お口ミッフ◯ーちゃん
『次のニュースです。先週三鈴総合病院で起きた殺傷事件についてです。病院側から記者会見が昨日行われました。殺傷された被害者は目を覚まし、現在は回復中との事。………』
「ちょっと!正樹くん聞いてる?」
呼ばれた方向を見ると真美ちゃんが怒っていた。お腹の痛みを感じながら、俺は頷く。
「本当に心配したんだからね!これからは1人でどこかに行く時は、東雲くんか私達に連絡しなさい!」
…………俺は中学生だろうか………。
返事をしないでいると、横から縛が睨んでくる。俺は見てない。見てないけど、目線がすごいジリジリと刺さってる。
でも………俺悪くないもん。
ズルルル
香り豊かな鰹節の匂い、そして聴き慣れた音。俺はさっきから見ないようにしていた前を見る。
ズルルル
…………柊木さんがラーメン食べてる。これで2日連続だぁ。
どうやら一昨日まで山場だったのか、相当俺は危なかったらしい。
意識が薄れて行く中で、俺が微かに聞こえていたのは、『味噌ラーメン』『塩ラーメン』『塩レモンネギラーメン』。
その途端、ラーメンがフラッシュバックして来る。俺は食欲に負けたらしい。素直な体だぁ。
まぁ、ここ最近会った人達も出て来ていたのは秘密だけど。
で、なんで柊木さんがラーメン食べているのか俺には不明だったが、さっき結愛ちゃんが教えてくれた。
俺は昨日の事を思い出す。
「………ん…。」
「正樹さん!!!!目覚めたのですか!!?痛くないですか!?」
縛は涙を流しながら、俺の肩を掴む。
「大丈夫かぁ!佐伯?!」
「よかった!」
「正樹くん、痛い所はない?」
「先輩!!」
俺の周りには最近では見慣れた人達。
皆目にくまがあったり、目が赤かったりと、よっぽど心配させたらしい。
申し訳ない気持ちで俺は、すみません、ご心配をおかけしてと言おうとした。
でも……でも……俺の口は素直だった。
「塩レモンネギラーメン食べたい。」
その瞬間、辺りが静まった。
そりゃそうだ。俺だったら、俺も静まるさぁ。
でも、俺の口は俺の意思では動いてないらしい。
「塩レモンネギラーメン、期間限定……食べたい。」
……………………まぁ、うん。これが原因です。
夕方、柊木さんが病院側から許可をもぎ取って来て、俺の食べられないラーメンを目の前で食べる酷刑が始まった。
ちなみにこれを提案したのは、道徳である。
昏睡している俺を一緒に待ってくれていたらしい。
ズルルル
さぁ、現実逃避はここまでにしよう。うん。
気付いたでしょ?俺が一言も発してないの。
なんでかって?
結愛ちゃんにテープで口を塞がれているから。
怒った結愛ちゃんにこの刑を提案したのは、縛です。
やっと目を覚ました俺に皆ひどくない?
でも、一番ひどいと思ったのは、今朝届いた箱。もう派手派手な箱じゃなくて、上品な箱ね。
小鳥遊さんからだと分かった時は、三度見したよね。
ちゃんとしたセンスはお持ちだったようです。
震えた手で箱を開けると、中に入っていたのは……
防犯ブザーだった。
しかもピンク。
もう、本当信じられないと思う。
箱を持って固まる俺の横から、縛が無言で箱と中身を取って捨てたのも忘れない。
本当なんの恨みあるの?
『………一度逮捕された犯人ですが、警察車両で護送されていた間に逃走したと思われ、現在行方不明となっています。』
ん?逃走?
そう思って、テレビの画面を見る。
そして映されたのはあのダンディーな男性。
「んー!!!ん!!んー!!」
俺がテレビを指差して、危険だと話すが、周囲は一斉に動きを止めた。
「……大丈夫よ。」
真美ちゃんが俺の背中を撫でる。
「あー、もう怖くないぞ。」
柊木さんが俺の頭を撫でる。
「んんー!!!!」
違うとジェスチャーをするが、通じない。
ガラガラ
そこに田中先生が入って来た。
「体調はどうですか?」
田中先生の声に、縛と柊木さんが俺の前に立つ。
「大丈夫です。」
縛の声が冷たい。
なんだ?タダならぬ雰囲気に俺はソワソワする。
「んー?」
俺が真美ちゃんの方を向いて、田中先生を指差しする。
「心配しなくていいわよ。」
それだけ言うと、俺に布団を掛ける。
いやっ、眠くないのですが??
「今回は本当に当院の伝達ミスによって、このような事件が発生してしまった事、申し訳なく思います。」
田中先生が頭を下げる。
俺はなんの事か分からず、頭にハテナを浮かべる。
「後で説明してあげるから。」
真美ちゃんがそう言うと、俺の肩まで布団を掛ける。
…………だから、俺眠くない。
「謝罪で済む事じゃないぞ?命に関わっているんだぞ?!」
柊木さんが怒る。怒る所なんて初めて見た。
俺は口出ししてはいけないと思い、自分から布団に頭を入れる。
きっと口出ししたら、ラーメンの刑罰が長くなる。
そう思い、そっと目を閉じる。




