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人類の罪  作者:
動き出した繋がり
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月に揺れるカーテン

「ん?」


俺は慌てて起き上がり、周囲を見渡した。


心地良い風に吹かれながら、カーテンが揺れている。


手に感じるのは、微かな温かみ。


そこに目を向けると、田中先生がいた。


メガネを外した田中先生の顔には、涙の跡が残っていた。


でも俺は、その顔をどこかで見たことがあるような気がした。


……けど、思い出せない。


「………ぅん?」


俺が動いたからか、田中先生が目を覚ました。


目を擦りながら、俺の方を見る。


「起きたんですか?」


「うん。」


「………傷、痛みますか?」


「まぁ……少し?」


俺が答えると、田中先生は不思議そうな表情をした。


「なんで疑問系なんですか?………今回は本当にごめんなさい。私がちゃんと止めていれば………。」


悔しそうに下を向く田中先生。


「うん、田中先生のせいじゃないよ。悪いのはあの男の人。」


「……本当にごめんなさい。」


「あの男の人が悪いんだから、謝らなくていいよ。」


「でも……。」


納得していない様子で考え込む彼女に、俺は言った。


「ん〜……どうしても気になるなら、今度何か飲み物奢ってよ。」


そう言うと、田中先生がくすっと笑った。


……やっぱり。


その顔、見たことがある気がする。


でも、思い出せない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あの事件が起きた時、私は席を外していた。


あの自称希空の家族という男性を、病院の玄関まで見送っていた。


車に乗り込む姿を確認した時、病院用の携帯が鳴った。


『田中先生、緊急の患者さんが運ばれてきました!対応できますか?』


その言葉に、私は男が車を走らせるのを見届け、急いで患者の元へ向かった。


だから、あの男がまさか車を引き返してくるなんて、考えもしなかった。


患者の対応を終え、希空に会いに行くと病室の異変に気付いた。


なに?なんで嫌な予感がするの?


希空!!


私は走った。


人混みを押し除けるようにして、その場所へ向かう。


「………だめ。」


鈴のような声。


希空が立っている………。


あれ?


待って。


血が垂れてない?


希空が怪我したの!?


いや!!あれは……


佐伯さん!!!!


待って、なんであなたがいるの!?


「取り押さえろー!」


その声に全員が動き出した。


私は急いで佐伯さんの元へ駆け寄り、流れる血を止めようと必死に圧迫を続けた。


だめ……!


傷が思っていたより、かなり深い!!


その傷の深さにショックを受け、自分でもあの後どう動いていたのか覚えていない。


ただ覚えているのは、手術室に送り出した後。


血の色に染まった、自分の両手。


見慣れているはずだった。


何度も見てきたはずだった。


なのに、私はひどくショックを受けていた。


手の震えが止まらなかった。


そんな私をそっと抱きしめたのは……


希空だった。


望んでいた変化のはずだった。


ずっと彼女が自分の意思で動けるようになることが願いだった。


なのに、私は喜べなかった。


いや……違う。


嬉しさも、安心も、恐怖も、後悔も。


全部混ざった複雑な感情が、私を包み込んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「田中先生?」


急にぼーっとし始めた田中先生の肩を俺は揺する。


「あ、ごめんなさい。明日病院から再度謝罪に来ますね。」


そう言って田中先生は、俺に布団を掛ける。


……なんで皆何かあると、俺に布団を掛けるのだろう。


病室から出て行く田中先生の背中を見て、俺はほんのり心が痛んだ。


ガラガラ


ドアが閉まって、俺はまた1人になった。


久しぶりの1人に、俺は思わず周囲を見渡す。


「はぁー、いつの間にか1人に慣れなくなって来た。」


うっすら月の光に照らされた病室で、俺はただ座っていた。


ガッ……ゴッ……ガッ


ん?なんの音!!?


まさか、犯人!?


音がする方向を見ると、そこは窓だった。


俺はナースコールを手に持ち、まだ動けない体をどうにか動かそうとする。


音がどんどん近付いて来る。


そして……


窓から見える手に俺は驚いて、叫びそうになった。


でも叫ばなかった。


なぜなら窓から現れたのは


「よいしょ」


と言いながら、天然パーマの髪が揺れたから。


「小鳥遊さん、なんで窓から来たのですか?」


まだ完全に登りきれてない小鳥遊さんに俺が聞く。


「おっ!正樹くんおはよう〜昨日目覚めた話を聞いて、僕も見舞いに来るつもりだったけど。ワンワンがね〜」


そう言って、窓に足を掛け、身を起こし、入ってくる。


昔からやたらと運動神経を施設でも発揮した小鳥遊さん。仕事から逃げる時には追いつかない上に、見つからないことで有名だった。それを見つけるのはいつも俺だ。


手をパンパンと叩き、小鳥遊さんが近付いて来る。


「うんうん、顔色は大分良くなったね。……ん?なんで口周りと頬辺り少し赤いの?」


「………起きてすぐラーメン食べたいと言って、縛が貼らせたらしいです。」


それを聞いた小鳥遊さんは目を見開き、そして、少し微笑んでから、お腹を抱えて爆笑した。


「…………。そんなに笑わなくていいじゃないですか?」


「いやいや、うん。正樹くんらしいよ。」


そう言って小鳥遊さんは俺の頭を撫でる。


そして、俺に何かを差し出した。


銀色のブレスレットだった。


「ん、回復祝い。」


俺はそれを受け取りながら、思わず文句を言った。


「ピンクの防犯ブザーじゃないんですか?」


少しムッとした顔に、小鳥遊さんは驚く。


「ふっふ、あれは冗談だよ。そうでもしないと、正樹くんは反省しないでしょ?」


そう言われて、俺は少し考え込む。


多分俺は病院に来た事は後悔してない。でも、皆に心配させたのは後悔してる。


「まぁ、少しずつね。」


そう言って、小鳥遊さんはまた俺の頭を撫でる。


どういう意味だろう?俺は頭にハテナを浮かべた。


そして、小鳥遊さんが俺に言う。


「あっ、そういえばさっきニュースで犯人亡くなったって言ってたから。もう安心して寝なさい。」


そう言われると、俺に布団を掛けて、手を振りながら窓から出て行く。


………俺は、ひょいっと飛び出た小鳥遊さんに驚けばいいのか、それとも犯人の死亡に驚けばいいのか。


感情は大混乱していた。

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