第47話 辺境伯を捕らえたら王宮に行くことになってしまった
「うぬぬ、たかが商人のくせに。お前らも売らねばならぬのだろう? ならば、私が買い取ってやろう」
「ふふふ、別に売らなくてもいいぞ。金には困ってない。それでも売るなら、探索者協会に売る」
何を! と叫ぶ領主は見苦しいな。
「あ、タケルさ……」
なに?
ウイル、切られたのか? なんで?
「ふむ。お前が承知せぬ故な、つれて来た此奴に責任を問う。やれ!」
このバカ領主!
やめろ!
とっさに結界を張り、ウイルとケビンを覆う。
「ケビン、傷はどうだ!」
「はい。背中をバッサリです。早くポーションか治療を!」
わかった、と縮地で結界に近づき、最高級ポーションを渡して、治療魔法をかけた。
ゆっくりと傷が治っていく。
見ていた騎士の意識が覚醒してこちらを見た。
「ケビン、あとはそのポーション使え。足りなきゃ言えよ!」
「はい!」
「お前、何やったかわかってるか? ウイルは関係ないだろうよ。あっちの男がウイルも同行しろと言ったから来ただけ。それをお前は……」
許さない!
<氷弾>
ドシュッと魔法が騎士の胸を貫いた。
そのまま後ろに倒れる騎士を見て、ゆっくりと振り返る。
辺境伯は拳を握ってフルフルと怒りをあらわにしている。
すると後ろの扉から魔法使いがたくさん出てきた。
ふうん。そういうことか。
「なるほどな。お前らの魂胆はわかった。じゃあ、俺も正面切って相手させてもらう。ハク、アレックス。適当にな。ニジはいつも通りだが、俺は剣を使うから気をつけろ」
『あるじぃ~、ハクのせなか、のしぇて~』
わかった、とハクの背中に乗せて結界を張った。
ハクは元の大きさまでググンとデカくなる。同時に騎士団が駆け込んで来た。
アレックスもハクと同じ大きさ程まででかくなり、俺の前に立つ。
「俺は騎士団を打つ。お前ら、へなちょこ魔法使いの相手を頼む」
応! と聞こえてストレージをタップすれば、俺の愛刀たちが装着された。
幸い、この部屋は運動場くらい広くて騎士たちが数十人暴れられるほどだ。これは俺にとっては僥倖といっていいだろう。
ウイルたちの結界は壊れることはない。チラリと視線を送れば、ケビンが大きく腕で丸を作った。
どうやら、ウイルは助かったみたいだ。
「さて、いこうか、騎士さんたちよぉ。俺は家族や知り合いを傷つけられると我慢ができない。やろうぜ、早く」
突撃! と聞こえたので、蒼竜刀をゆっくり引き抜く。そして、伴蒼刀も抜いた。
わーっと固まって駆けてくる騎士たちは、バカだ。動けないだろうに。
一瞬で近づいた俺は、鎧ごと騎士たちを切り裂いてゆく。本当に切れ味は最高だ。ありがとう、古竜。俺は今、とても嬉しいよ。
数十人の騎士たちは、十分もしないうちに全て倒れた。
振り返ると、ハクがあの男とやり合っているが、やつは全く対応できてない。ハクは男の四肢の動きを読み切り、逃げ道を一つずつ塞いでいた。。ニジは、領主の足下を氷弾で埋め尽くしている。これじゃ動けないよな。
未だに狙われている領主は、漏らしてくるくらい恐怖してる。貴族どもは? と見てみれば、結界に閉じ込められてるな。
とりあえず、ウイルの様子を見れば、どうやら気を失ったままだ。一度結界を張り直して、治療と回復を施せば、なんとか目を開けてくれた。
「さて、バカ領主。お前の処遇はどうするかな。そうだ、アレックス。そいつは活かしとけよ。命だけあればいいから、脚とか手はなくていいぞ」
「承知しました」
任せておこうか。
「主の慈悲に感謝せよ。命だけはあるのだからな」と言ったアレックスは一歩踏み出す。
「わ、悪かった! も、もう無理は言わないから、頼む! 助けてくれ! 頼む~」
「嫌だな。お前の一族は必要ないと思ってる。だが、一応聞いてからにする。他にはいないのか、攻撃するやつは」
「も、もういない。頼むから……」
無言のまま結界で閉じ込める。
ウイルの結界を解除して様子を見る。
鑑定しても全回復だな。
「国王に連絡してくれ。バカ領主を殺していいのか」
わかりました、とウィルは通信用水晶を取り出していた。
はぁ、つまんないな。
戻って来たハクとアレックス、ニジだが。
あまりに弱すぎて話にならないとぼやいている。まあ、そうだろうなぁ。
「なあ、ハク。この国の王都は知らないか?」
「知ってるよ。こっそり王宮の上を飛んでみたことがあるんだ。それがなに?」
「いや、あの男、つれて来て欲しいって言ってたからさ。空を進んでもいいけど、あいつをぶら下げてと言うわけにはいかないだろ?」
移動手段が面倒だな。さて、どうするか。
それなら、やっぱりつるしていくか。
「タケルさん、こちらへ」
どうやら国王らしい。
『タケル。誠に申し訳ないのだが、領主とその男を王宮へ連れて来てはもらえまいか。正式に王宮で処刑する。そうでなければ、憶測が飛び民が不安になろう。こちらから、捕縛の布令は出す故頼めぬか?』
そういうことか。
なぜ殺されたかもわからなければ領民は不安だよな。じゃあ、その方がいい。宰相、うまいことやったな。
「わかった。じゃあ、つれて行く。あと、ウイルとケビンという探索者協会の職員も連れて行く。映像録画の魔道具を使って保存しているらしいからな」
『おお、それはありがたい。では、何日かかるか?』
「今日にでも出発したいんだが、ウイル、ケビン、お前たちは大丈夫か?」
「え? ええと、着替えも何も持っておりませんが……」
「それはあっちで何とかするだろう、ただ、協会のことだ」
コクコク頷いてるぞ。
「どうやら大丈夫らしいぞ。それと、言っておくが、空を飛んでいく。王宮の庭かなにか、あれば開けておいてくれ」
「主。ならば私が飛びます。他のものは空間に入れてください。犯罪者は檻に入れたなら、つかんで飛びます」
そうか、それがあったか。
「国王、ドラゴンで行く。だからかなりの広さを開けてくれ」
『ど、どらごん……あいわかった、宰相、タケルの言うとおりにな』
「御意」って聞こえたぞ。
じゃあ、とウイルに水晶を返して振り向く。
「アレックス、申し訳ないけど頼むよ。俺はお前の背に乗る。ハクとニジは空間にいてくれ。ウイルとケビンと一緒にな。ハク、どれくらい時間がかかる?」
「そうだね、アレックスならば三刻ほどかな」
そんなに早いのか?
