第58話 宿を一人分確保して空間に移動してみた
バッグの口を目一杯開けば、ハクがゆっくり入って行く。
『なかなかに広いね。もう少し広ければ楽だろうけど、これはこれでいいよ。灯りも優しい灯りだし』
『そうでしょ。もし、広い方が良ければもう少し広くするからね~』
三人は中で大騒ぎしてる。
楽しそうだね。でも、とりあえず、宿に入ったら静かにしてもらわないと。防音の結界ってあるのかな。やってみようか。
えっと、ここだね。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。お泊まりでしょうか?」
「はい。商人ギルドで聞いてきました」
「ありがとうございます。商人ギルドのカードはありますか?」
これ、と差し出せば、番号をメモしてるね。
「ありがとうございます。こちらで少しお値引きができますので」
「それはありがたいですね。ここは、ひとり部屋も二人部屋も広さは同じだと聞きましたが」
「左様でございます。お荷物が多い方もおられますので。それで、どちらが良いですか?」
「ひとり部屋で広い方がいいです」
「承知しました。では、一泊銀貨三枚となります」
じゃあ、とりあえず、一泊でと部屋を確保した。
その後は、レストランの時間などを説明してもらう。お風呂はないので、裏の水場を開放してるらしい。まあ、いらないけどね。
鍵をもらって階段を上がると、どうやら、一番奥の部屋らしい。
ドアを開いてみれば、おお! 中々広いぞ。
ベッドは一つ。空白が多いのは商人が荷物を置く場所だろう。これはいいな、便利だと思う。
ここで防音結界を張ってみようか。
部屋の鍵をかけて、イメージを固める。
まずは透明の不可視結界を張る。ドアを開く分だけ残してね。じゃあ、その内側に防音結界をはる。ドアを叩く音以外は聞こえない様にできたらいいなあ。まあ、やってみるか。床も含めて、箱に入れる感じで。
<防音結界>
ふっと一瞬雰囲気が変わったように思う。
部屋の鑑定をすれば、透明不可視結界の内側に防音結界があり、外部と遮断されている。ドアのノック音だけ聞こえる。
うん、成功ですね、これは。
じゃ、空間を開くか。
オープン!
中に入って空間を閉じてから、バッグを地面に下ろす。入り口を開けばすぐにハクが出てきた。その後からはアレックスとニジだ。
「お待たせ。部屋も取ったけど、見てみる? 防音結界も張ったけど、とりあえず中を確認したら?」
「あるじ、べちゅにいい。おりたち、ここがいいも~ん」
「そうだよね気を使うよりいいよ、お風呂にも入れるし」
「そう、それならいいけど。従魔無しで取ったからね。でも、みんな静かにしてくれててよかったよ」
へへ~ん、と胸張っているよ、三人とも。
じゃあ、お風呂にするかご飯か、と問うてみれば、風呂だとい言い残し、さっさと皆いってしまった。
さて、今日は何を作ろうか。
あ、でも、肉煮込みがある。あとは揚げ物も肉串もある、つみれみたいなのも買ったな。でも、それは途中で食べるかな。それなら、何か作ろうか。
ええと、とりあえず、炊き込みご飯をおにぎりにしよう。これはお茶を入れればすぐに食える。
白米は鍋二つ分だな。
シャカシャカと米を研ぎ、準備をしてオーブンに炊飯鍋を二つ投入。その後、スイッチオン!
あと、炊飯ジャーでもご飯を炊く。
今日は八合と一升炊きの釜どちらも炊きましょう。
一升炊きの釜はそのままストレージに入れるつもり。そう、炊飯ジャーごとね。出したらスイッチを入れればすぐに保温できるし。これはとても便利だよ~
そろそろ米も出しておかないとね。
そうだ、おでんもあるんだよね。
これ、どうするかな。少し減ってからにしようかな。準備はできてるから、トンカツでも牛丼でも食べられるしね。
じゃあ、今日はご飯を炊いたら終わりか。
それなら、俺も風呂に入ろうっと。
あ、その前に。
馬がいたところを浄化する。これで匂いとかの心配もないね。
じゃあ、風呂だ!
