↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類の罪  作者: 華
幸せの形
95/127

まるでプロ

道徳達と離れて、俺達はクルーズ船に乗船した。


扉を潜ると、煌びやかな船内が現れた。

天井には大きなシャンデリア。床には紅い絨毯が敷かれている。よく見ると、あっちこっちに飾ってある置物も高額そうに見える。


俺が口をあんぐり開けて見ていると、縛が静かに俺の顎を閉じた。


「ようこそ、東雲様、佐伯様。良い旅をお過ごしいただけるよう、ご案内させていただきます。佐藤でございます」


声がする方を見ると、シルバーグレーの髪をしたおじさんが立っていた。


「お荷物、お預かりいたします」


佐藤さんは縛から荷物を預かると、ワゴンに乗せる。


……あれ?ここホテルだっけ?


と思うぐらい、見覚えのあるワゴンだった。


「佐伯様のお荷物もお持ちいたします」


そう言うと、俺に手を差し出す。


ん?俺、荷物どこだっけ?


キョロキョロしていると、縛が俺の後ろにあるキャリーケースを佐藤さんに渡す。


あった。いや〜、いつの間に後ろに置いたのか自分でも覚えてないや。


「それでは、お部屋までご案内いたします」


そう言うと、佐藤さんは近くにいた船員に声を掛け、ワゴンを渡す。


「お待たせいたしました。では、お部屋へ向かう前に、船内の設備などを簡単にご紹介いたしますね」


俺は佐藤さんの言葉にうんうんと頷きながら、目新しい船内を見てキョロキョロする。


「こちらが、船内で24時間お飲み物を提供しているバーとなります。隣にございますのはソフトクリームマシンです。ご自身でお作りいただくこともできますが、難しい場合はバーのスタッフにお声掛けください。こちらでお作りいたします」


へぇー。


24時間飲める上に、ソフトクリームまで食べ放題なのか。


「では、次に参りましょう」


佐藤さんはそう言うと、歩き出す。


俺もその後に続く。そのとき、佐藤さんがふと立ち止まり、にこやかに付け加えた。


「なお、1時間後に避難訓練がございますので、必ずご参加ください」


「えっ」


思わず間抜けな声が出た。


避難訓練って、こんな豪華な船でもやるのか。


へぇー、知らない世界だわぁ。

…………。


……縛さん?


何をしていますかね?


なかなか縛が来ないから後ろを振り向くと――


なんと早速、ソフトクリームを巻いていた。


しかも、めちゃくちゃ真剣な顔で。


縛は小さなソフトクリームを作り終えると、俺に差し出してくれた。


「ありがとうー!」


まさか俺にくれると思わなかった!!


俺が受け取ると、縛は頷き、そのまま新しいコーンを手に取る。


そして、再びソフトクリームマシンのレバーを下げた。


おーー。巻くの上手だなぁ。


綺麗にぐるぐると巻かれていく。


……ん?


まだ巻くの?


ぐるぐる。


ぐるぐる。


……どんどん高くなってきた。


俺は自分の手元にある小さなソフトクリームを見る。


そして、縛が作っているソフトクリームを見る。


もう一度、自分のを見る。


…………。まさか。

このソフトクリーム、マシーンを確かめるための練習用?


俺にくれたんじゃなくて、試しに巻いただけだったのか?


縛に聞こうと顔を上げる。しかし、あまりにも真剣な顔をしていたから、俺は言葉を飲み込んだ。


本当、甘いものに命かけてるなぁ。


…………あっ。


佐藤さん!俺はようやく佐藤さんの存在を思い出し、慌てて周りを見る。


佐藤さんは少し離れたところで、ニコニコしながらこっちを見ていた。


「すみません! 食べながら行きますので、もう少し待ってください」


「承知いたしました。よろしければ、お飲み物をご用意いたします。こちらに腰を掛けてお待ちください」


「えっ、いいんですか?」


「もちろんでございます」


なんて優しいんだ。


俺は勧められるがまま椅子に腰を下ろす。


その間にも縛は、黙々とソフトクリームを巻き続けていた。


どこまで高くする気なんだろう。


しばらくして、ようやく縛がレバーから手を離した。


「お待たせしました」


振り返ると、そこには見事なソフトクリームを持った縛が立っていた。


「…………でか」


俺の三倍ぐらいあるんだけど。


縛は満足そうに自分のソフトクリームを眺めている。


「……それ、食べきれるの?」


縛は何を当たり前のことを、とでも言いたげな顔で頷いた。


本当、甘いものに命かけてるなぁ。


「それでは、参りましょうか」


佐藤さんが何事もなかったように立ち上がる。


「はい!」


俺も立ち上がり、ソフトクリームを一口食べる。


うまっ。


濃厚なのに、後味がさっぱりしている。


さすが豪華客船。


ソフトクリームまで違うのか。


そんなことを考えながら歩き始めると、佐藤さんが船内を案内してくれる。


レストランに、カフェ。


大きな劇場。


プールに、ジム。


ゲームセンターまである。


船の中だよな、ここ?


もう一つの街じゃん。


そして、エレベーターに乗り、俺達の部屋がある階へと向かう。


「こちらでございます」


佐藤さんが一つの扉の前で立ち止まった。


縛がiPhoneをかざす。


ピッ。


扉が開いた瞬間――


俺は固まった。


「…………」


広い。


いや。


広すぎる。


大きなベッドに、ソファ。


テーブルまで置いてある。


奥には大きな窓があって、その向こうには海が広がっていた。


しかも――


「ベランダあるじゃん!」


思わず窓際まで走る。


扉を開けて外へ出ると、潮風が一気に吹き込んできた。


「うわぁ……」


目の前いっぱいに広がる海。下を見ると、港がかなり小さく見える。


すげぇ。


本当に海の上のホテルだ。


俺が景色に夢中になっていると、後ろから縛もベランダに出てきた。


もちろん、巨大なソフトクリームを持ったまま。


「……まだ食べてたの?」


縛が無言で頷く。


いや、溶ける前に食べきれるのか、それ。


「お荷物は後ほどお部屋までお届けいたします」


部屋の中から佐藤さんの声が聞こえる。


「何かございましたら、客室内の端末よりいつでもお申し付けください。それでは、お二人とも良い船旅をお楽しみくださいませ」


「ありがとうございます!」


佐藤さんを見送る。


扉が閉まると、俺はもう一度部屋を見渡した。


「…………」


そして縛を見る。


「これ、いくらの部屋?」


縛がソフトクリームを食べながら、iPhoneを取り出す。


画面に表示された金額を見て――


俺は静かに目を逸らした。


「……見なかったことにする」


知らない方が幸せなことって、世の中にはあるんだなぁ。

俺は残っていたソフトクリームを口に入れながら、もう一度窓の外を見る。


これから、この船で数日間過ごすのか。


なんか――


めちゃくちゃ楽しみになってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。