大型犬
「なんとも言えない形をしたネックレス」を双葉さんが俺に差し出した。
「これは?」
「起きた時に首に掛けていたものよ……。多分、妹の方にもあるはずよ。」
「え!? あるんですか?」
「ええ。一緒の病室にいた時に見たことがあるわ。」
「それって……。」
「今も持っているかどうかは分からないってことよ。」
双葉さんは少し寂しそうな表情を浮かべた。
俺は今回、双葉さんたちに会いに来た本当の理由を話した方がいいのだろうか……。
でも――。
そう考えていると、後ろから縛がやって来た。
「正樹さん? どうしたのですか?」
「……。」
俺は双葉さんを見る。
双葉さんは、どこか覚悟を決めきれないような表情でベンチに座っていた。
まだ話すには早いのかもしれない。
そう思い、とりあえず縛には柊木さんたちの所へ戻るよう伝えた。
そして、俺は決意する。
「双葉さん。今回あなたに会いに来た理由は……14年前の事件が関係しているからなんです。」
俺がそう言うと、双葉さんは少し驚いた表情を浮かべた。
「……最初から知っていたということ?」
「いえ、そういう訳ではありません。俺には記憶がないので……。自分の過去を知りたいという理由もあります。でも、もう一つは……。」
俺は縛の方を見る。
柊木さんと、なぜか望遠鏡を取り合っていた。
「……東雲さん?」
双葉さんが静かに尋ねる。
俺は小さく頷いた。
まだ双葉さんには言えない。
縛が一人で背負い続けた14年間。
胸が苦しくなるほど重い、その真実を。
「……これを話したら、きっと双葉さんは今まで通りの日常を過ごすことが難しくなると思います。」
「危険があるということ?」
「……いえ。それはないと思います。もう長い間調べていますが、事件が原因で危険な目に遭ったことはありません。でも……これから先は分かりません。」
双葉さんは少し考え込み、静かに口を開く。
「……少し稔と相談させて。」
「その方がいいと思います。」
俺たちは互いに頷き合い、ベンチから立ち上がって皆の所へ向かった。
どうか、この日常がこのまま続きますように。
俺は胸の中で、そっと祈った。
────────
夜遅くまで皆で食べたり飲んだりして楽しみ、宿へ戻って来た。
稔さんたちは、あおくんたちが寝てしまったので、そのまま車で帰るらしい。
さっきの話については、また連絡すると言ってくれた。
「またなぁーー!!」
柊木さんは稔さんたちに向かって大きく手を振る。
恐るべし、お酒の力。
顔を真っ赤にした柊木さんは、真美ちゃんに襟を掴まれ、そのまま部屋へ連れて行かれた。
「正樹くんも縛くんも、また明日ね〜!」
結愛ちゃんも真美ちゃんたちの後ろについて帰って行く。
その顔はニヤニヤしていた。
俺はその理由を知っている。
原因は――今、俺をお姫様抱っこしているこいつだ。
「縛、俺は歩けるよ。」
「いえぇ、歩けませぇん。」
そう言って、俺に頬ずりをしてくる。
「縛!?」
俺が大声を出すと、縛は不満そうに頬を膨らませた。
そう言えば、縛と酒を飲んだのは初めてだった。
……まさかカルアミルクで酔い潰れるとは。
縛は何も言わず、そのまま俺を抱えたまま部屋へ向かう。
途中ですれ違う人たちの視線が冷たい。
違う。
俺が頼んだ訳じゃないぞ。
そう心の中で叫びながら、俺は顔を隠した。
部屋へ着くと、縛はようやく俺を下ろしてくれた。
ソファに座ると、縛は当然のように俺の膝へ頭を乗せる。
「ん。」
そして俺の手を、自分の頭へそっと乗せた。
……撫でろってことか。
俺が渋々頭を撫でると、縛は満足そうに目を閉じる。
今日は双葉さんと話したことを伝えるのは無理そうだ。
そう思いながら、俺は縛のさらさらした髪を優しく撫で続けた。
初めて会った時の、あのワイルドなイケメンは……一体どこへ行ったのだろうか。




