願いと現実
相変わらず、柊木さんのお店はゆったりしている。
「あっ!そうだ!お父さん。昨日これ返すの忘れたって言ってたあれ!持って来ないと。」
結愛は柊木さんに声を掛けると、店のバックルームに駆け込んで行った。
「何か貸してましたっけ?」
俺が言うと、カウンターから柊木さんが「あー、あれかぁー。」と言った。
「はい。これ!」
結愛ちゃんが柊木さんに渡したのは、北海道で見つけたファイルの一つだった。
「いやー、どうやら俺、一冊だけキャリーケースの中に入れてたみたいでよ。さっき真美ちゃんが気付いて、結愛が届けてくれた。」
柊木さんからファイルを渡されると、ファイルから一枚の写真が落ちて来た。
「わり。」
そう言って柊木さんがカウンターに落ちた写真を拾うのを、その後ろで見ていた結愛ちゃんが声を上げる。
「うわぁー!めっちゃ綺麗な子。モデルみたい。」
そう言って、写真に触ろうとする。
それを見ていた柊木さんが、結愛に届かないように腕を上げる。
「ダメだぁ。これを調べるのは大人の仕事だ。お前はパーティールームで真美ちゃんが来るまで、英語の宿題だ。さっき終わらないって愚痴ってただろ?」
「えーー……しょうがない。お母さん来たら呼んでね。」
「おう、分かった。」
結愛ちゃんが見たかった写真、それはローランさんのだった。そういえば最近会いに行ってないなぁ。
「佐伯、はい。これ今日持って帰ってくれ。」
渡された資料と写真に俺は頷く。
縛はまだ帰って来ない。
俺は柊木さんにネットカフェの一室を借りて、しばらく1人の時間を過ごした。
借りる時に柊木さんが何か言いたそうにしていたが、結局何も言わずに部屋を貸してくれた。
もちろん、有料で。
なんせ俺はいい客だから!
そういえば、久しぶりに1人になったなぁ。
俺はそう思いながら、パソコンで動画を見て、そっと目を閉じた。
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「お父さん、正樹さんは?」
そう言ったのは、さっきパーティールームに入ってまだ10分も経っていない結愛だった。
「なんかゆっくりしたいらしいから、部屋借りて行ったぞ?」
結愛はそれを聞くと、唇をとんがらせながら言った。
「えーー、英語教えてもらおうと思ったのに。まぁ、いいか。」
そう言って、またもやパーティールームに戻って行った。
結愛は気付いてなかったけど、佐伯、どんどん顔色が悪くなっていたなぁ。
あれは多分、本人なりに何か感じているのかもなぁ。
気付けば夜中。
結愛は真美ちゃんがすぐ迎えに来て、家に帰って行った。
佐伯はまだ、店にいる。
ガランガラン
「いらっしゃいませ。」
顔を上げると、最近見慣れた黒い影が見えた。
「遅かったなぁ。」
俺がそう言うと、東雲は「あー。」と答えた。
「で?処理したのか?」
「箱と中身は処理を終えた。あの家、防犯カメラないから、ついでにつけました。」
相変わらず仕事が早いことで……
俺が感心していると、東雲が口を開く。
「正樹さんは?」
「あー、203号室でゆったりしてる。」
俺が言うと、東雲は奥へ歩いて行った。
相変わらずマイペースだ。
そして出て来た東雲の腕には、佐伯が寝ていた。
「やっぱ寝てたか?」
俺がそう言うと、東雲が眉を上げる。
「東雲が行った後、どんどん顔色が悪くなってよ……多分、何か察してるのかもなぁ。」
そう言うと東雲は金を置いて、佐伯を連れて帰って行った。
……東雲、さすがに10万はしないぞこの店。
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かぁー
「……ソラ?」
そう思いながら、俺は目を覚ます。
どこだぁ??
目を擦りながら周りを見る。
灰色のシーツに青色の布団、そして枕元には見慣れたラーメンのぬいぐるみ。
ここ、俺の家?
昨日どうやって帰ったっけ??
そう思うと、机には縛からのメモがあった。
『正樹さんへ
昨日柊木さんの所で寝ていたので、そのままにしときました。
今日仕事があるので、夕方まで帰って来ません。』
………夕方……
とりあえず風呂入ろう。
俺は風呂を終え、外に出ると昼間の暑さに少しげんなりしていた。
あっつ。
最近暑過ぎじゃない?
目的地は、三鈴総合病院。
最近暑くなって来たからか、ソラが顔を出す事が少なくなった。
きっと、暑い〜と嘆きながら、日陰や水辺にいるだろうなぁー。
あまりの暑さに、俺はiPhoneからタクシーを呼んだ。
日陰でしばらく待っていると、タクシーが来た。
その時、一瞬だけ背中が冷たくなった気がした。
「……ん?」
思わず振り返る。
でも、そこにはいつもと変わらない景色があるだけだった。
……気のせいか。
最近暑いし、疲れてるのかもなぁ。
「名前教えてください。」
「佐伯です。」
「どうぞ。どこ行きますか?」
「三鈴総合病院にお願いします。」
そう言うと、俺はタクシーで三鈴総合病院へ向かった。
けど、俺は気付いていなかった。
気付いていたら、きっと……
今までの日常を過ごせたのかなぁ?




