守りたい時間
レストランでそれぞれが好きなものを注文し、食事を楽しんでいると、俺はふと思い出した。
「あっ、そういえば昨日バタバタしていて、みんなに共有するのを忘れていたんですが……双葉さん、どうやら俺に会ったことがあるみたいです。」
俺がそう言うと、縛は抹茶パフェを食べる手を止めた。
「……はい?」
驚いたように聞き返す縛。
柊木さんも目を丸くする。
「どういうことだ?」
「保護された時に乗っていた車で、俺を見たらしいです。」
「あー、そういうことか。」
柊木さんは納得したように頷く。
「でも、俺は警察に保護されたわけじゃないみたいなんです。」
「……はぁ? どういうことだ?」
そう聞かれ、俺は双葉さんから聞いた話を最初から説明した。
話を聞き終えた縛が、小さく息をつく。
「……謎ですね。」
俺も静かに頷いた。
「ますます分からなくなってきたなぁ。」
柊木さんはそう言うと、豪快にサンドイッチへかぶりつく。
俺も大人しくパスタを口へ運んだ。
……ラーメンは、宿にはなかった。
ピロン
ん?
俺はポケットからiPhoneを取り出す。
『双葉が落ち着いたから、今からそっちに行こうと思うけど、今どこにいる?』
稔さんからメールが来た。
『今、レストランにいます。』
『分かった。圭介を回収してからそっちに行く。』
あれ?
圭介さん、一緒にいなかったのかなぁ?
俺は不思議に思いながらも、みんなに双葉さんたちが来ることを伝えた。
少し心配そうな表情を浮かべながらも、しっかり頷く真美ちゃんと柊木さん。
結愛ちゃんはどうしたらいいのか分からないのか、少し挙動不審だぁ。
縛は相変わらず冷静な様子で、黙々とパフェを食べている。
俺も覚悟を決めて待つことにした。
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時間を遡ること、少し前。
俺は黒ワンコと正樹を見送った。
あれ、絶対俺に気付いてないなぁ。
「はぁー、まったく。傍観者でいるのも辛いなぁ。」
黒カラスのルールの一つ。
十四年前の事件の子ども達には、何も教えてはいけない。
このまま真実に辿り着いた時、あの子たちは果たしてどうなるのか。
心配でならない。
俺は双葉に出会った日を思い出す。
俺は四歳の時、忍野圭介となった。
稔のいる町へ引っ越したのも偶然だった。
今までのことを考えれば、自然に囲まれて静かに生きたかった。
もう誰とも関わりたくなかった。
特に、子どもとは。
だけど、この町に来たことが、俺の人生を変えた。
そして、双葉の人生も。
……いや。
きっと、正樹たち全員の運命も。
だからこそ――。
今度は俺たちが、あの子たちを守る番だ。
黒カラスは、決して表には出ない。
それでも俺たちは、ずっと見守り続ける。
十四年前に奪われた、あの子たちの未来を。
そう思っていると、背中を叩かれた。
「圭介、お待たせ。」
稔の声だ。
後ろを振り向くと、目がぱんぱんに腫れていた。
「ぐふっ。」
だめだ。
笑ってはいけない。
「腫れてるだろ。双葉もぱんぱんだ。」
そう言われて後ろを見ると、サングラスを掛けた双葉が立っていた。
「ここ室内だけど?」
「いいの!」
双葉はどこか吹っ切れたような表情をしていた。
「はいはい。……話せたのか?」
「あぁ、ありがとう。」
「話せてよかった。じゃ、レストラン行こう! 俺も腹ペコ。」
「そうだなぁ。カツ丼食べたい。」
「私はうどんがいい。」
そう言いながら歩き出した二人の背中を、俺は静かに見つめる。
この二人なら……きっと。
「圭介? 行くぞー。」
「はいはい。行きますよ。まったく、甘えちゃんなんだから。」
「はぁ? 違うし〜。」
俺たちは少しふざけながら歩き出す。
俺は、この時間を失いたくない。
せめて――真実に辿り着く、その日までは。




