黄金のカーテン
俺らは車の中でじゃれ合いながら、目的地に近付いて来た。
「もう、そろそろ見えますよ。」
縛がそう言うと、俺と柊木さんは窓の外を見る。
すごいー!! 田んぼがいっぱい! 家もポツンポツンと建っている。どれが目的地なんだろう。
そんなことを考えながら外を見ていると、縛が声を掛ける。
「正樹さん、今回は病み上がりですから商談には出ず、待っていてください。」
「え? 車の中で?」
「そうですね。そうしてくれます?」
そう言われると、暇でしょうがないのではないかと思うが、理事長には抗えない。
「おっ? じゃあ俺が一緒に待っててやるよ。」
柊木さんがそう言うと、縛が止める。
「柊木さんには今回、一緒に来てもらいます。流石に連れが二人も車の中にいるのは失礼ですからね。」
「いや、そもそも連れを車に残してたらアウトじゃねぇか?」
「ほら、正樹さんはニュースにも出た事件の被害者ですから。事情は事前に電話で説明してありますし、大丈夫とのことですよ。」
縛がそう言っている内に、車が止まった。
着いたのか〜と思い、窓の外を見る。
え?ここ旅館かなぁ?
え?でか!何このお金持ちの和風屋敷!!
俺が目を見張る隣で、柊木さんが文句を言っていた。
「いやいや、俺分からないぞ。」
そう言っている柊木さんに、縛が小切手を渡す。
「今回の報酬額ですよ。」
「…………社長、荷物持ち頑張らせていただきます。」
そう言うと、柊木さんはバタバタと用意を始めた。
…………いったいいくらもらったのだろうか。
縛と柊木さんは車を降り、屋敷の中へ向かって行く。車の鍵だけ俺に渡してからである。
……もちろん、待つ気はない。
俺は反対側のドアから降り、そのまま畑へ向かった。
秋に近い時期になったからか、畑の稲は少しずつ黄金色へと変わってきた。
きっと秋になると、揺れる黄金のカーテンになるのだろう。
俺は少しずつ畑を眺めながら、山へ向かう。
山のふもとまで来ると、見慣れた影が頭上を飛んでいった。
あっ、久しぶりに帰って来た。
そう思いながら影を追い掛け、俺は畑の方へ戻る。
「かぁー!」
入院中は見ることが出来ず、退院してからもしばらく姿が見えなかった。
「おー! 久しぶり!」
そう言うと、珍しくソラは俺の肩に向かって飛んできた。
「かぁー! かぁー!」
肩に乗ると俺の顔を覗き込み、不思議そうに首を傾げている。
「どうした? ソラ。久しぶりに見たけど、なんだか毛並み艶々だなぁ。」
俺がソラを撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。
久しぶりだからか、今日はサービスがいいやつだ。
俺が久しぶりにソラと戯れていると、幼い声が聞こえた。
「あーー!! はくちゃんが人の肩に乗ってる!」
「しー! 人を指差したら失礼だよ。」
声のする方向を見ると、小学校中学年くらいの子と、五歳くらいの子がいた。二人とも少し離れた場所に立っている。
……はくちゃん?
俺が疑問に思って首を傾げると、隣から声がした。
「かぁ!」
少し不満そうである。
…………お前かぁ!! はくちゃん!
随分かわいい名前もらったなぁ。
俺はクスッと笑ってしまった。
「……お兄さんは、はくちゃんと仲良しですか?」
小さい子は兄らしき子に肩を掴まれて止められながらも、好奇心を抑えきれない様子で聞いてくる。
「仲良しとまではいかないけど、毎日会ってたかもね。」
「えーー! うそだぁ。はくちゃん最近ずっとここにいるもん。」
道理で会わないと思ったら、新潟にいたのか。
米の魅力に釣られたのか?
「写真もあるんだよ? 見る?」
「見る!!」
「いや、大丈夫です。」
男の子の首の後ろの服を引っ張りながら、兄が答えた。
「え? お兄ちゃん! 見ようよ!!!」
男の子は兄の腕を掴みながら言う。
「見ない。この前、幼稚園から言われたこと忘れたの?」
「忘れてないよ。」
「なら、行かないよね?」
「え? はくちゃんが懐いてるから怪しい大人じゃないよ!」
…………なるほど。
俺は不審者扱いなのか。
でも、そりゃそうか。
広い田んぼの真ん中で白いカラスと話してる男がいたら、俺でも怪しいと思う。
「それは分からないでしょ!」
兄に怒られている弟の姿が可愛くて、俺は微笑んだ。
その時だった。
急に後ろから肩を力強く掴まれる。
ソラは驚いたように飛び立ち、肩にはもういない。
肩を掴む手は、どんどん力を強めていく。
……いったい何だろう。
ゆっくり後ろを振り向く。
そこには、無精髭を生やした大男が立っていた。




