逃れない現実
「佐伯さん、会社の人がお見舞いに来ましたよ〜」
俺は絶望感に浸っていたが、縛に大丈夫だと珍しく慰められている。
入って来たのは、道徳と中年の優しそうな男性。
うん、会社のパンフレットとかで見た事ある。
「突然失礼して申し訳ない。」
社長だと思われる男性が口を開く。
「いえ、こちらこそこのような格好で申し訳ございません。」
「いいですよ。気にしないでください。」
「お休みを頂いて本当にありがとうございます。有給消化後、すぐに復帰しますので。」
俺は頭をペコっとする。
社長は俺を起こしながら
「気にせず休んでくれ。今回事件に巻き込まれて大変な思いをしたでしょうから、会社からは有給消化後、3ヶ月のお休みが下りました。」
「え!働けます!」
「いやいや、君はもう少し休んでもいいですよ。いつも頑張ってくれてる事は噂で聞いてるよ。」
社長の言葉に俺は思わずうるっとする。
「社長〜。」
俺がそう言うと、社長がまた口を開く。
「それにこれは理事長命令でもありますしね。」
そう言うと、俺の横を見る。
……………。
「しゃ、社長……理事長って誰ですか?」
「おかしな質問しますね?理事長なら隣にいるでしょ?」
そう言いながら、社長はニヤッとする。
………いやいや、まさか。
横を向く。
そこにいるのは、縛。
…………。
「理事長?」
俺が聞くと、縛は「理事長の東雲です。」と自分を指差す。
道徳が笑っているのが見えた。これは知っていたなぁ。そして、社長も肩を揺らして笑っていた。
皆知っててやっていたのか………まぁ、いいか。
「じゃ言葉に甘えて休ませて頂きます。」
俺が言うと、縛は「あー、ゆっくり休め。」と言い、社長と病室を出て行った。
道徳はベッドの横に来ると、少し落ち込んでいた。
「先輩トラブル体質過ぎませんか?今回は助かったけど、また何かあったら………とりあえず厄祓いに行ってください。」
そう言った道徳は俺におすすめな所を教えてくれた。東京、大阪、名古屋、そして沖縄。とくにおすすめは沖縄なようだ。
遠いぞ。
「遠いかもしれないですけど、めっちゃすごいですよ!俺今まで女の子達に騙される事が多かったじゃないですか?親の紹介でそこに行ったから、ほのかに会えたのですよ!なので、行ってみる価値ありです!」
そう言って、俺はおすすめされた霊媒師?ユタの連絡先をもらう。
『比嘉 麗子』
珍しい苗字だなぁ〜
そう思っていると、道徳はこの後打ち合わせがあると言って、病室を出た。交代で縛が入って来ると俺の手元にある連絡先を見る。
「比嘉って珍しい苗字ですね。」
「珍しいよね〜それで、めっちゃすごいらしい。」
そう言うと、ふーんと興味があんまりない様子だった。
「縛。そういえばなんで言ってくれなかった?」
「何をですか?」
「理事長だって。」
「聞かれてませんでしたからね。言う必要ないかと。」
そう言いながら、お見舞いのフルーツからりんごを取って、りんごの皮を剥いていた。
「………まぁ、聞いてないしなぁ。」
そう言うと、目の前にりんごが出された。
……………。
「どうしたんですか?食べないですか?」
不思議そうにしていた縛。こいつ、忘れているのかも。俺怪我してまだ起きたばかりよ。それとも新しい刑罰か??
俺が「んー。」と唸りながら悩んでいると、気づいた縛が「あー。」と言いながらりんごを回収して行く。
そうそう、俺はまだ食べられないんだよ〜
縛はオレンジを手に取る。
「オレンジがよかったですか?」
「ちがう〜!俺食べられないの。まだ水しか飲んじゃいけないの!」
耐えきれず、俺がツッコミを入れると、
縛はニヤッとする。
起きてからしばらくこういうやり方で遊ばれる事が多くなった。
絶対楽しんでやがる。
と思い俺は不貞腐れた。
「あー、怒らないでくださいよ。これ持って来ましたから。」
そう言って、縛が持って来たのは北海道で見つけたファイル。
「…………。」
こいつ、俺を休ませる気ないなぁ。
「iPhoneも好きに使えないから、ファイルでも見て暇を潰してください。」
……確かに暇だぁ。
俺がファイルを取ると、縛は嬉しそうに笑った。
最近は少しずつ表情が豊かになって来たなぁ。
でも、持って来たのは、絶対俺が北海道から戻って来て、一回も開いてない事に気付いているからだと思う。
はぁー、踏み込むと決めたのは俺。
気合いを入れて、ファイルを開く。
そのファイルには、見た事ない名前が書いてあった。
『FILE No.006
人格形成比較実験
対象個体
FUTABA SUZUKI
HINA SUZUKI
目的
同一遺伝子を持つ個体を異なる環境下で育成した場合、人格・能力・精神性にどのような差異が発生するかを観察する。』




