↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類の罪  作者: 華
幸せの形
98/128

糸の先

「おおーー、いい天気〜」

窓の外には、青い空と海がどこまでも広がっている。


出航まであとどのぐらいかなぁ〜。楽しみだなぁー。


「……きさん!」


海の上を飛んでいる鴎を目で追う。いいなぁ〜。気持ちよさそうーー。


「正樹さん!」


「ふぇ?」


声の方向を向けると、縛が怒ってる。


うん。反省してます。

でも、迷子になるのは俺でもコントロールできないよ。


「聞いてますか?」


「聞いてるよ。」


「では、僕が今なんと言ったか言ってください。」


「…………。」


俺は再び空を見る。いい天気だなぁ〜。


「聞いてないですね。」


縛が深いため息を吐く。


「はぁー……本当、付けといてよかった。GPS。」


「……ちょっと聞き捨てにならないのだが?」


俺はとんでもない事を聞いた気がする!


「え? なんの事ですか?」


いつもの縛だ。いや、でも絶対言った気がする!


縛は何事もなかったかのように歩き出す。


俺はその後ろを追いかける……足長いのでずるい!!


「いや、今GPSって……。」


俺が言うと、縛は自分の腕時計をとんとんと指差しながらこっちを向く。


「避難訓練に遅れますよ。」


「…………。」


これ絶対言わないやつだぁ。まあ、いっか。


俺は考えるのをやめる事にした。


絶対縛が怒っているからじゃない。


「早く来てください。」


縛は歩くのを止めて、俺を待ってくれる。


「はいはい。」


「返事は一回。」


「はーい。」


「伸ばさない。」


「はい。」


………厳しい。


縛の近くに行くと、ぐいっと顔を寄せられ、思わずドキッとする。


うぉ、イケメンの至近距離。


そしてそのまま腕を掴まれ、長い廊下を歩いていく。


右行ったり、上行ったり、左行ったり、上行ったり、またもや右行ったり、右行って、下行って………これ迷子にならない方が難しくない?


俺は複雑な道筋に眉間に皺を寄せる。


そして、しばらくすると大きな扉の前で足を止めた。


「おかえりなさい。」


そう言うと、船員さんが扉を開ける。


「…………ただいま?」


「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


縛に引っ張られながら中に入る。


…………。眩しい。


普段の俺なら、ここで叫んでいたと思う。


天井には大きなシャンデリア。


綺麗に並べられたソファに、海を一望できる大きな窓。


壁に飾られている絵も、置かれている物も、全部高そう。


きっといつもの俺なら、高額な物達に身をガタブルさせながら、


オカネモチコワイ


って言っていただろう。


でも今の俺に、そんな元気はない。


なんでかって? コワイから。


俺は縛に腕を掴まれたまま、無言で部屋の中を歩く。


……………。


「ぶっ……!」


ん?


聞き覚えのある笑い声がする。


顔を上げると、先に来ていた道徳が口元を押さえていた。


その隣では、なぜか柊木さん達も俺を見ている。


「………。」


俺は何も言わず、じっと道徳達を見つめる。


「いや……っ、すみません。」


道徳がパッと顔を逸らす。


肩が震えている。


「笑ってんじゃん!」


「だって……先輩、連行されてるみたいで……。」


「何も悪い事してないよ!」


「迷子になったんですよね?」


「迷子になりたくてなったんじゃない!」


あたかも俺が自分から迷子になったみたいな言い方で!!


「お客様。」


ピクッ。


船員さんの声が聞こえる。


「他のお客様もいらっしゃいますので、お静かにお願いいたします。」


「…………はい。」


俺は大人しく椅子に座る。その隣にはもちろん縛がいる。


縛を見ると、口元に指を当てて、しーと言っている。


なんで俺だけ……。悪くないのに……。


いや、迷子になった俺が悪いのか?


でも、なりたくてなったわけじゃないし。


俺がふてくされていると、船員さん達が部屋の前方に集まり始めた。


ん? なんだぁ?


「それでは、これより避難訓練を開始いたします。」


船員さんの説明とともに、船内に警報音が響く。


おぉー! 本格的。


最初に説明されたのは、緊急時に鳴る警報。そのあと、避難する時の経路や集合場所、救命胴衣の着用方法について説明を受ける。


俺も椅子の下に置かれていた救命胴衣を手に取る。


頭から被って、前の紐を――。


「正樹さん、逆です。」


「ん?」


あ、縛に救命胴衣を取られた。


「こっちが前です。」


おぉ〜、そっちが前かぁー。


「知ってたよ。」


そう、3秒前に知ったから知ってたに入る!


