解き放たれるラーメン狂
暑さが和らぎ、過ごしやすい気温になってきた。
俺はやっと退院日を迎えた。
色々あった。病院の謝罪やら、俺の傷口がまた開いたり、ラーメンが食べたすぎて病院を抜け出したところを追いかけられて、こっぴどく怒られたり。
認めよう、流石に俺が悪い。
縛と柊木さんは俺を暇にするといけないと思ったのか、ファイルを全部持って来た。
その中で、俺達はやっと訪問する順番を決めた。
一番最初は近くにいる希空だったが、俺の病室に来る以外は今までと変わらず、ただ座っている。
田中先生も本人の中で何か変化しているらしいけど、それが何なのかは分からない。
回復はまだまだ先だと言われた。
情報を得るのは難しいと判断し、希空は見守る事にした。
それ以外で今名前が分かっているのは二人。
あの双子だ。
それ以外のファイルは皆名前が黒く塗り潰されている。
特にファイルNo.002の人物は、ほとんど情報がない。
『FILE No.002
特別個体観察記録
対象個体
神の子
目的
人類の次世代への可能性を確認する。
通常個体との比較を行い、知能・身体能力・精神性・適応能力における変化を観察する。
実験内容
対象個体を胎児段階より観察。
成長過程における身体変化、知能発達、特殊反応の記録を行う。
観察項目
・身体形成
・脳機能発達
・環境適応能力
・感情形成
・異常現象の有無
結果
胎児段階より、原因不明の現象を複数確認。
観測機器の異常。
記録データの消失。
関係者による説明不能な体験報告。
原因特定には至らず。
出生後、対象個体の確保を予定していたが、実行当日、予期せぬ事象が発生。
計画は中断。
対象個体は、その後行方不明となる。
結論
対象個体の追跡調査を継続。
現時点で所在不明。
――神の子』
分かったのは、その一言のみ。
神の子。
一体どういう事なのか分からない。
ハクの記憶を持っている縛に聞いても、黒く塗り潰された子達とこの神の子は分からないという。
縛曰く、ハクは希空と双子、そして自分自身の実験。
それに加えて、政治家として動いていた久遠のサポートをメインにしていたらしい。
「この神の子って、久遠のクローンだったり。」
柊木さんが言うと、縛は少し悩む。
「あの人、ナルシストではないので……自分のクローンに神の子とは書かないと思うんですよ。」
そう言うと、三人で頭を傾げた。
悩んでも仕方ないので、鈴木双子の情報を集めた。
そうしている内に、やっと退院許可が出た。
とりあえず、やっと辿り着いた退院日。
だから、俺は堂々とラーメンを食べに行く!!!!
誰も俺を止めるなぁ!!!
ガルルル。
「誰も止めませんから、早く支度してください。」
ガルルル……ん?
あれ、また心の声出てた?
「出てたどころか、普通に独り言でしたよ。」
縛はそう言って、俺の荷物を持つ。
やったーーーー!1ヶ月ぶりに病院の外だぁーーー!!
俺はウキウキしながら、縛の後に付いて行く。
「あっ!待って!」
そう言って、俺は同じ階にいる希空ちゃんの所に行く。
毎日来ていたから、希空ちゃんと呼ぶことにした。心なしか少し嬉しそうに見えた。俺の勝手な思い込みかもしれないけど。
「希空ちゃん〜」
そう言って病室に入ると、希空ちゃんは壁を見つめていた。
「また、来週来るね!」
俺がそう言うと、希空ちゃんはこっちを見て手を振った。
え!?手を振った!!?
「希空が……手を振った。」
あっ、いたんだ。田中先生。
俺が奥にいる田中先生を見ると、驚いた顔をしていた。
まぁ、いいか!
らーめんらーめん♪
「じゃまた、来週ね〜!」
俺はそう言って病室を出て行く。
廊下で縛が荷物を持って待ってくれていた。
「済みました?」
「挨拶した!行こうー!」
俺はウキウキしながら病院の人達に挨拶をして、縛の車に乗った。
ラーメンラーメン♪
なににしようかなぁ〜。
みそ?しお?
あっ!期間限定なのは間に合うかなぁ。
俺がウキウキしていたが、段々と景色が違う事に気付く。
らーめん?
「らーめん?」
ガッツリ心の声が口に出ていた。
「…………楽しみにしているところ申し訳ないのですが、今から新潟に行かないといけません。」
縛の言葉に俺は信じられないものを見るかのように、じっと見ていた。
あれ?
目から汗が……。
「新潟に美味しいラーメンがあるか探してあげますから。」
そう言われて、俺達は駅に着いた。
そこには、柊木さん達が待っていた。
「おー、退院したか?」
「ラーメン。」
「ん?元気ないぞ?」
「ラーメン。」
「だめだこりゃ、ラーメン星人になってやがる。」
真美ちゃんがこっちに来る。
「あらあら、かわいそうに。」
「ラーメン。」
「ほらっ、これ見て。」
ラーメン。
俺は真美ちゃんが持っているiPhoneの画面を見た。
『ラーメン大賞 獲得店』
『おすすめ 味噌ラーメン』
…………。
「行きましょう!」
そう言って、俺は縛の手を引っ張る。
あー!楽しみだぁ!
俺はウキウキな気分に戻り、新潟に向かう新幹線に乗った。
ラーメン。
そして、鈴木双子。
待っているのは、どんな人達なのか。
この時の俺は、まだ何も知らなかった。
俺達を待っていたのは、想像もしていなかった二人の人生。
同じ顔。
同じ遺伝子。
それでも、全く違う道を歩んだ二人。
幸せとは何か。
誰が決めるものなのか。
きっと、その答えは一生出てこない。




