生焼け
夏が来る。
生ぬるい風が不安定な心を誘う。じっとりとした汗が首筋に、髪に張り付く。こんなに幸せなのに何処か不安になるのは、急に暑くなったからだ。あの子のたった一人の女になりたいなんて。あまりに他人の人生を軽んじているだろうか。奪ってきた時間の重みに押し潰されそうだ。いつになればこの子に相応しい「大人」になれる?
それでも好きにならずにはいられなかった。
どうしても手に入れたかった。誰かの物になるなら、あたしの物になって欲しかった。
初夏の太陽はジリジリと焦がすでもなく、生焼けの心を傷つける。髪を纏めて、あたしは伸びをした。まだ5月なのに30度近い地球は馬鹿みたいだ。こんな感傷に浸るのも暑すぎるせいで。早く家に帰りたい。新たなコネクションを、と思ってこの地に来たがどうも駄目だ。このままでは生焼けのまま腐ってしまう。汗にほんのり濡れた肌が触れあって、年甲斐もなく初な心臓が早くなる。
生焼けだった心がこの子にあてられて、腐らずにいられそうだ。なんて狡い太陽だろうこの子は。若くて、煌めいていて、眩しいくらいだ。愛してるでは、この世界に存在する言葉では届かないくらい、遠くて熱い。可愛いあたしの太陽、あたしの人生はこの子を中心に回っている。こうして触れあっているのが幸せで。だからこそ不安になる。いつか終わるのではないかと。終わらせる日が来てしまうのではないかと。嘘ならばこのままでいて、夢ならば覚めないで。あの子があたしの膝から離れて、隣に座った。可愛らしい重みが無くなって少し寂しくなる。
夕焼けになった初夏の陽が、あの子の白い肌に映える。このまま2人の時間を過ごしたいが、仕事があるのだ。今回、ここには遊びに来たわけではない。いつの間にか不安な気持ちは何処かに行ってしまって。いつだって最後に残るのはこの子を好きだと言う気持ちだ。こんなに遊ばれて、帰ったらどうしてやろうか。甘い胸騒ぎと共にあたしは髪を下ろして、クローゼットからスーツを出した。
あの子も連れていくつもりだ。あたしの側に居させるのは虫除けである。あたしがこの子を大切にしていると分かれば、迂闊に手を出す奴はいないだろう。あたしが何時もこの子を仕事にも連れ歩くのはその為だ。敵の奴らを何だと言うが、大概あたしも職権乱用である。あの子に可愛らしい服を着せて、見せつけるのが好きなのだ。
あたしの物になった気がして。
初夏の陽が斜陽がかって、影を長く伸ばしている。何時か手放さなければならないのか、一生手の中で囲うか。どちらも若いあの子には可哀想な道だ。あたしだけしか知らない。しかし、それに喜びを感じているあたしもいる。
着けたパールのネックレスは、あの子のそれとデザインは違うが、同じ産地の同じ色のパールを使っている。こうして自分の物としたい気持ちを押さえられないあたしは、悪い大人である。手ずからネックレスを着けてやれば、さながら首輪だ。
「お揃いね」と嬉しそうに。
首輪にしていること何て知らないで。




