ここ、どこ?
「ほらっ! さっさと動きなさい!」
小さい女の子が女性に急がされていた。
「やぁ、最近はどうかなぁ?」
「あっ、所長。あなたはいいですから、先に部屋に入りなさい!! 入ったら、物を冷蔵庫に入れなさいね。」
女の子は怯えた表情で女性を見つめる。
「ほらっ! さっさと行く! のろまなんだから!」
女の子は何度も頷くと、重たい荷物を一人で引っ張っていく。
「ちゃんと実験通りに進んでいるね。」
「はい。双子実験は順調です。」
「あの子も大きくなったんだから、服を新しく買ってあげたら?」
「いえ、それだと方針がずれてしまうかと思います。」
「あぁ、そういえば忍野さんは実体験だったね。」
「はい。救い出されたあの日を忘れたことはありません。」
「そのまま進めてくれ。」
「はい! ……あ、あの。あの子の前では呼びませんが、あの子に名前を付けてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。データの名前も変えておくよ。何か希望はある?」
「では、失礼ながら、あの子の名前は『双葉』でお願いします。」
「理由を聞いても?」
「『希望と共に育つ、小さな命の芽』。そんな願いを込めました。私にできる、せめてもの償いです。」
「…………そうか。いい名前だね。」
「私にできる唯一のことですから。」
忍野はそう言うと、少女が入っていった閉ざされた扉を静かに見つめた。
「双葉……どうか、生きて。」
「…………き、ま………ん………まさきさん!」
俺を呼ぶ声。
起きないと。
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「んぅーー!!」
目を覚ました瞬間、口いっぱいに広がる苦みに悶絶する。
「正樹さん、本当にブラックを飲んだのですね。」
縛が感心したように話す。
俺は自分の手を見る。
ブラックコーヒー。
……え?
いつの間にコーヒーなんて頼んだ??
てか、ここどこ?
キョロキョロと辺りを見回す。
レトロな雰囲気の店内。
縛の前にはあんみつ。
柊木さんの前にはコーヒー。
うん、喫茶店だぁ。
…………。
さっきまで誰かと話していたような気がする。
双葉――。誰だっけ。
思い出そうとした瞬間、その記憶は霧がかかったように消えてしまった。
俺が首を傾げていると、縛と柊木さんがお互いの顔を見合わせた。
「やっぱり、あの事件の後から時々おかしいよな。」
「ええ。でも本人には言わない約束です。見ても見ないふりをしてください。」
「あぁ……まるで人が変わったみたいになるもんな。」
小声で話す二人に俺は聞く。
「なに?」
「「なんでもない(です。)」」
なんだぁ??
まぁ、いいか。
それよりミルクもらわないと。
「すみません。ミルクください。」
俺が店員を呼ぶと、柊木さんが苦笑する。
「だよなぁ。」
……どうせ子どもですよ。
「なんで喫茶店にいるの?」
俺が聞くと、二人は目を丸くした。
「え? 佐伯が『腹減った』って言うから入ったんだぞ。」
「え?」
俺、そんなこと言ったっけ?
そういえば入院してた時も、気付いたら公園にいたり、裏庭にいたり、希空ちゃんの部屋にいたり……。
…………。
いや、怖っ!!え、俺、寝ながら歩いてる!?
夢遊病ってやつ!?
「東京へ帰ったら病院行こう!!」
思わず大きな声を出す。
「そうですね。心療内科にも一度相談してみましょう。」
「本人が思ってる以上に、事件の影響が残ってるのかもしれないな。」
俺はそんなことより、
夢遊病。
夢遊病。
夢遊病。
いや、めちゃくちゃ怖いんだけど!!
「お待たせしました。フレンチトーストとカツサンドです。」
店員が料理を運んできた。
「ほれ、フレンチトースト。」
目の前に置かれたそれをじっと見つめる。
「ん? 俺の?」
「そうだぞ。」
初めて食べるなぁ……。ハチミツがかかってて甘い……。
俺はそっとフレンチトーストを縛に押し付ける。
そしてメニューを開く。見つけた!!
ラーメン!!!
「正樹さん。ラーメンは田畑さんのところで食べたので、ダメですよ。」
まだ注文もしてないのに、なんで分かった………。
渋々メニューを見直す。
「じゃあ、このカツカレーください。」
……二十四歳男児の胃袋を舐めてはいけない。
俺はコレステロールには負けない。
そう決意する今日であった。




