24歳
ん?2人?どういう事?
『FILE No.006
人格形成比較実験
対象個体
FUTABA SUZUKI
HINA SUZUKI
目的
同一遺伝子を持つ個体を異なる環境下で育成した場合、人格・能力・精神性にどのような差異が発生するかを観察する。
実験内容
対象A:FUTABA SUZUKI
制限環境下で育成。
対象B:HINA SUZUKI
一般家庭環境下で育成。
観察項目
・感情形成
・愛着形成
・社会適応能力
・ストレス耐性
・倫理観形成
結果
同一遺伝子であっても、環境による人格形成への影響を確認。対象Aは精神的不安定さが見られるものの、他者への共感能力は消失せず。対象Bとは異なる人格形成を確認。
結論
遺伝子は人格の土台でしかなく、人間形成には経験・環境による影響が大きい。
実験は継続するものとする。』
やっぱり2人だぁ。
俺が疑問に思っていると、縛が話す。
「同じカプセルで育った、一卵性双生児だと思いますよ。」
「あー、双子かぁー。」
ん?14年前だから、2人共今何歳だぁ?
「26歳になってるはずです。」
「じゃ、俺と2歳差かぁ!」
そう言って俺がうんうんと頷いていると、縛が固まった。
ん?どうした?
ガラガラ
「よっ!佐伯少しは元気になったか?」
「柊木さん!怪我とラーメン食べられない事以外元気です。」
今日はラーメン持ってない。流石に許してくれたみたいだなぁ。
「おー、病院に任せて早く退院しようなぁ。」
そう言うと、俺の頭をくしゃくしゃに撫でる。
最近はなんだか、頭撫でられる事多いなぁ。
「で?なんで東雲固まっているんだ?」
「さぁー。」
俺が首を傾げると、柊木さんが縛の肩を揺らす。
「おーい。」
すると、縛が口を開く。
「正樹さん、今23歳ですよね。」
「ん?24歳になったよ。」
なんだぁ?
「いつ誕生日が来てたんだ?」
「え?えーと、確か4日前だったはず。」
「待って。4日前で……」
柊木さんが驚く。
「………事件の日。」
縛はポツリと話した。
ん?なんだか縛ショックの顔してるなぁ。
「おいおいおいおい。マジか〜。」
そう言って、柊木さんは自分のおでこを押さえる。
なんだぁ?なんだ?
「僕とした事が、これは失態ですね。」
そう言って縛が病室を出た。
窓から。
「おい。」
柊木さんが止めるが、縛はそんな事を聞くはずなく、行ってしまった。
「いくらここ2階だからって、飛び降りるのは危ないだろ。」
そう言ってため息を吐く。
ここ2階だったのかぁ。
「よっし!ちょっと待ってろ!」
そう言って、柊木さんも出て行った。
2人共おかしいや。
俺はなんだろうと思いながら、テレビを見る。
テレビの音だけが病室に響く。
『死亡した男性について、警察は詳しい身元確認を進めています。なお、三鈴総合病院で起きた事件との関連性も――』
俺はリモコンでテレビを消した。
静かになった病室。
……なんだろう。
さっきから胸の奥が変な感じがする。
傷口が痛いのかなぁ。
そう思いながら、俺はそっと自分の傷口を見ようと服をめくる。
思ったより、グロいなぁ。
これ跡残るかなぁ………。
ガラガラ。
扉が開く。
縛がドアから戻って来た。
早いなぁ。
「あれ?縛?」
俺が服を持ったまま声を掛けると、縛は痛々しい顔をしながらこっちに来る。
「痛いですか?ナースコール鳴らしましょう。」
そう言うと、ベッドのナースコールを手に取る。
「待って待ってー、痛くない。傷口が気になっただけ。」
「…………見てどうするのですか?」
「…………好奇心。」
「…………しまいましょう。」
そう言って、俺の服を直そうとする。
ガラガラ。
「正樹くんー!遊びに来たよーー!」
入って来たのは、結愛ちゃんと真美ちゃん。
「「……………。」」
2人は何も話さない。
真美ちゃんがそっと結愛ちゃんの目を塞ぐ。
………?
