやら本来はGランクかららしいが、Fランクになるらしい。
水晶に手のひらを置いて、そのままできあがるのを待つ。名前だけ書けと言えば、ナナとかいた。この名前で通すつもりだろう。年齢十四歳。見た目はガキだが、この世界では成人だな。
カードをもらって眺めているが、とりあえず、俺が預かることにした。落としたら大変だしな。
訓練場で、パトリオットが少し打ち合いをしている。とりあえず、棒で。
だが、思ったより行けるぞ、これ。
パトリオットも驚いてるな。まあ、これなら大丈夫か。わりと体力はあったし、多少魔法も使えるから、身体強化もかけられるだろう。あとは斥候としての感覚と速さだな。気配察知がそこそこ使えるようだから、といっても、レベル4だが。まあ、なんとかなるか。
「ナナ、槍を使え。で、右手はこいつだ」
短剣を放ってやれば、綺麗に受け取った。パトリオットがその短剣を確認している。
さすがですね、と聞こえた気がしたが、それはいいか。
右腰につけて、抜くときはこうやって……
逆手に持って抜くんだと教えてくれている。
それなら、頼んでおいてもいいか。
「じゃあ、パトリオット。頼むな」
「はい。あ、そうだ。ギルマスが魔物のことを聞きたいそうですが」
「なんでギルマスと話す必要がある? 聞いて何かができるわけじゃないだろうよ。それは時間の無駄というものだ。悪いが、終わり次第連絡してくれ。向かえに来る」
「やっぱりですね。承知しました。後ほど」
ああ、と手を上げてその場で空間に入った。誰も他にいなかったから。
「ただいま~」
「おかいり~、あるじぃ~」
おう、ニジ。ただいま~
辺りを見回してみるが、二人はいない。どこだ? とテントの中を見てみれば、寝てた。
じゃあ、ニジとおやつでも食おうか。
「ニジ、魔導書はどうだ?」
「う~ん、しゅごいよ~もう、こり、よんだ。いまね、ここらよ、らからもうしゅぐ、ふたちゅめ、おわりゅ~」
「おお、すごいな。で、初級は身についたのか?」
「あい!」
目の前で小さな落雷が起きた。かなり威力を落としているようだが。
「すごいな、ニジ。これで雷魔法が使えるな」
「あい~、とばちゅ(討伐)、まれにじぇんぶよむの(までに全部読むの)。まもの、ばりばり、やちゅけりゅお~」
「おう、そうだな。じゃあ、頑張ってもらわないとな。じゃあ、討伐のときは椅子をつけるか。そこなら、ハクの頭は邪魔にならないだろ? まあ、かなり動くと思うが、後ろ向きで攻撃すれば左右と後ろを攻撃できるぞ」
「あい~、しょしゅる~」
「じゃあ、お弁当やおやつを作らないとな。明日は料理の日だ。ニジは魔導書読んでいいからな。一日かけていろいろ作るから」
「うれち~」
フルフルと身体を震わせるニジと一緒にケーキを食べて、俺は明日の料理のメモ、ニジは魔導書に戻った。
明日の弁当のことを考える。
皆で一緒に食べるとは限らないが、どこかで一緒に空間に入ってもいいかな。それなら、ここで作り置きを食べられる。その方がいいか。
飲み物も不足なく食えるから。じゃあ、おやつ程度のものといえば、肉串があるのと、揚げ物、つくねもどき。あとはサンドイッチかな。
こういう大規模討伐は、魔法一択になる。その時に様子も見られるし、それがいいか。ニジがどれくらい魔力を使うか、それが問題だな。
夜までメニューを考えたり食事の準備をしたり。
ニジのとなりで時間を過ごした。
ニジは気のすむまで本読み、中級まで身につけた。これはホントにすごい。かなりの勉強家だな。感心、感心。
俺はメニューを考えて、いくつか下準備を終え、今は煮込み料理作成中。新作として、クリームパスタを作った。もちろん、パスタはペンネで。俺は長い麺の方がいいけど、みんなは食べやすいだろうからね。
もうそろそろ、訓練が終わって、ナナが戻る頃だろう。日本食でも、洋食でも。どちらでも食えるようになってるので問題ない。
『タケルさん、ナナさんの訓練は終わりました。どうしますか?』
「ありがとう。じゃあ、そこに空間開いていいか?」
『ええと、今は他にもいますので、馬場に移動します』
「了解。お前もメシ食って帰るか?」
『いいのですか?』
「ああ、礼だ。食ってってくれ」
『ありがとうございます! お言葉に甘えます』
おう、と答えて、風呂を入れてやろう。
ナナの入る風呂に湯を入れておく。
そろそろハクたちも起こさないとな。
「おーい、そろそろ起きろよ。ナナも訓練から戻ってくるぞ。風呂に入れ~パトリオットも来るから一緒に入れ」
「うぇ~い」
ホントにダレてるな。
「そんなに怠いなら、明後日からの討伐、俺とニジで行ってくるぞ。ニジは雷魔道書の中級まで身につけたからな。なら、メシも適当でいいな! そのまま寝てていいぞ」
踵を返して歩き出せば、テントの中はドタンバタバタと音がしている。
さて。空間を開くか。
ギルドの馬場に空間を開く。
オープン!
