しろきアイス泥棒
「よしっ! アイス食べ終わったから、先にお土産買いに行こうー!」
俺がキャリーケースを片付けながら話すと、やっと3分の2くらいのアイスを食べ終わった縛が振り返る。
「なんですか?」
ベランダに出ているからか、部屋の声が聞こえづらいらしい。
「このあと買い物行こうー!」
俺はベランダに顔を出し、縛に声を掛ける。
「分かりました。」
そう返事をした縛が前に向き直すと、白い影が縛の前を通って行く。
俺は白い影を目で追う。
すると、ソラが縛の持っていた大きなアイスを海に落とし、口に咥えていたコーンを食べていた。
「………僕のアイス。」
………どうやら、ソラが泥棒になっていたらしい。
コーンを食べ終えた空は、そのまま俺の方に飛んで来る。
ん? まって。
「!ソラ!! ここガラスがあるぞ!」
俺がそう言い終わる前に、ソラはガラスにぶつかり、そのまま気絶してしまった。
あちゃ〜。
「僕のアイス。」
まだ自分の手を見つめながら落ち込んでいる黒わんこの背中を見ながら、俺は声を掛ける。
「縛、ソラがガラスにぶつかって落ちてしまった。」
そう声を掛けると、縛は椅子からすぐに身を起こし、ソラの所に来る。
そして、ソラを両手で抱えると、そのままベッドの上に乗せた。
「ちょっと電話して来ます。」
縛はそう言うと、部屋を出て行った。
「お、おい!」
またもや声を掛ける前に出てしまった。
今日の俺は、とことん一歩遅いらしい。
にしても、こんなに近くでじっくりソラを見るの久しぶりだなぁ。
俺はベッドで寝ている白いカラスを見つめる。
艶々だなぁ。
毛並みもすごくいいし、やっぱりどこかで飼われているのか?
でも、いつも外で会うのよなぁ〜。
そう思いながら、俺はソラを撫でる。
「お待たせしました。」
「おかえり〜。ソラどうする?」
俺がそう言うと、縛はカゴを取り出し、中にクッションを入れる。
「さっきカゴを借りてきたので、この中にソラ様を入れましょう。」
「お、おー。カゴありがとう。」
ソラをカゴに移し終えると、部屋のチャイムが鳴った。
「はぁーい。」
俺はそのままドアに向かう。
扉を開けると、そこには白衣を着た小鳥遊さんが立っていた。
「お待たせしました。こちらで怪我をしたカラスがいると伺って来ました。」
小鳥遊さんはそう言いながら俺の顔を見る。
「…………」
「…………」
小鳥遊さんの顔が、徐々に固まっていく。
「アレ? マサキクン?」
なぜか急に片言になった。
小鳥遊さんの問いかけに、俺はうんうんと頷く。
「え? こんな所で何しているのですか?」
俺が聞き返すと、小鳥遊さんは自分の頭をボリボリと掻きながら説明してくれた。
「田中先生からのご依頼だよ〜。急遽、船医の代わりを頼まれてね。」
「田中先生ですか?」
「そうそう〜。まぁ、詳しい事は仕事だから言えないけど、正樹がここにいるのは驚いたよ。」
小鳥遊さんがそう言うと、へらっと笑う。
「いつまで玄関にいるのですか? 仕事してください。」
待ちきれなかったのか、縛はカゴに入ったソラを連れて来た。
小鳥遊さんはカゴの中を覗き込む。
「……これはこれは。これもまた縁なのか?」
小鳥遊さんはソラをじっくり見た後、今度は俺の顔をじっと見る。
「……?」
なんだ?
小鳥遊さんは何も言わず、再びソラに視線を戻した。
「ふふ。あれ? この子、やっぱり野生だからちょっと細いね。」
小鳥遊さんはカゴからソラをそっと抱き上げると、目や頭の辺りを確認していく。
「目立った外傷はなさそうだね。ぶつかった衝撃で、一時的に目を回してるのかなぁ〜。」
「大丈夫なんですか?」
「うん。今のところはね〜。」
そう言うと、小鳥遊さんは白衣のポケットに手を入れ、何かを取り出した。
「はい、栄養剤。ちょっと細いから、しばらく様子を見てあげてね。」
そう言うと、ソラの横に栄養剤を一本置く。
そして、なぜか俺の頭を撫でながら、縛に栄養剤の使い方を説明し始めた。
……なぜ俺の頭を撫でる。
「じゃ、またね〜。」
最後まで俺の疑問に答えることなく、小鳥遊さんは部屋を後にした。
「………。」
縛を見る。
大変だ。
扉を見ながら中指を立ててる。
なんてことだぁ。
ピッピッピッ。
「ん?」
アラームが鳴り、俺はiPhoneを取り出す。
画面を見ると、避難訓練場所へ向かう時間になっていた。
「うぁ! ちょっ! 縛、行くよ!」
俺は縛の背中を押しながら部屋を出ようとする。
しかし、縛に止められた。
「正樹さん、落ち着いてください。せめてこの子を休ませてあげないとですよ。」
そう言うと、縛はカゴの中で眠っているソラをチラッと見る。
「あ、そうだよね。ごめんごめん。焦ってしまった。」
「大丈夫ですよ。避難訓練は逃げませんから。」
「そうだよね、はは。」
この時の俺は、まだ知らなかった。
まさかこの後、本当に避難訓練から逃げたくなるような事件が起きるなんて。