およそ三時間か。もっと早い気もするけど、まあいい。今日でどれくらいの速さで飛べるのか、わかるだろう。
「タケルさん、こいつらはどうしましょうか」
「ええとな、この舘に犯罪者を護送する馬車とか、箱はないか?」
「あると思います、聞いてみます」
ドアを開けて出て行ったウイルが、執事を呼ぶ。そして事情を話した上で、代官を呼ぶように言った。
「ならば主。食べ物を出してほしい。私のアイテムボックスに入れておくから」
「わかった。何でもいいか?」
うん、と聞こえたので、ストレージを見ていくつか出した。量が足りないので、スーパーから揚げたての惣菜を取り出す。それなら、とドアの外にでて、アレックスに食べろとならべる。
ここでキャンプかよ、と自らに突っ込みながら蓋を開けてやった。
ニジがその蓋を食ってくれる。
ハクは、いろいろなものをアイテムボックスに入れているけど、俺はせっせと出しまくってる。
面白い絵を見たとでも言うようにケビンが呆れてる。当然、ウイルとケビンの分だと弁当もハクに渡した。
嬉しそうに頷きながら入れまくってるな。
アレックスにもできるだけ取り出して蓋を開ける。どんどん食っているけど、いつまで続くんだろう。まあ、ウイルが終わるまでだな。
ハクにはパウンドケーキもミルクも果実水も水も。考えられるものは全て入れた。
デカいボウルに水を入れてやれば、アレックスは、交互に食べて飲み、一応の腹は満足したらしい。肉ならあるんだけど、と言えばほしいと言う。それなら、オークの塊を取り出せば、一気にテンションが上がり、かぶり付いてた。まあ、赤ちゃんサイズじゃなくて、大人サイズだから食うよね。
そのまま放っておいて、ウイルを待つことにした。
「主、できればもうひとつ空間を作って、悪人はそこに入れればいいんじゃない?」
「え? 空間って、いくつも作れるのか?」
「問題ないよ。おそらく、主だったら望む数ほどできると思う。いらなくなれば消せばいいんだし」
なるほどな。じゃあ、やってみるか。
犯罪者を閉じ込める空間を作る。呼吸ができて温度は一定。広さは学校の教室くらいの広さで。
灯りはいらない。第十空間と名付ける。
<空間作成>
一瞬だけ光ったあと、俺の頭に第十空間と出た。中を確認してみたら本当に教室くらいだった。俺のいってることが伝わったんだろうな。
「ケビン、ウイルを呼んでくれ。犯罪者を入れる場所ができたって」
はい、とケビンは外にでて行った。
その間に、俺はバカ領主のところにいく。
「頼む、助けて、くれ……」
そんなこと知るか。
そのまま第十空間に放り込む。当然縛ってるけど。その後、あの男のところに行った。気を失っているので、そのまま放り込んだ。というか、二人ともハクが襟を咥えて放り込んでくれた。あはは、さすがに重いからね。
息を切らして戻って来たウイルたちだけど、どうやって? と聞くので後でハクに聞いてくれと言っておく。あと、着替えだと貴族用の服があったので、ウイルに渡した。ケビンにも、貴族用ではあるが平服を渡しておいた。上から下まで、そして靴もね。
どうやら協会への連絡は途中でするらしい。ここの代官には、事情を話してその間を頼んでくれた。ウイルもよく知っている人間だというので、信用しておくか。
そこで俺の空間を開いて、中に入ってもらう。一応、浄化したけど、ウイルたちには風呂に入っていいぞと言っておく。ハクたちも、入るなら長時間はダメだと釘を刺しておいた。
じゃあ、行くかな。
世界眼で探せば、マップに王都が出た。
あっちの方角だと言えば、空に上がってまた指示をしてくれという。
俺とアレックスは階段を降りて騎士たちの修練場にたつ。
そこには、代官がいた。そして深々と頭を下げた。
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【あとがき】
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