第43話 リフォーム
四天王ゼルギウスの討伐、そして『神の肉体生成ポーション』の全容解明。
怒涛の出来事を終え、俺たちはアリエラの拠点である帝都の屋敷へと戻ってきていた。
ガチャリ、と重い木の扉を開けるアリエラ。
「さあ、入って。何もないところだけれど」
「お邪魔するにゃー!」
「お、お邪魔します!」
元気に飛び込んだチェルシーとリコだったが、次の瞬間、二人の動きがピタリと止まった。
「……にゃ?アリエラ様、引っ越してきたばかりにゃ?」
「えっと……家具は、これから届く予定なんですよね?」
二人が部屋をぐるりと見渡し、引きつった笑いを浮かべる。
それもそのはずだ。俺が初めてこの部屋を見た時と同じように、そこには生活感というものが一切存在しなかったからだ。
無骨な武器や防具が置かれているだけで、花の一輪も、可愛らしい小物も、くつろげるソファさえない。
「いえ、ここにはもう何年も住んでいるわ」
アリエラが平然と答えると、チェルシーが頭を抱えて叫んだ。
「嘘だにゃ!勇者様の部屋が牢獄みたいにゃ!」
「そ、そうです!女の子の部屋に花の一輪もないなんて、こんなの絶対にいけません!」
二人の勢いに、アリエラがたじろぐ。
(牢獄……。私としては、機能的で無駄がなくて気に入っていたのだけれど)
〈いや、どう見ても牢獄だろ。よし、オズボーンの旦那から得た莫大な売り上げ金があるんだ。この際、徹底的にリフォームしようぜ!〉
俺の提案に、アリエラが自ら申し出る形でチェルシーとリコも大賛成し、帝都の職人たちを巻き込んだ突貫リフォーム大作戦が幕を開けた。
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その後、殺風景だった部屋は、温かみのある木製家具やふかふかの絨毯、観葉植物が配置され、見違えるほど生活感のある空間へと生まれ変わった。
だが、問題は厨房だった。
〈いいかアリエラ!厨房は広ければいいってもんじゃない。導線が命だ!ここに巨大な鉄板を埋め込んで、対面にはカウンター席を作るんだ!それから、大火力の釜土を三つ並べて……〉
(カウンター席に、巨大な鉄板……。ええ、あなたの言う通りに職人に手配したわ。これでいいのかしら)
アリエラは俺の熱い要望を全て鵜呑みにし、真剣な顔で職人に指示を出していた。
出来上がったのは、一般家庭の台所ではなく、どう見ても下町の活気ある『定食屋』の厨房ほどの規模になってしまった。
「……アリエラ様、なんで家にこんな立派なカウンターと鉄板があるにゃ?ここで食堂でも始める気にゃ?」
「調理器具も、一人暮らし用にしては大きすぎますし……まるで、誰かがここで本格的に商売を始めるみたいですね」
チェルシーとリコが不思議そうに首を傾げる。
その言葉に、アリエラはハッと我に返った。
(わ、私、将来ショーヤンが実体化したとき用の部屋や調理器具を、無意識に……っ!)
アリエラの顔が、みるみるうちに沸騰したように真っ赤に染まっていく。
「ち、違うわ!これはその……今後の過酷な旅に備えて、一度に大量の保存食を作るために必要な設備よ!誰か住む予定があるとか、そういうのじゃないから!」
「にゃ?あたしたち、誰か住む予定があるんですかなんて、一言も聞いてないにゃ?」
チェルシーがニシシと意地悪く笑うと、アリエラは「と、とにかくこれでいいの!」と顔を手で覆ってしゃがみ込んでしまった。
〈おいおい、顔が真っ赤だぞ。でも、最高の厨房を作ってくれてありがとな。俺が受肉した暁には、ここで極上の定食を振る舞ってやるからな〉
(……ええ。絶対に、約束よ)
アリエラは火照る頬を抑えながら、嬉しそうに心の中で頷いた。
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そして今日、リフォームの完了とゼルギウス討伐を祝うため、アリエラ家の中庭で大宴会が開かれることになっていた。
「おお、これは見事な中庭ですな!我が商会から、最上級のエールとワインを取り寄せておきましたぞ」
「おう!俺たちも要塞から駆けつけたぜ。今日は飲むぞ!」
豪商オズボーンとその仲間たちが大量の酒樽を引き連れて現れ、フォルタ要塞からは大盾使いのガルブレイスと炊事番長のマルコおじさんが合流した。
「にゃははっ!今日はアリエラ様の手料理が死ぬほど食べられるにゃー!」
「はいっ!胃もたれしない薬はバッチリ調合してありますから!」
チェルシーとリコも、新設されたカウンター席に座って浮き足立っている。
そこへ、バンッと中庭の門が乱暴に開かれた。
「フッ、この俺を差し置いて祝宴とはいい度胸だな、アリエラ!」
相変わらず太陽の光を反射してギラギラと輝く金髪を揺らし、帝国直属の剣豪クロードが現れた。
彼は全く招いていないにも関わらず、当然のような顔をして席につく。
(……また面倒なのが来たわね。どうして彼がここを知っているのよ)
〈悪い奴じゃなさそうだし、まあいいじゃないか。あいつもすっかり、お前の料理の虜みたいだしな〉
俺が苦笑していると、さらに門の外から仰々しい声が響き渡った。
「道を空けなさい!アリエラ様への『聖遺物供給任務』、このエレオノーラが直々にお持ちいたしました!」
純白の法衣を纏った筆頭神官エレオノーラが、数人の神官たちに巨大な荷車を引かせて登場したのだ。