ゆっくり開く向こうには、パトリオットとナナが立っている。
辺りには何もいないようだ。
二人を浄化して、招きいれた。すぐに引き戸は閉じてしまう。その前に見えなくなってるみたいだね。すごい、空間も成長してるよ。
「お疲れ、ナナ。パトリオット、世話になった。悪いが、明日も頼むな」
「ただいま戻りました、ご主人様」
「お疲れ様です。当然、明日も引き受けますよ。スジがよいので楽しいです。久しぶりに身体を動かしました」
「あはは、それはよかった。ナナ、これ、今日の買い物だ。お前は昨日の風呂に入れ。パトリオット、風呂に入れよ。着替えはなんでもよけりゃ、貴族の平服ならあるぞ」
「うわぁ、ありがたいです!」
パトリオットを引っぱってゆく。ナナには、ひとり用のテントを出したので、指させば小走りで行った。
ハクとアレックスがテントから出て来た。
「主、ごめんなさい。安心しきって自堕落な生活を。許してほしい」
「俺も、です。申し訳ございません。恥ずかしいです」
「なるほどな。だが、忘れるな。俺が死ねばこの空間はなくなる。その前に俺が追い出しても、お前らなら生きてゆけるだろう。他の魔物みたいに、山で寝るか? 仕事のときだけ呼べばいいか?」」
「いや! できれば、主と一緒にここにいたい。おねがい、主!」
「お願いします、主。俺は父に対して恥ずかしい。心を入れ替えます、なんとか、置いてください!」
「ふん! 俺は甘いんだろうな。眷属であるお前たちだが、同じ眷属のニジは己を見つめて学ぶ。お前たち二人は、その間に昼寝だ。命をかけて共に進むと思っていたから食い物も何でも、できることはやってきた。それが間違いじゃなかったと思えるようにしろよ。俺は慈善奉仕家じゃない。家族に捨てられたようなガキだった。親のありがたみも温もりも知らない。メシさえ、親の作ったものを食ったことがない。一緒に食ったこともない。ただ、毎日学び刀を振るだけ。そんな俺には家族ができたと思ってた。間違いだったと後悔させるな」
はい、と二人は頭を下げた。
アレックスはドラゴンの人間くらいの大きさで。迫力ありすぎるけど。
「じゃあ、パトリオットと風呂に入れ。そしたらメシだ。いいな」
それなら、パトリオットに着替えを出してやる。下着も適当に。タオルはあの棚にあるから、と一瞬でお湯を張った。
「ご主人様。お風呂いただきます」
「おう、ゆっくり疲れをおとしてこい。そうだ、ナナ。日本食がいいか、洋食がいいか?」
「わ、私は。日本食が、というかご飯がいいです」
わかった、と無言で見送った。
「あるじぃ~」とニジが心配そうだ。
「大丈夫だよ、ニジ。みんな心を入れ替えるって言ってた。多分、かわるだろう。まあ、人間も同じだ。甘えるんだよ。でもさ、俺も甘えたいときくらいある。物心ついたときから、甘えたことなんてなかったし。でもな、ニジがいてくれる。それはとても嬉しいよ。お前は、きちんといろいろ考えてるしな。それに、くっついていられるから温もりもある。これからも俺と遊んでほしい」
「うん、ニジ、あるじぃ、だいしゅち~こりかあもいっちょ」
そうだな、とニジをなで回す。
そうだ、今出してみるか。
木箱を取り出して蓋を開ける。
その中から、小さめの箱を取りだし開いた。布に包まれた固まりを地面に置き、魔力を流せば、むくむくと起き上がったのは、侍従ゴーレムだ。
「こり、なに~」
「お手伝いゴーレムだ。今日の道具屋でかった」
「ふうん、かわい、ね~」
そうか、かわいいか。
じゃあ、設定はどうやってするんだろうな。あちらこちらを確認したが、わからない。
「お前、持ち主の設定はどうやってやるんだ?」
『マリョク、トーシナガラ、セッテイ、クダサイ』
「なるほど、魔力を通しながら設定か。じゃあ、やってみるかな」
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【あとがき】
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