広い世界
海鮮市場でいろんな物を食べて、お腹がさらに膨れた。
「満足、満足〜。」
柊木さんがそう言うと、稔さんも頷く。
何気にこの二人、相性がいいみたいだ。
「次はさぁ、ここに行こうと思うんだけど、どうですか?」
双葉さんが真美ちゃんに尋ねる。
「いいですね! この神社、気になっていました。」
「綺麗な上に、縁結びでも有名らしいですよ。」
双葉さんがそう言うと、結愛ちゃんが勢いよく振り向いた。
「縁結び!」
そう言うと、嬉しそうに真美ちゃんへ駆け寄る。
「お母さん! 寄ろう! 行こう!!」
「はいはい。お願いしていきましょうね。」
「やったー!!」
結愛ちゃんは柊木さんたちの所へ行くと、双葉さんと真美ちゃんが顔を見合わせる。
「あれは、もしかして〜。」
「そうなのよ。最近、気になる子がいるみたいで。」
「それは青春してますね!」
そう言って二人は嬉しそうに笑った。
バスの中では、女子会が盛り上がっている。
近くに座っている柊木さんは聞き耳を立てているのか、顔が赤くなったり青くなったりと忙しい。
「娘だと、やっぱり気になるんですか?」
「いつか娘ができたら分かるぞ。もう、男が全員敵に見える。」
柊木さんがそう言うと、その頭を真美ちゃんが軽く叩く。
「それは正志くんだけでしょ。」
突っ込まれた。
恋愛かぁ〜。
俺は縛を見る。
縛は神社周辺の甘い物を調べていた。
きっと俺たちは恋愛には無縁だなぁ!!
そう思うと、思わず笑ってしまう。
その様子を縛が不思議そうに見つめた。
神社へ着くと、市場とは違う静かな空気が流れていた。
澄んだ風が頬を撫で、思わず深呼吸をする。
やっぱり空気が綺麗だ。
顔を上げると、見慣れたあの影が空を横切った。
「あっ! ハクちゃんだぁ!」
あおくんが元気よく手を振る。
ソラはこっちを見ることもなく、そのまま飛び去っていく。
……降りてこないなんて珍しいなぁ。
この時の俺は気付かなかった。
ソラが飛んで行った先に、圭介さんがいたことを。
「おー。まさか生きていたとは。」
圭介さんが小さく呟く。
その声に反応するように、縛はじっと圭介さんを見つめた。
「……やっぱり。」
「ん? どうした、縛?」
「いえ。正樹さんは、お守りとか買わないんですか?」
「うん。大丈夫。」
そう言って俺は本殿を見つめる。
なぜか昔から、神には頼ってはいけない。
そんな気がしていた。
理由は分からない。
「やっと買えた!」
結愛ちゃんが嬉しそうにお守りを持って戻ってきた。
「よかったね!」
「うん。それで少しは力になってくれるといいなぁ。」
「力になってくれるといいね。」
「うん!」
結愛ちゃんはぎゅっとお守りを握りしめる。
その姿はまさに恋する乙女だった。
思わず微笑んでしまうほど、結愛ちゃんはいつも以上に可愛らしく見えた。
その後も笹団子を買ったり、桃太郎ソフトクリームを食べたりと、観光を満喫した。
夕方、俺たちは有名な灯台へやって来た。
「おー!! 景色、綺麗だなぁ。」
柊木さんがそう言うと、みんなも頷く。
俺は景色が見えるベンチに腰を下ろした。
……なんか、地味に全身が痛いや。
そう思いながら、楽しそうにはしゃぐみんなを眺める。
平和だぁ。
俺の隣に、双葉さんがそっと腰を下ろした。
「綺麗でしょ?」
「綺麗ですね。」
「昔ね、何かあるたびにここへ来ていたの。ここに来ると、嫌なこともあっという間に忘れられるくらい、世界が広く感じるのよ。」
そう言われて、俺は星が見え始めた空を見上げる。
きっと俺が知らないだけで、素敵な場所なんだなぁ。
「……ねぇ、正樹くんも施設で暮らしていたのでしょう?」
突然の言葉に、俺は驚く。
「え?」
「実は初めて会った時、『どこかで見たことがある顔だな』って思ったの。その時はテレビで見たアイドルに似ているのかなって思っていた。でもね、稔から話を聞いて確信したの。」
「何をですか?」
「あなた……14年前の事件に関わっているでしょう?」
双葉さんのその言葉に、俺は思わず固まった。
──今、なんと言った?
14年前の事件……?