服を脱ぎ捨てて、皆と一緒に泳ぐ。
うん、楽しいね~
どうやら途中で何度もパトリオットが連絡をくれたらしいんだけど、全く気がついてなかった。大騒ぎしてたからね。
で、夕食の時に連絡があった。
『お待たせしてすみません、タケルさん』
「いいけど、どうなったの?」
『はい。明日の午後一番に謁見となりました。それで、どちらにおられるのですか?』
「ええと、商人ギルドから少し離れた宿だよ。俺ひとりで宿をとって、今は空間にいる。ハクたちはここで寝るそうだしね」
『なるほど。では、明日、何時くらいにいたしましょうか。冒険者ギルドのギルドマスターがお目にかかりたいと』
「ええ、面倒だね。俺はいかないとダメなのかな」
『いえ、別によいのですが。おそらくは、情けないのでしょう。ほとんどの冒険者は辺境のダンジョンにおりますので』
「でも、それは仕方ないでしょ。そういう風に国をつくったんだし。まあ、王都の森にでもダンジョンがあれば別だろうけど。でも、探索者協会もあるから、どうなんだろうね」
『それも、魔物狩りをしている途中で見つかるかもしれませんね』
「まあ、見つかれば報告はするよ。じゃあ、明日、どこで待ち合わせになる?」
『では、王宮の門前に十二刻半くらいでいかがでしょうか』
「わかった。ええと、ハクたちはいた方がいいの?」
『別に言われてはおりませんので、それでいいかと思いますが』
「了解。じゃあ、明日ね~」
その後は、待たせた分だけワイルドな食事になったのは想像できるだろう。
ゆっくりと目を覚まし、起き上がる。
んーっと背伸びをして、今日は何色の服を着ようかと考える。まあ、当然白だよね。
じゃあ、とりあえず、トイレにいって洗面ですよ。
うちの子たちには昨日話してあるから、大丈夫だと思う。空間から転移できるのかと問うてみたら、危険だからやらないほうがいいって。まあ、そうだよね。もし、見せてくれと言っても、一応拒否するけど、王族だからね。
その時は空間を開いてくれって言ってくれたので、少し気が楽になった。
じゃあ、ともう少し寝ると言うので、リクエストもらってたホットサンドを作ろう。
Tシャツと下着のままキッチンに立つ。
ホットサンドマシンを取り出して、これじゃあ、数が足りないな、とホームセンターを覗いてみれば、業務用のコーナーにすごいのがあった。一度に四個できるやつ。これなら、八個できる。うん、いいね~
マシンを取り出して、魔力を充填します。おっけ、満タンですよ。
そして、食パンをスキル先生にスライスしてもらい、片っ端からバターを塗る。これが時間がかかるんだよ。
とりあえず、十枚分できたので、今度は挟んで行きましょう。薄切り肉をやいたものにタレを絡めてならべます。下にキャベツをたくさん入れて、ゆで卵ソース(こう呼ばれるようになったんだ、我が家では)を置いてマヨネーズを垂らしてサンド!
マシンにセットしてカチンとロックしてタイマーをセットした。業務用の方は同じ時間で大丈夫だろうか、と思いながら同時にセットした。
その間に、同じものを二十セット、厚切りベーコンとキャベツのやつを三十セット。ハンバーグとキャベツのも三十セット用意した。
それを次々挟んで仕上げて行く。
業務用も同じ時間でできたので、綺麗に早くできるようになった。
サクッとカットして保存容器に入れる。大型の保存容器がすぐにいっぱいになるよ。
そんな感じで保存容器四個分できました。
さっそく、保温魔道具に入れましょ。これ、見た目は縦型電子レンジだね。
今日の分で目一杯だ。これ以上は入らないけど。まあ、目安にはなる。
飲み物は、いつもの水が出るマジックアイテムと冷蔵庫に果実水、ミルクの小瓶、水の小瓶を置いておく。
これで大丈夫。
じゃあ、俺も朝昼兼用の食事にしましょうか。
白米ときんぴら大根、味噌汁、鱒のソテーだね。うん、旨いなぁ。
そうだ、海苔もある。ふりかけは、今日はいいか。うまうまだね、と一人楽しく食事をした。
最初の頃から、恵まれてたよね、俺。
なかなかいいもの食ってたし、仲間ができて家族になってくれた。それだけで十分だよ。
満足いくまで白飯と海苔を堪能して、出かける準備をする。
白い冒険者服を身につけてみる。元々の茶色い部分は黒になってるから、クールでいいね。ローブも白いローブで縁取りは黒。これ、かなりクールで、俺的には気に入ってる。
当然、蒼竜刀の鞘も黒だし。伴蒼刀も鞘は黒。うん、ちょっとかっこいいかもね。まあ、剣士ではあるけど、魔法使いでもあるから、これでいいか。
おっと、そろそろ行かないと間に合わないかな。
「ハク。俺は出かけるよ。いつものように保温に入れてあるからね」
「気をつけてね、主」
「わかった。行ってきま~す!」
ちびっ子たちを起こさないように、宿へと出る。
階段を降りて、フロントに礼を言う。
「こちらこそです。今夜もお泊まりのようでしたら、連絡をいただけるとありがたいです」
「それはありがたいね。話によっては依頼を受けるかも知れない。もし、お願いするようなら連絡しますね」
お気をつけて、と宿を出た。
世界眼で王宮を確認する。こっちだな。
時計をみて、少し急がないと間に合わないなと少しだけ身体強化を駆ける。そのまま走った。
街の人たちをスイスイと避けて走る。
うん、良い時間な気がする。このまま行ければいいなぁ。
綺麗な街路樹に、整然とした石畳。でも、どこか息苦しいんだ。権力を振りかざす馬車が我が物顔で通り過ぎ、庶民が肩を狭くして歩いている。……ふん、ここの魔物を掃除する前に、この空気もなんとかしたくなるな。
その後も、同じように駆けて、王宮の門にたどり着いた。
既に待っていたパトリオットが向かえてくれる。
「お疲れ様です、タケルさん。走ってこられたのですか?」
「そうだよ。軽く身体ならしだよ」
「素晴らしいですね。いくら何でもあの速度で走り続けるのは難しい」
そうかなぁ、と笑って見せた。
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【あとがき】
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