第44話 高級唐揚げ
「え、エレオノーラ……!?あなたまでどうして」
「アリエラ様がご自宅を改装されたと聞き、馳せ参じました!さあ、ご覧ください。これは教会が総力を挙げて手配した、神聖な『天馬の霜降り肉』と、伝説の『霊峰の幻草』です!これら清らかな食材こそ、神の剣たるアリエラ様にふさわしい……!」
招かれてもいないのに、エレオノーラがうっとりとした表情で、見たこともないような美しい超高級肉と、淡く光る薬草を大量に披露する。
〈おおおっ!なんだあの極上の肉と美味そうな草は!よしアリエラ、今日は無礼講だ。あの高級食材を使って、究極のジャンクフードを作るぞ!〉
(ジャンクフード……。ええ、腕が鳴るわね!)
アリエラはエプロンを締め、白銀の大剣ではなく新調した包丁を握りしめた。
俺の指示が飛ぶ。
〈天馬の肉は厚切りにして、醤油とニンニク、たっぷりの香辛料で揉み込め!それを小麦粉にまぶして、油で一気に揚げるんだ!極上の『超高級肉の山盛り唐揚げ』だ!〉
ジュワァァァァッ!!
鉄板と巨大な鍋から、暴力的なまでに食欲をそそる油とニンニクの匂いが中庭いっぱいに広がる。
「な、ななな、何をされているのですかアリエラ様ぁっ!」
エレオノーラが血相を変えて叫んだ。
「神聖なる天馬の肉を、そのような下品な油と匂いの強い根菜まみれにするなど……!ああ、神よ、この背徳的な光景をお許しください……!」
エレオノーラは膝から崩れ落ち、祈りのポーズを取り始めた。
だが、出来上がった山盛りの唐揚げが彼女の前にドンッと置かれると、その強烈な香気に彼女の鼻がピクピクと動いた。
「騙されたと思って、一口食べてみなさい」
アリエラが静かに勧めると、エレオノーラは震える手で唐揚げを一つ摘み、恐る恐る口へと運んだ。
サクッ。ジュワァァァ……。
「……っっっ!!」
エレオノーラの瞳孔が開き、そのままエビ反り状態で後ろへバタリと倒れ込んだ。
「エ、エレオノーラ!?」
「ああ……見えます、天国が。神聖な肉の旨味と、暴力的な脂の快楽が、私の脳を直接殴りつけてくる……。なんという背徳、なんという至福……アリエラ様、もう一つ、もう一つだけお恵みをぉぉ……!」
涙を流しながら唐揚げに手を伸ばすエレオノーラを見て、宴会の片隅ではガルブレイスとクロードが腹を抱えて大笑いしている。
「フハハハッ!相変わらずアリエラの作る飯は、人間を駄目にする美味さだな!」
「全くだ!あいつの剣には隙がないが、飯の美味さに関しても一切隙がないな!」
かつてはアリエラに突っかかっていたクロードと、因縁のあったガルブレイスが、互いの立場を越えてすっかり意気投合し、酒を酌み交わしている。
「ワンッ!ワゥワゥ!」
その騒ぎの足元で、マスコットのクロワッサンが、こっそりと唐揚げの盛られた大皿に近づき、つまみ食いをしようとしていた。
「あっ、クロワッサン!」
リコがすかさず声を上げる。以前なら「つまみ食いはダメです!」と怒るところだが、今日のリコの表情はいつになく優しかった。
「……ふふっ、今日はお祝いですからね。いくらでも食べていいですよ。でも、熱いから気をつけてくださいね!」
リコが唐揚げを小さくちぎってフーフーと冷まし、クロワッサンの口へ運んでやる。
クロワッサンは嬉しそうに尻尾をちぎれんばかりに振り、ハフハフと美味しそうに頬張った。
(みんな、本当に楽しそうね……)
アリエラは、定食屋風のカウンターの奥からその光景を眺め、これ以上ないほど穏やかな笑みを浮かべていた。
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中庭は、かつてないほどの熱気と笑顔に包まれていた。
王都の筆頭神官、カウナスの豪商、帝国直属の剣豪、歴戦の大盾使い、元義賊の獣人に、不器用な薬師の少女。
身分も立場も全く違う者たちが、一つの食卓を囲んで肩を組んで笑い合っている。
前代未聞の大宴会だ。
アリエラは、その騒ぎの中心で満面の笑みを咲かせていた。
かつて、他者を拒絶し、孤独に魔獣の生肉をかじっていた氷の剣聖の面影は、もうどこにもない。
「いやぁ、アリエラ殿の料理の腕前には、本当に恐れ入る!」
オズボーンがワインの入ったグラスを掲げて上機嫌に笑う。
「全くだ!この唐揚げという料理、いくらでもエールが進むぞ!」
ガルブレイスも豪快に笑い、横でクロードが「フッ、俺のほうが美しく唐揚げを食しているがな!」と意味不明な対抗心を燃やしている。




