夕日に揺れる恋心
「俺が妻に会ったのは、妻がまだ16歳の時。初めて見た時は、骸骨みたいだなぁと思うぐらいガリガリでなぁ。その影響からか、よくからかわれる標的になってた。」
今でも思い出す、初めて出会った日の事。
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ざわざわ
「はーい、みなさん。静かにしてください。今日は転校生の紹介をします。」
クラスの担任が言うと、俺のクラスはまたもや騒ぎ出した。
「え!? 男子? それとも女子!」
クラスの皆が息を飲む。
「それは、本人が登場してからですね。入っていいですよ。」
先生の声と同時にドアが開く。
ガラガラ
入って来たのは、骸骨みたいにガリガリな女子。今にも折れてしまいそうだ。米を食べさせてやりたい。
「鈴木 双葉です。」
彼女の口からは、想像もつかない凛々しい声が響いた。
俺は思わずじっと彼女を見つめてしまう。その視線を感じたのか、彼女はこっちを見る。
目が合ってしまった。
意志の強い目に、俺の胸はドキッとする。
「はい、鈴木さんよろしくお願いします。席は後ろの空いてる所ね。」
先生が指差すと、鈴木さんは頷き席へ向かう。
その途中で、クラスのいわゆる意地の悪い女子が足を出した。
あ、危ない。
俺がそう思った瞬間、鈴木さんは何事もないように、その足を踏んで通過した。
それだけで、彼女は自分の存在を強くあのグループに刷り込んでしまった。
そう知ったのは、彼女が転校して二か月後の事である。
「ねぇ〜、鈴木〜。パン買ってきてよー。」
そう言われた鈴木さんは、パンを買いに購買へ向かう。
俺はその後をそっと追い掛けた。
「よっ! 鈴木。パンじゃ腹にたまらないから、このおにぎりも食べろ。」
そう言って、俺は鈴木の腕におにぎりを押し付ける。
鈴木は何も言わずにおにぎりを受け取り、俺の腕に返した。
そのままパンを買い、クラスへ戻る。
「鈴木、おそいぞ!」
ボス女が叫ぶ。
俺が前に出ようとすると、友達に腕を引っ張られた。
関わるなって事か!?
俺は怒りを覚えた。
「おい、鈴木!? 返事しろ!」
ボス女が叫ぶと、鈴木はパンを持ってボス女の席へ向かう。
まさか! 開けるのか! あんなデブより、お前の方が必要だろ!!
ガサ、ガサ、ピリッ
鈴木はパンの袋を開け、ボス女の目の前で食べ始めた。
「おい! それ私に買ったやつだろ?」
ボス女が怒鳴ると、鈴木は一言。
「私のパンですね。」
そう言って、パンを最後の一口まで食べ切った。
教室が静まり返る。
「お前、ばかにしてるのかぁ!!」
ボス女が叫ぶと同時に、鈴木へ手を伸ばす。
バシッ
俺は起こる事に思わず目を瞑る。
……あれ? 誰も動いてない?
目を開けると、ボス女の手を鈴木さんがパンを咥えたまま掴んでいた。
「暇なのか? 自分のパンは自分で買ってくださいね。誰も買ってあげるなんて話してないだろ?」
「お前、鈴木。絶対許さない。」
「許さないも何も、親に守られてる子どもは大人しくしとけ。」
「はぁ!? 自分も親いるだろ!?」
「ありがたい頭だなぁ。その言葉の意味をよく考えな。あまちゃんが。」
そう言うと鈴木は手を離し、サンドイッチ以外のパンを持つ。
「そんなにお腹空いてるなら、それはあげるよ。」
そう言って、自分の席へ戻った。
喧嘩にならなくてよかったと思うべきか、それともこれから大変になると思うべきか。
俺はなんとも言えない気持ちでいた。
「女ってこえー。」
そう言うのは幼馴染の圭介。
見た目は可愛い系だからか、俺達はよく美女と野獣と言われる。
俺は隣にいる圭介を見る。
お前も人の事言えないぞ〜。そんなに彼女を変えてるのも怖いぞ〜。
とりあえずクラスの空気は落ち着いたのか、皆それぞれ気まずそうにしている。
鈴木さんは何も気にせず普通にパンを食べ、ボス女は周囲の人に慰められながらサンドイッチを食べていた。
……食べるんだぁ。
午後は何事もなかったように時間が過ぎていく。
俺は授業中、鈴木さんの言葉の意味をずっと考えていた。
放課後、俺は圭介と一緒に帰宅する。
もう高校生だから、部活に入らなくていいのは最高だ。
ん?
鈴木さん?
いや、鈴木さんにしては細くない? 制服も違う。
「ねぇ、中に鈴木双葉いた?」
そう声を掛けてきたのは、可愛らしい派手な女の子。
鈴木さんに似てる?
「まだ中にいたはず。」
「呼んでくれない?」
「あ、あー。」
「え? 行くの?」
「ん? まぁ、手空いてるしなぁ。」
「え? 今日ゲームする約束だろ。」
圭介が文句を言う。
「どうせ遅くまで家に帰らないつもりだろ。なら少しの間ならいいだろ。」
俺が言うと、圭介は小さく文句を言いながら俺について来る。
夕方の教室。
いつも帰っている時間だから、なんだか違和感がある。
ガラガラ
教室のドアを開けると――
夕日に照らされ、
風に髪の毛をなびかせながら、
鈴木さんが振り向く。
その姿が俺には眩しく、
胸がドキッとする。
あの時は気付かなかった。
あれが、妻に恋をした瞬間だったことを。