「そうですか。」


「…………。」


………見抜かれてる気がするー!


救命胴衣を着け終わると、船員さんが全員の装着状態を確認していく。


「緊急時には、乗組員の指示に従い、指定された避難場所まで移動してください。エレベーターは使用せず――」


俺は真面目に説明を聞く。


今回はちゃんと聞いてる。


本当だよ。


命大事だから。


何かあったら怖いもん。


一通り説明が終わると、俺達は船員さんの案内で部屋を出た。


長い廊下を歩き、外へ出る。


海風が一気に吹き付けてきた。


「おお〜!」


目の前には、白くて大きな救命ボートが吊り下げられている。


いやー! こんな大きいのに全然気付いてなかったなんて!!


「こちらが緊急時に使用する救命艇となります。」


船員さんが説明を始める。


ふぇ〜。思ったよりでかい。

もっと小さいボートみたいなのを想像してた。


「本日は安全確認を兼ねまして、実際に内部へ入っていただきます。」


「乗れるんですか!?」


俺は思わず声を上げる。


「はい。ただし、乗組員の指示に従ってください。」


「はい!」


さっきまでのモヤモヤは一気に晴れた。


「正樹さん。」


「うん、分かってるよ!」


船員さんが救命艇の扉を開ける。


「それでは、順番に――」


「はい!」


俺は一番最初に手を挙げる。


「なんでこういう時だけ元気なんですか。」


後ろから縛の声が聞こえた。


だって救命ボートだよ? 乗る機会なんて普通ないじゃん!


船員さんに案内され、俺は救命艇の中へ足を踏み入れる。


「おぉ〜! すごい! ドラマみたい!」


中にもちゃんと座席がある。思ってたより広いなぁー!


俺が奥を覗こうとした、その時だった。


ギィ……。


何かが軋むような音がする。


「……ん?」


上を見る。……なんにもないけど?


次の瞬間。


ブチッ!!


大きな音が響いた。


「うぉ?」


救命艇が大きく傾く。


「正樹さん!!」


身体が浮いた。


何かに掴まろうと手を伸ばすが、届かない。


視界がぐるりと回る。


ゴンッ!!


頭に強い衝撃が走った。


「っ……。」


縛の声が聞こえる。


船員さん達の叫び声も。


でも、だんだん遠くなっていく。


視界が暗くなる。


そして――


何も見えなくなった。


『――昔々、二人の子どもがおりました。』


声がする。誰だろう。


ゆっくり目を開ける。


そこには、知らない部屋があった。


柔らかい光が窓から差し込んでいる。


何人もの子ども達が床に座り、一人の男性を囲んでいた。


男性の手には、一冊の大きな本。


『二人は、同じ日に、同じ場所で生まれました。』


男性がページをめくる。


描かれているのは、よく似た二人の子ども。


双子……?


『昔から、双子には不思議な力があると考えられていました。』


子ども達が静かに男性の話を聞いている。


『ある国では幸せを運ぶ存在として。ある国では神様から遣わされた特別な存在として。』


ペラッ。


ページがめくられる。


『だけど、別の場所では恐れられることもありました。』


「どうして?」


一人の子どもが聞く。


男性は本から顔を上げた。


『同じ日に、同じ母親から、二人の人間が生まれる。それを不思議だと思った人達がいたからだよ。』


「ふーん。」


子どもは分かったような、分かっていないような顔をする。


周りの子ども達が笑った。


男性も小さく笑う。


そして、もう一度本に目を落とした。


『だからね。双子のお話は、世界中にたくさん残っているんだ。』


「この二人は?」


別の子どもが絵を指差す。


男性はそのページを見る。


しばらく何も言わなかった。


そして――


ゆっくりと本を閉じる。


『この二人のお話は、また今度。』


「えーー!」


「今聞きたい!」


「もう少しだけ!」


子ども達の声が部屋いっぱいに響く。


男性は困ったように眉を下げる。


でも――


その顔は、とても優しかった。


『ふふっ。仕方ないなぁ。』


男性はそう言って、


優しく笑い、目の下にあるホクロがやけに印象に残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。