君だよ
ピロリン♪ピロリン♪
ポケットに入っていた携帯を取り出すと、画面に出ていたのは病院からの電話だった。
「ごめん、希空ちゃんちょっと離れるね」
木に寄り掛かっている患者に声を掛けた後、見える所で病院からの電話に出る。
「はい、田中です。」
電話の向こうからは、希空の“家族”を名乗る人物が面会を希望しているという話だった。
「ですから、まだ会わせるのは難しいかと…」
苛立ちを覚えながら、電話の向こうにいる看護師に説明していると、何かを持った男性が希空に近付いているのが見えた。
「すみません!病院戻ったらまた話しましょ!」
急いで電話を切り、希空に駆け寄る。
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バンドを確かめようと手を伸ばすと
ザッ、ザッ――
背後から近づく足音に振り返るより先に、鋭い声が飛んだきた。
「離れろ!」
肩を掴まれ振り向くと、白衣を着たメガネの女性が見えた。
「あっ…」
話そうと口を開け掛けた時
「その方私の患者なんです。触らないで頂きたい。」
メガネがギラっと光るかのように、強い口調の多分医者の女性に思わずムッとしてしまう。
「反応がなくて心配で。前に知り合いが入院してた時、病院のバンドで管理してるって聞いたことがあって……」
そう言うと、医者は自分のおでこを抑えてながら、
「……本当にそれだけですか?」
「はい」
しばらく俺を睨んだ後、医者は小さくため息を吐いた。
「……すみません。言い過ぎました。この子、見た目が目立つせいで、怪しい人に声を掛けられることが多くて……警戒してしまいました。」
少し申し訳なさそうな医者に、先までの感情もなくなり逆に申し訳なくなった。
「いえ、勘違いさせた自分もいけないので大丈夫ですよ」
「本当に申し訳ない。」
このやり取りをしてる中でも、まったく反応を見せない小柄な女性に思わず好奇心が芽生える。
「この子どうしたのですか?呼びかけても反応がなくて……」
「あー…大丈夫ですよ。この子はこれが日常です。」
少し重たそうに口を開きながら、痛々しい表情で小柄の女性を見つめる医者。
「なんの病気ですか?」
口に出した瞬間、自分でも驚いた。
俺は何を聞いてるんだ。
初対面の人間に聞くことじゃない。
なのに…
知らなきゃいけない気がした。
なぜか胸の奥がざわつく。
理由もなく、この女性から離れたくなる。
「なんでそんなこと聞くんですか?患者の情報ですよ。個人情報って分かってます?」
医者の表情が少し怒っているのを見て、まずいやらかした。
「あっ、いや……は、は」
愛想笑が思わず出てしまう自分が情けない………
「はぁー、もういいです。今あの木の所までは貸切なので、あっち側でしたら使えますよ。」
医者から遠回しにあっち行けと言われ、少ししょんぼりしながら「あっ、はい。すみませんでした。」とか細い声で返事し、そそくさと移動する。
歩みを止めず広場まで来ると、空いてるベンチに腰掛ける。
「ふぅーやっと一息つける。」
思わず独り言が出てしまうが、誰も聞いてないからよしっ
気付けば公園の広場には人が増え、子ども達が走り回ったり、家族でピクニックしてたり、老夫婦が散歩したりと公園の中ではゆったりな時間が流れていた…
「ふぁ〜」
あんまり寝れてない影響か、思わずあくびが出る。
それにしても今日は本当に気持ちの良い天気だなぁ〜
日陰は風も吹いて涼しい……
キャッ、キャッ――
子どもの笑い声が聞こえる。
けれど、その声は少しずつ遠ざかっていく。
……待って
どこか懐かしいその声に手を伸ばそうとした瞬間、意識は深い闇へ沈んだ。
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「…さ………さん。大丈夫ですか?」
白衣の男性が問いかけてくる。
声が出ず頷くと
「よかったです。具合悪かったら言ってくださいよ。
では、報告しますね。3号と4号は無事に育ってます。」
男の言葉に頷き、管が繋がっている手から視線を上げると、目の前にはカプセルに入っている二人の胎児がいた。
トクン、トクン――
無機質な機械音の中で、それだけが……
たしかに――
“生きている”証だった。
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カァ……カァ……
カラスの鳴き声に目を覚ます。辺りはすっかり夕暮れになっていた。ん…左頬が暖かいぞぉ…
パッと顔を上げて、左を見るとそこにはワイルドお兄さんがいた。
「うわぁー!」
驚いて立ち上がり、後退りをする。
その姿を見たお兄さんは苦笑しながら
「よく寝てたね〜改めて自己紹介をさせてもらうよ。はじめまして、僕が手紙を出した、東雲 縛だよ。よろしく。」
握手を求めるかのように伸ばされた手を、思わず反射的に握り返す……あ…握ってしまった。これも仕事病だぁ……営業のくせだぁ……
握ったからには、自分の名前を言わないのも失礼かと思って口を開く。
「えっ、えっと、佐伯 正樹でふ。」噛んだ。うぉーーー、最近災難過ぎじゃねぇ。
手を握ったまま俯く正樹に縛は思わず笑ってしまう。
「ふっ、知ってる。まぁ、座って」
離された手でベンチに座る事を勧められる。
なんで自分の名前を知ってる。思わずプルッと鳥肌が立ってしまう。
ベンチを見て悩む正樹。
………とりあえず…はじっこにしよっ。うん。
ベンチに正樹が座ったのを確認した縛は口を開く。
「なんで知ってるか気になる?」
その言葉に頭を振って頷く。
「ん〜じゃ先に僕の話を聞いてくれる?聞いてくれなくても話すけどね。」
返事をする前に縛さんの話がどんどん進んで行く。意外と強引だぁ。
「14年前に日本を震撼させた人身売買事件があったのは知ってる?」
「知らない、だって9歳だし。興味もないです。縛さんは逆になんで知ってるのですか?」
と少し無愛想に返事をする。
「僕はまぁ〜そんなに詳しい訳じゃないだけど。その時、逮捕されたのは、絶大なカリスマ性を誇った政治家久遠 理と、世界各国の富豪たち。被害者は約200人の子どもたち。」
「2…200人ですか?」
思わず聞き返してしまった。
「そうだよ、一番下は1歳で一番上が15歳だった。全員未成年だった事で尚更事件は注目を浴びた。しかし保護された彼らには一つ共通している事がある。それは誰も覚えていないと言う事。200人、誰も覚えてないんだよ。連日ニュースや新聞で取り上げられ、子どもや村に関する情報もない。その中で主犯だった久遠は突然の病死。そして、関わった関係者も次々と不審死して行った。」
静かに語る縛さんの声にゾクッとする
逃げ出したい
なのに耳を塞げない
なぜか最後まで聞かなければいけない気がした。
そして…
「その被害者の1人が……」
縛さんの目が、真っ直ぐ俺を見る。
「佐伯正樹。君だよ。」




