三鈴公園
カチャン
手に持っていた箸が滑って、床に落ち音を立てる。
はぁ…はぁ…
気付けば、お兄さんを追いかけて玄関に出る。もうとっくに姿はどこにもない。
「くそっ、なんなんだぁ」
急に押し寄せる不安に苛立ちを覚える。
「あぁー!もうっ。」
と自分の頭を掻き回しながら、玄関に戻る。恐怖で手が震える。キッチンからコップを出し、冷たい水を入れる。
ドゥンクン ドゥンクン
心臓の音に苛立ちを覚え、目を瞑って、深呼吸をする。意味が分からない、なんで自分に手紙を出すのか。なんで三鈴公園で会うのか。なんで同じ名前の人に会うのか。分からない…分からない……
ピロン
iPhoneの音に思わず現実に引き戻される。正樹は、コップを持ってソファにあるiPhoneを手に取ると、メッセージを確認した。
『先輩、返信くださいよー構ってくれないと、惚気ますからね〜』
桜木のメッセージに毒が抜かれる。
「たくっ、構ってちゃんかよ」
肩の力が緩み、思わず笑みが溢れる。
『やめろ〜砂糖が口から出てしまうだろ。』
と返信する。
桜木のおかげで冷静さを取り戻す事ができた。悩んでもしょうがない、お兄さん悪そうな奴じゃなかったし、まぁ、話だけ聞くかぁ〜
不思議だ。
さっきまであんなに怖かったのに、あの人の事を思い出すと警戒心が湧かない。
まぁ、考えても分からんかぁ。
正樹は机にあるラーメンを目にすると
「あっ!俺の味噌ラーメンかぁ!!伸びてるー!!」
慌ててまたラーメンを啜り、今日は早く寝る事にした。
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カンカンカン
(踏切の音)
踏切の音に目が覚める。慣れた動きでベットを探ると、枕元にあるiPhoneを手に取り、目を細める。
「まだ、5時じゃん〜」
パタン
布団を持ち上げ、目を閉じると静かな暗闇が広がる。
寝返りをすると、ギシッと軋むベット…
目を閉じて
右、左、右、左
なんと寝返りしても、目が冴える
「あーー!寝れん!」
寝癖の付いた髪を髪上げ、布団から出ると、じわっ来る熱気に思わずため息が出る。
手紙の時間までまだ早い……落ち着かない心を落ち着かせようと洗面台に行く。
結局、家にいても落ち着かない。正樹は予定よりもかなり早く身支度を整え、家を出て三鈴公園に行く事にした。
外に出ると、まだ少し肌寒い風が吹く時間だったが、散歩には丁度いい。
三鈴公園は珍しく、湖、博物館や植物園、総合病院様々な施設がある家族向けの公園である。施設にいた頃は、よく皆でピクニックに行った。あの頃は、皆まだ幼かったからかぁ、よくおやつの取り合いで喧嘩したなぁ〜
思い出に浸しながら、ランニングをする人達を横に、歩みを進めて行く。三鈴公園のシンボルである大樹が少し見えて来た。
すれ違う人もサラーニーマンや学生と変わって来る。
周りはスーツ姿や制服ばかりだ。
私服の自分だけ場違いな気がする。
公園の入り口に着くと、無意識にiPhoneを持ち上げ、時間を確認する。
「今は8時かぁ」
目的地に着いた安心からかぁ、小刻みに揺れるふくらはぎに気付いた。
「やっぱ年だなぁ〜運動しないと」
そう言いながら、公園の噴水を通り過ぎ、カフェに着き、慣れた足取りで注文しに行く。
「いらしゃいませ。ご注文お決まりですか?」
「テクアウトでカフェラテ1つください。」
「かしこまりました。お会計478円になります。」
「電子決済で。」
「できましたら、またお呼びしますのでお待ちください。」
注文を終え、iPhoneを触りながら、窓の近くで待っていると、突然眩しい光が目に入った。
……まぶしっ、なんだぁ
と顔を上げて、窓の外を見ると、木の近くに車イスに群がる鳥が見えた。
車イスが光を反射したのか、それにしても鳥はやっぱり光る物が好きだなぁ
「カフェラテでお待ちのお客様。」
店員に呼ばれ、カウンターでカフェラテを受け取る。
「ありがとうございました。」
という店員の声を背に店を出ると、パサッという聞き慣れた音と見慣れた影通って行く。
見上げると、白いカラスが「かぁー」と鳴きながら、車イスに向かって行く。
「ふっ、やっぱ光る物が好きなんだなぁ。」
車イスに止まった白いカラスを見て感心していると、カラスは再び「かぁー」と鳴く。視線に気付いたのか、カラスはこっちに顔を向け、「かぁー」とまた鳴く。
「おっ、なんだぁ。今日は公園に遊びに来たのか?」
カラスに声を掛けると、返事をするように「かぁー」と鳴いた。
まるで、こっちに来いと言われているような不貞腐れた態度だぁ。
「しょうがないなぁ。」
カフェラテを片手に、カラスに近付くと、先までの鳴きはなんだったのかぁ、バサっと目の前から通り過ぎて、飛び立って行った。
「うぉ、たくっ呼ばれたから来たのに…」
思わずカラスに対して文句が出る。瞑った目を擦り、目を開くと、木の下に置かれた車イスのそばで、小柄な女性が木に寄り掛かっていた。
茶色の髪が風に揺れている。
人形みたいに整った顔立ち。
けれど、その目だけはどこを見ているのか分からなかった。
「うぁ!…すみません!」
人がいる事に気付いたら顔に熱が集まって来る。
うぅー恥ずかしい!穴に入りたい気分だぁ
…カラスのやつめぇ、今度会ったら文句言ってやる
女性の言葉を待っていても、返事が返って来ない。
…?
女性はピクッとも動かず、ただ座っていた。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
口からは思わず心配の言葉が出る。
反応のない女性に焦る気持ちが出て来る
女性が着ていた服は総合病院の患者服、養護施設にいた頃、ドジな施設長が骨折して入院した病院だぁ。
そこの病院では、患者の症状や管理区分ごとに色の違うリストバンドを付けている。ドジな施設長は緑だった。
反応のない女性のバントを見ようと、手を伸ばす
コツン
コツン
背後から近付く足音
その足音が、自分へ向かっている事に正樹は気付いていなかった。




