託された思い
「あっ! 双葉さん、こっちこっち!」
俺が思わず大声を出すと、縛が慌てて袖を引っ張った。
「正樹さん! ここはプライベートな空間じゃないので、大声は出さないでください!」
……あっ。
ここ、高級ホテルだった。
今さら思い出した。
「ごめん。」
俺が素直に謝ると、真美ちゃんがくすっと笑う。
「お待たせしました。」
双葉さんがこちらへ歩いて来る。
……ん?
なんでサングラスを掛けてるんだ?
そう思って口を開こうとした瞬間、結愛ちゃんが慌てて俺の口を手で塞いだ。
「もごっ。」
「正樹くん。だめだよ。」
俺は小さく頷く。
……分かった。静かにする。
柊木さんは三人にメニューを手渡し、それぞれ好きな料理を注文した。
しばらくすると料理が運ばれてきて、俺たちは食事を楽しんだ。
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食事を終えた俺たちは、ホテルの一室を借りることにした。
そこで、双葉さんの答えを聞くために。
部屋に静寂が流れる。
皆の視線が双葉さんへ集まる中、彼女はゆっくりと息を吸い、意を決したように口を開いた。
「このネックレスを正樹くんに預けることにするわ。」
そう言って差し出されたネックレスを、俺は両手で受け取る。
双葉さんは、ほっとしたように微笑んだ。
「私も知っていることは、できる限り協力して伝えるわ。でも、一つだけお願いがあるの。」
「はい。」
「妹の所にも行くよね。」
「はい。行きます。」
双葉さんは少しだけ視線を落とし、ネックレスを見つめながら静かに口を開いた。
「妹の日菜を助けてほしいの。」
双葉さんが重たい口を開く。
「どういうことですか?」
「あの子、多分今でも事件を一番恨んでいると思うの。」
「なんで?」
「だって、あの事件がなければ、あの子は本当のお父さんとお母さんと幸せに暮らせていたもの。……だから、あの子はこの世界を恨んでいるんだわ。だから……あんなことになってしまうの。」
「双葉、あれはしょうがないよ。あいつが自分で選んだ道なんだから。」
圭介さんが痛々しい表情で言う。
「……俺は日菜の気持ちを理解できない。でも、いつか双葉の気持ちも分かる日が来ると思う。」
「いつか、分かり合える日が来るのを待ってるわ。でも、そのためにも、あの子には真実を知る権利があると思うの。なんとなくだけど、正樹くんに会えば、あの子の中で何かが変わるんじゃないかって思うの。」
「え? 俺?」
「ふふ、そう。正樹くんよ。」
「え? 俺、何もしてないですよ!」
「そうね。そのままでいてね。」
双葉さんの言葉に、俺たちは顔を見合わせる。
どういう意味なのかは分からない。
それでも、双葉さんたちが協力してくれることだけは伝わってきた。
「そのためにも! もっともっと新潟を楽しんでもらわないとな!」
そう言って稔さんは、たくさんのパンフレットを机の上へ広げた。
「あとどのくらいいられる?」
その言葉に、柊木さんと縛が同時に答える。
「「あと四日間。」」
……え?
あと四日間も新潟にいるのか!
初耳なんだけど!!
「じゃあ、回れるところは全部回ろう! あおたちも結愛ちゃんに会いたいって言ってたし。最後まで案内させてくれ。」
「まあ、いいんですか? 私も双葉ちゃんともっとお話ししたかったのよ。」
真美ちゃんが嬉しそうに微笑む。
その一言をきっかけに、部屋の空気は一気に明るくなった。
もう皆の意識は、新潟観光へ向いている。
誰も気付かなかった。
縛が圭介さんと目を合わせ、静かに部屋を出て行ったことに。
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「どういうことですか? このネックレスは何なんですか?」
「……俺も知らない。初耳だ。」
「あのくそメガネは?」
「分からない。」
「……いや、あの人なら絶対知ってます。」
「じゃあ聞いてみれば。」
「絶対嫌です。あの人には借りを作っちゃいけないんです。あと、後が面倒くさいので。」
「ははは。それ、正樹くんに聞かせてみたいわ。」
「?」
「まあ、俺の正体はあの子たちには内緒だから。もし言ったら、その時は覚悟しなよ。」
「僕が言うと思います?」
「ふっ、言わないな。言ったところで、信じてもらえないだろうけど。」
「随分と信用しているんですね。」
「そりゃね。俺の幼馴染たちだから。」
そう言って、忍野は笑顔で部屋へ戻って行った。
あの頃からは想像もできない姿だった。
やっと、もう一歩進んだ。
あと少しで、あの人の真実に辿り着ける。
その時まで、僕はどうなっているのだろう。
俺は部屋の扉を開ける。
正樹さんの姿が目に入った。
きっと彼は、この先も鍵となる。
守らねば。
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その後の数日間。
俺たちは双葉さんたちに案内され、新潟の景色や食べ物、人との出会いを思い切り楽しんだ。
笑って、食べて、話して。
事件を忘れられるほど穏やかな時間ではなかった。
それでも、その時間は確かに俺たちの心を少しだけ軽くしてくれた。
そして迎えた、帰る日。
「正樹くん。また遊びに来てね。」
「次はもっとラーメン屋さん探しておくからな!」
「結愛ちゃん、また遊ぼうね!」
「うん! 約束!」
手を振る双葉さんたちに、俺たちも笑顔で手を振り返した。
車がゆっくりと走り出す。
窓の外では、双葉さんたちがいつまでも手を振ってくれていた。
小さくなっていくその姿を見つめながら、俺は胸元のネックレスをそっと握り締めた。
まだ終わっていない。
十四年前の真実も。
俺たちの旅も。
それでも、一つだけ分かったことがある。
失われたと思っていた繋がりは、少しずつ、確かに動き始めていた。
第二部、無事完結しました!!
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます!
第二部では、「繋がり」をテーマに描いてきました。
少しでも皆さまの心に残る物語になっていたら、とても嬉しいです。
第三部「幸せの形」に向けて準備をするため、約1か月ほどお休みをいただく予定です。
その間はキャラクターイラストなども投稿予定ですので、楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです!
読んでくださり、本当にありがとうございました!
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第三部でも、またお会いしましょう!




