イカ焼き
「んぅーーー!!!!」
新潟の空気、美味しいーー!
朝ご飯も食べて準備を終えた俺たちは、車に乗って観光へ出発した。
縛はいつの間に小型バスを予約していたのか、みんなでバスへ乗り込む。縛が運転するのかと思ったら、さすがに運転手さんがいた。
「縛が運転するのかと思ったよ。」
「運転はできますよ。でも今日はやることがありますので。」
そう言って縛は地図を広げる。
今やスマホが主流の時代に紙の地図なんて珍しいと思うでしょ?
その地図には、細かく甘い物のお店が書き込まれていた。
「……。」
今回の目的は笹団子らしい。
俺はまだぽっぽ焼きを食べたい。
そんなことを考えていると、後ろから肩を叩かれた。
「ん?」
「なぁなぁ、正樹くんさぁ。なんで靴下、色違うの?」
そう聞いてきたのは昴くん。
その隣では圭介さんがニヤニヤしながら座っている。
さては、圭介さんが教えたなぁ。
「えっと、間違えちゃったのよね。」
「あおくんと一緒だぁ〜。あおも今日、靴下バラバラだよ。」
そう言われて俺はあおくんを見る。
ん?
確かに靴下は色違いだ。
……待って。
あおくん、靴まで左右違わない?
「靴も違うでしょ? あれ、本人はファッションだって。」
圭介さんが笑いながら説明する。
なるほど……なかなかのセンスをしている。
「まぁ、正樹くんもファッションだと思ったよ。」
……それで笑ってたのか。
そう思いながら圭介さんを見ていると、昴くんへお菓子を差し出していた。
「あっ、いらない。」
昴くんは即答だった。
「美味しいのに。」
そう言いながら、圭介さんは自分で食べる。
「またご飯食べられなかったら、お父さんに怒られるよ。」
昴くんが呆れたように言う。
どうやらいつものことらしい。
そんなことを思っていると、隣からもボリボリという音が聞こえてきた。
「……。縛、あーんして。」
縛は首を傾げながら飴を口へ放り込み、ごりっと噛み砕く。
こいつ、飴をそのまま噛んだなぁ。
「歯、割れるよ。」
「そんなやわな歯をしている覚えはありません。」
そう言って、また飴を口へ放り込む。
俺はその袋を見て思わずぎょっとした。
あずきミルク味……甘そう。
「いります?」
「いらない。俺はこれ食べる。」
そう言って俺はラーメン味のお菓子を取り出す。
「……ラーメン狂ですね。」
「違うよ〜。これはラーメンじゃなくて、お菓子だから。」
そんなことを話しながら、俺たちは目的地まで珍しくのんびり過ごした。
後ろの席は大騒ぎだったけど、稔さんに怒られていた。
ドンマイ、昴くん。
目的地へ着くと、市場中に威勢のいい声が響いていた。
焼き魚や海鮮の香ばしい香りが風に乗って漂ってくる。
「おぉーー!! うまそうだなぁ!!」
柊木さんは並べられた海鮮を見て、嬉しそうに笑う。
「ねぇ、お父さん! あの番屋汁、数量限定だって!」
「美味しそうね!」
結愛ちゃんと真美ちゃんが言うと、柊木さんは何も言わずお店へ向かっていく。
「あの牡蠣、美味しそう〜。」
「お母さん。僕も番屋汁飲みたい。」
「僕はあれがいい!」
あおくんは団子を指差した。
すると稔さんは牡蠣のお店へ、圭介さんは番屋汁のお店へ向かう。
「僕、団子を買うので、ついでに買ってきますね。」
そう言って縛も団子屋さんへ向かった。
あっ、甘味噌も付いてるのかぁ。
気付けば俺だけ何も決められず、一人で悩んでいた。
「正樹さんは何食べますか?」
双葉さんが声を掛けてくれる。
「正樹くん。ここではラーメンはないと思うわよ。」
真美ちゃんが笑う。
「あれとかどう?」
結愛ちゃんがイカ焼きを指差した。
「……。」
俺が悩んでいると、柊木さんが戻ってきた。
「ほれ。番屋汁とイカ焼き、それから焼き魚。」
そう言いながら、イカ焼きを俺へ渡す。
「……?」
「ん? これじゃなかったか?」
「お父さん、それ隣のお店のイカ焼きだったじゃない?」
「そうか? イカ焼きなんてどこも一緒だろ。」
柊木さんたちが話していると、縛も戻ってきた。
「はい。買ってきましたよ。」
そう言って俺へイカ焼きを差し出す。
「……なんでイカ焼き?」
「ん? 正樹さん、ずっと見ていたじゃないですか。」
縛が言うと、俺は柊木さんたちを見る。
「ずっと見てたぞ〜。」
真美ちゃんと結愛ちゃんもうんうんと頷く。
そんなに見ていたのだろうか。
「はい。これ、あおさんの分ですよ。」
縛が団子をあおくんへ渡す。
「ありがとう!! でも、僕あおくんだよ!」
少しぷんぷんするあおくん。
その可愛さにみんなが笑ってしまった。
「おーい、双葉ー! 牡蠣、ポン酢かけるよな?」
「うん、お願いー。」
「なぁ、あそこ座れそうだから行こうぜ。」
圭介さんは番屋汁を持って戻ってくる。
「そうだね。稔もそろそろ来るだろうし、移動しようか。」
「この人数なら、それがいいと思う。」
双葉さんは子どもたちを圭介さんへお願いすると、稔さんのところへ向かった。
そして戻ってきた時には、口がもごもご動いている。
「あっ! 先に食べたなぁ!」
「牡蠣、美味しいよ! あとでみんなの分も稔が持ってきてくれるらしいから、先に行こう。」
そう言って、みんなで移動する。
俺は手に持ったイカ焼きをじっと見つめる。
こんな何気ない時間が、なんだか嬉しかった。
楽しい。




