私
翌朝、俺と縛が朝ごはんを食べに行くため部屋を出ると、こちらを見てひそひそ話をする人達の姿があった。
縛は視線を感じたのか、不思議そうな顔をする。
俺?
俺は出来る限り存在感を消してる。いや、気配を消してる。誰も俺には気付かない。
「いや、気付くだろ。」
後ろから柊木さんが声を掛けて来る。
「はぁ! さてはお主、やるなぁ!」
「ふざけている場合か。双葉さん達がこの時間に来るって言ってただろ。」
「え? 俺そんなの知らないです。」
俺は自分のポケットからiPhoneを出す。
画面には双葉さんからのメッセージが来ていた。
……やってしまった。
俺は慌てて双葉さんへ返事を返す。
その横で、縛は柊木さんへ聞く。
「さっきから視線を感じるのですが、僕、何かおかしな格好をしていますか?」
縛がそう言うと、柊木さんがニヤッと笑う。
「それは佐伯に聞いた方がいいぞ。」
そうニヤニヤしながらこっちを見る。
……俺は言わないぞ。
縛が口を開こうとすると――
「あっ! 昨日、王子様してた人だぁ!」
後ろを通った子どもが無邪気に話す。
その横で、お母さんが「すみません」と謝りながら、子どもを抱っこして去って行く。
…………。
「おうじさま?」
「は、はは。」
俺が愛想笑いをすると、縛はますます不思議そうな顔をする。
この真実は俺以外から聞いてくれ。
そう切実に思う俺だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昼頃、宿のロビーで双葉さん達を待っていると、名前を呼ばれて振り向く。
「ん? 圭介さん?」
「よー! 一緒に来ちゃった!」
そう言いながら笑顔でドヤ顔をする。
稔さんは「やれやれ」と両手を挙げていた。
どうやら無理やり付いて来たようだぁ。
「正樹くん。覚悟を決めたわ。きっと、稔と一緒だったら乗り越えられる気がする。」
双葉さんがそう言うと、稔さんはそっとその肩を抱き寄せる。
それを見つめる圭介さんは、うんうんと頷いていた。
……親目線ですか?
とツッコミたいけど、我慢する。
「わかりました。部屋は縛が手配をしてくれたので、行きましょう。」
そう言うと、俺達は移動する。
「今日、あおくん達はどうしたのですか?」
「家で面倒見てもらってる。今頃ゲームに夢中だろうな。」
稔さんがそう言うと、俺はクスッと笑う。
俺が少し残念そうにすると、双葉さんは笑顔で話す。
「会いたくなったら、いつでも遊びに来てー! きっと喜ぶから。」
その言葉に、俺は小さくガッツポーズをする。
「正樹さん、皆さん来たのですね。」
斜め後ろから襟を捕まえられた。
「あれ? 縛?」
どうやら俺は部屋を通り過ぎていたようだぁ。
「皆さんこちらへ。」
縛が案内すると、俺は大人しく付いて行く。
こういう時に俺に出来ることはない。
柊木さんと縛が事件の経緯を話す。
俺はその話を聞いてうんうんと頷いていると、縛から声を掛けられた。
「正樹さんのネームタグをヒントに、ダムまで辿り着いたのです。」
そう言われて俺はネームタグをポケットから出す。
あっ、やばい。
チェーン絡まってる。
「…………正樹さん。」
「はい!」
「なんで掛けてないんですか?」
「……いや〜。暑くなったし。錆びちゃうかなぁと思って。」
「……まぁ、今回はその言い訳で良しとしましょう。」
縛はそう言って俺のネームタグを手に取り、再び説明に入る。
やばかった〜!
怒られるところだったわぁ。
部屋の空気は、説明が進むにつれて少しずつ重くなっていく。
圭介さんは腕を組んだまま黙って話を聞き、稔さんは双葉さんの手をそっと握り続けていた。
俺も自然と笑えなくなり、目の前に置かれたファイルへ視線を落とす。
一通り説明が終わると、部屋は静まり返った。
誰もすぐには言葉を出せない。
やがて双葉さんが口を開く。
「まさか、世の中にそんな事があるなんて……。」
そう呟くと、自分のファイルへ目を落とす。
双葉さんは震える手でファイルを手に取る。
書かれている文字を追うたびに、その表情は少しずつ曇っていく。
「……これが、私なの?」
小さく漏れたその言葉に、部屋の空気がさらに重くなる。
「この実験のせいで、私は……私は……。」
最後まで言葉を続けることは出来なかった。
涙がぽろぽろと頬を伝い、その場で泣き崩れてしまう。
「なんで……。なんでよ……。」
稔さんは何も言わず、双葉さんの肩をそっと抱き寄せた。
柊木さんも静かに寄り添い、部屋には双葉さんのすすり泣く声だけが響いていた。
圭介さんも俯いたまま、小さく拳を握り締めている。
俺には双葉さんの気持ちは分からない。
でも、同じ事件の被害者として。
いつか少しでも寄り添える人になれたらいいなぁ。
そう思った。
第二部も、いよいよ残りわずかとなりました!
今週末を目安に、第二部完結予定です。
もしかすると日曜日に大量投稿するかもしれませんが、その時はお許しください(笑)
正樹達と一緒に、わっせわっせと物語を進めていたため、今週は投稿時間がバラバラになってしまい、すみません。
第二部もラストスパート!
最後まで駆け抜けますので、応援していただけると嬉しいです!




