もう一つの日常
「ふふ、すっかり仲良しですね。」
双葉さんは柊木さんと子ども達を見る。子ども達は柊木さんに懐き、肩に乗ったり、膝に乗ったりと大忙しだ。
俺?
俺はと言うと、遊ばれてる。
……ん? もう一回言おうか?
遊ばれてる。
最近、みんな俺に対する扱いが雑な気がする。
「そういえば、自己紹介してなかったですね。」
圭介さんがそう言うと、俺はうんうんと頷く。
「あ、君は佐伯正樹だっていうことは分かってるから、ゆっくり休んで。」
分からぬ。
なぜだぁ。
「なんでかと言いますと、病み上がりなのにあっちこっち歩き回っていますからね。筋肉痛でしょう? それに、傷口だったところも痛むでしょう? 大人しく休んでください。」
そう。
俺、絶賛縛の膝枕なう。
……硬いです。
そのまま、みんなの自己紹介が始まり、俺はうとうとする。
病み上がりだからなのか、体力がない。
怪我のせいなのか? いや、違う気がする。いや、そうかも。ん〜、分からない。
とりあえず、眠い。
ふぁー、寝よう。
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「あっ! お昼寝してる〜!」
あおくんがおっさんから離れて、こっちに来たようですね。
「えー、寝てますよ。」
「え〜〜、子どもみたいー!」
あおくんの一言に、僕は思わず笑ってしまう。確かに最近はやたらと正樹さんの行動が幼い気がする。
「ちょっと前に大きな怪我をしたので、病院を退院してまだ二日目なんです。だから眠いのかもしれませんね。」
「そうなの? どこか痛かったの?」
「そうですね。ちょっと、お腹あたりかなぁ? と思いますよ。」
あおくんは「ふーん」と言いながら興味がなくなったのか、そのまま双葉さんや稔さんの所へ行く。
にしても、さすが田畑家。代々引き継がれてきただけあって、畑の範囲が広い。
「で、東雲さん達は本当は何しに来たのですか?」
稔さんの幼馴染、忍野圭介が言う。
この人、なかなか勘が鋭い。
「何も、社員食堂のお米について契約をするために来ましたよ。」
「ふーん。」
パシッ
「いてっ!」
「おい、圭介! お客さんに失礼だぞ! 我が家の契約相手だぁ。」
「悪かったから怒るなよ。」
圭介さんが肘をついて謝る。
「いえ、気にしてないので大丈夫ですよ。」
僕が言うと、双葉さんがおはぎを持ってくる。
あずきの色がつやっとしていて、米粒もしっとりしている。
これは……!!
「おー、美味しそうですね。」
おっさんが片言で敬語を話す。
「よかったら食べてください。」
双葉さんが僕の皿におはぎを一つ乗せる。
そして、正樹さんの所にも一つ。
「ありがとうございます。」
僕が食べ始めると、膝の上で正樹さんがもぞもぞする。
あの事件のあとから、よく眠れないのか、睡眠中によく動いたり、夢遊病のように歩き回ったりすることが多い。
「今日は、おはぎを頂いたら失礼致します。」
おっさんがそう言うと、稔さんは不思議そうな顔をする。
「そんなに急がなくても。」
「実は、田畑達の幸せな姿を見たら、私も妻達に会いたくなって。」
「え!? 奥さんも来ているのですか?」
双葉さんが興味を持つ。
「ええ、今観光中でして。」
「そしたら、もし大丈夫でしたら新潟をご案内しますよ!」
「そんなご迷惑をお掛けするには……。」
「いえ! 実はママ友がいなくて、子育ての相談に乗ってほしいという私のわがままもありまして……。」
「そういうことでしたら、ぜひ妻と話してください。」
「いいですか!! やったー! 稔、いつ行っていい?」
「んー、父さんと母さんに聞いて、多分明後日ぐらいなら大丈夫じゃないかなぁ?」
「じゃあ明後日、泊まってるホテルに行きます。」
双葉さんがそう言うと、おっさんがこっちを見る。
「ここが泊まってる所の住所になります。」
僕は宿の住所を渡すと、おっさんが安心したのか、ほっと一息つく。
「ありがとうございます! ……東雲さん、ここ。」
双葉さんが自分の口元を指差す。
…………。
僕は自分の口元を触る。
あんこが付いてた。
僕としたことが……。
「んぁ? 縛?」
正樹さんが目を覚ます……いや、覚めてないなぁ。
柊木さんが正樹さんを抱えて、田畑さんに挨拶をする。
「すみません。佐伯の薬の時間になるので、宿に戻らないといけなくてですね。」
柊木さんが言うと、田畑達は玄関まで送ってくれた。
「では、また明後日よろしくお願いします。」
僕が言うと、田畑さん達は「またー!」と手を振ってくれた。
双葉さんが袋を差し出す。
「これ、よかったら車の中で食べてください。」
「ありがとうございます。頂きます。」
そう言って、僕達は車に乗って帰路に着く。
袋の中にはおはぎが入っていた。
「優しそうな家族だったなぁ。」
「ええ。双葉さんも幸せそうでよかったです。」
思い出すのは、研究施設でカプセルから生まれたばかりだった双子。
大きくなったものだ。
改めて、月日の早さを肌で感じた。
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プルルル
「はいはい〜。小鳥遊ですよ〜。」
「あっ、小鳥遊さん。噂の黒ワンコ、来ましたよ。」
「まだそこまでしか行ってないのかぁー。」
「小鳥遊さんの想定よりは遅いかもですね。」
「まぁ、きっと正樹くんが寄り道してるんだろうね。」
「そうかもしれないですね。今日、怒られてましたし。」
「あらら、それは見たかったわぁ。まぁ、忍野くんもお疲れ様。」
「いえ、当然です。なんせ俺は黒カラスの一人ですから。」
「ふふ、早く真実に辿り着く日が楽しみだね。」
「えー、これもあのクローン研究のおかげです。」
「ふふ、君もその一人だもんね。」
「えー、でも俺は傍観者ですから。」
そう言って、忍野はニヤリと笑う。