「戻ったぞー!!なんだ?入らないのか?」
帰って来た柊木さんは片手に大きな箱を持ち、真美ちゃん達に声をかけてこっちを見る。
「おい、子どもいるんだぞ。それに昼間だから、控えろ。」
真顔でこっちに向かって言う。
「何を?」
縛が言うと、柊木さんが近付いて来る。
「若いから、お盛んなのは咎めない。でも場所を考えろ。」
そうこそこそ話す。
「傷口を見ようと服をめくったら、縛がわざわざ見なくていいから、しまえと服を直してくれている所です。」
とりあえず、何か知らんけど、よくない想像をされていたのはわかった。
「…………こりゃ、余計なお世話だったわぁ。」
そう言いながら大きな声で笑う柊木さん。
真美ちゃんがその頭を叩く。
「お父さん、その箱なに?」
結愛ちゃんが、柊木さんの持っている箱を指差すと、柊木さんは箱を机の上に乗せて開く。
「ほい!24歳おめでとう!」
大きなケーキが入っていた。
フルーツたっぷりにクリームたっぷり。
美味しそう。
ラーメン味じゃないけど。
「わぁーー!ありがとうございます!」
初めての自分だけのケーキ。
嬉しい!
「はい、正樹さんこれ。」
縛は俺の手に何か乗せる。
それは…………
俺が大好きなラーメン店の優待券だった!!!!!!
しかも、5杯無料と飲み物飲み放題!!!!
すごっ!!!!レア中のレアじゃん!!!!!
「ありがとう!!縛!」
優待券を大事に持っていると、真美ちゃんからはラーメンのキーチェーンをもらった。
「わぁーー!かわいい!!!」
俺は1人で大興奮していた。
「私からはこれ!正樹さん必要でしょ!」
そう言ってもらったのは、ラーメン博物館のチケット。
「すごい!!今度皆で行きましょう!!」
俺は1人でキャッキャッしていた。
「正樹さん、あんまり騒ぐと………。」
「ねぇ、これ血出てない?」
俺は自分のお腹を指差す。
「…………傷口開きますよ。」
最後まで言い終わった縛は、ため息をつく。
「ため息つく場合か!ナースコール押せーー!」
一気にバタバタした病室。
慌てて入って来た田中先生に、傷口の確認をされる。
「しばらく安静って言いましたよね?」
「すみません……。」
怒られた。
「全く……傷が開いたら退院が伸びますよ。」
「え!それは困る!」
「だったら、大人しくしてください。」
そう言われて、俺は布団の中に戻される。柊木さんは呆れた顔をしながら、俺の頭を撫でる。真美ちゃんは安心したように笑っていて。結愛ちゃんは「もう!」って怒っている。
縛は――
なぜか少し悲しそうな顔をしていた。
なんだぁ?
別にそんな顔しなくてもいいのに。
でも、仕方ないじゃん。嬉しかったんだから。
横を見ると、机の上にはケーキとプレゼント。
ラーメンの優待券。
キーチェーン。
ラーメン博物館のチケット。
俺のために選んでくれた物。
「……誕生日って、こんな感じなんだなぁ。」
小さく呟いた。
「正樹さん?」
縛が俺を見る。
「いや、なんでもない。」
施設でも誕生日はあった。みんなで歌って。みんなでケーキを食べて。
楽しかった。
でも。
俺の名前を呼んで。
俺のために怒って。
俺のために慌てて。
俺のために選んでくれる。
そんな日は――初めてだった。
「来年もやろうな。」
柊木さんが当たり前のように言う。
「……来年?」
「当たり前だろ。25歳も26歳も祝うぞ。」
当たり前。その言葉が、なんだか温かかった。
「じゃあ、来年はラーメン味のケーキかなぁ。」
「それは絶対にやめろ。」
即答だった。なんでだ。
美味しいかもしれないのに。
そんなくだらない話をしながら、みんなが笑う。
俺は机の上のプレゼントを見る。
血で汚れたらいけないからね。
だって、これは俺が初めてもらった――
俺だけの誕生日プレゼントだから。




