戻って来たはずの日常
北海道からやっと自宅に帰った俺たちは、ソファーで寛ぐ。
はぁー、この短い期間で色々あったなぁ……自分が14年前の事件の被害者だと知った時は、他人事だった。だって記憶がないし、覚えてもいない。自分が何者だったなんて気にもしなかった。そのぐらいその日常は、俺にとっての当たり前だったから。
でも、俺は知ってしまった。14年間1人で探し続けていた男を、そして、家族を失っても強く生きる人達を。そんな人達に比べたら、俺はきっとなんでもない小さな存在。でも、俺は知りたくなった……なんで、俺は今ここにいるのか。
そして、俺は作られた者なのか、産まれた者なのか……なんとなく知らないといけない、そんな気がした。
「正樹さん、これどうします?」
声を掛けられたのは、いつの間にか片付けを始めた縛。
手に持っていたのは、俺が買ったカップラーメン。
もちろん、味噌と醤油とスープカレーとジンギスカン……えっとえっと、確か……熊肉と鹿肉の入ったものを買ったようなぁ………
そう思って顔を上げて話そうとすると、縛は一つのカップ麺を俺に投げる。
「一日一つまでです。」
………俺、何も言ってない。
「交渉不可です。」
そう言って、縛はカップラーメンを片付けにキッチンに行く。
俺は手に持ったカップラーメンを見る……
北海道から帰って来て、一番最初に食べるラーメンはまさかの熊肉入りかぁー重いなぁ……
ピロン♪
ん?誰からだぁ?
ポケットからiPhoneを出すと、画面にはしばらく会ってない後輩の名前が書いてあった。
『北海道旅行どうでした??帰って来て早々で申し訳ないのですが、以前話してた婚約者との食事会なのですが、明日でもいいですか?急遽ですみません。』
なんだ?道徳が急に誘うなんて珍しい。
『ええぞ、ご要望の白い恋人も買って行くよ。』
ピロン♪
相変わらず早いなぁ。
『ありがとうございます!明日は、東雲さんも一緒にこの店まで連れて来てください!』
縛も?なんで?
『なんでだぁ?』
そう送りながら、俺は縛に声を掛ける。
「縛〜!!明日暇ー?」
キッチンから顔をぴょこと出す縛。北海道から帰って来て、ますます大型犬みたいだぁ。
「どうしてですか?」
まぁ、そうなるよなぁー。
「道徳が結婚前にご飯一緒に食べようだって。」
「桜庭さんが?」
「そう〜。」
「………明日は暇じゃないです。」
そう言うとすぐにキッチンに戻った。まぁ、縛らしいわぁ。
『縛は明日用事あるって〜』
そう送ると、すぐ返信が返って来た……。こいつ、暇なのか?
『なんか、婚約者が東雲さんと知り合いらしいです。なので、僕が東雲さんと知り合った事にすごく感激してました。無理強いはしないので、明日来れたら来て欲しいとお願いしてみて欲しいです……。』
………こんなにお願いされるの珍しいなぁ。
「縛〜!明日道徳のご飯一緒に行くの決定なぁ。」
「僕用事がありますよー」
「どうせ、フルーツタルトだろ?」
俺は知ってるぞ、お前が帰ってくる前に、真美ちゃんから教えてもらった、一度は食べたいケーキシリーズ。フルーツタルトを聞いた後、めっちゃ調べていたの。
「………。」
縛はキッチンから返事しない。
「結愛ちゃんから実は朝で売り切れるシュークリームの店を聞いてる。明日朝買って来てあげるから、一緒に行こう〜。」
そう言うと、キッチンから顔を出して、少し不機嫌そうな顔が見えた。
「二つお願いします。」
「はいよー。」
そう言って、俺は道徳に返信を返す。
『明日、縛okだって〜。』
ピロン♪
……やっぱこいつ暇だろぉ。
『ありがとうございます!ここのお店に19時待ち合わせでお願いします〜!明日待ってます!』
とりあえず明日の予定が決まった。よかったよかった〜〜
ピンーポン
ん?誰だぁ?
そう思ってインターホンを見ると、ここ何日いやでも見慣れた顔がいた。
「どうしたんですか?柊木さん。」
「おー、わりーなぁ。家に帰った後にこれ渡すの忘れてたわぁ。」
そう言って、柊木さんが取り出したのはあのファイル達が入っていた袋。
「あ!ありがとうございます!」
そう受け取ると、柊木さんが玄関を指差す。
「いや、こっちこそ調査するのに家貸してくれてありがとうなぁ。流石に店では何かあったら怖いからなぁ。ところで、これなんだ?」
「ん?何とはなんですか?」
指差した方を見ると、そこにはやけに主張が激しい箱が置いてあった。
……こんな事するのあの人しかいない。
「あー、多分施設長ですね。」
「来たのか?」
「多分?」
「?帰って来た時には気付かなかったのか?」
「疲れてたので、吸い込まれるように家に入って行きましたよ〜。」
柊木さんに上がるよう促しながら、スリッパを出す。柊木さんが入ってきたのを確認した後、俺は玄関にある箱を持って入って行く。
「ふぇー、大きい家に住んでるのなぁ〜。」
「なんか、施設から独り立ちする時にもらいましたよ〜。」
「今の施設そんな事までしてくれるのなぁー。」
そう言いながら、柊木さんが感心する。縛がキッチンから出て来ると、ファイルの袋を取り、ソファーに座った。
ったく、相変わらずのマイペース。
柊木さんも縛と合流して、調べ物が始まった。俺は箱を持ってキッチンに行くと、ハサミを見つけて箱を開ける。なんだろうこれ?
箱を開くと、中には俺の写真がたくさん入っていた。
え?何これ?
写真を手に取ると、一枚一枚確認していく。
どれも俺じゃん。しかも全部目線合ってない。ん?縛や柊木さん達も写ってる。でも、俺だけドアップだから、見切れてる?
え?こわっ。
俺はiPhoneを取り出して、小鳥遊さんに電話する。
「はいーはいー、もしもし小鳥遊ですよー。」
気が抜けるのんびりした声。
「小鳥遊さん、今日俺の家来ました?」
「ん?行ってないよ?だってまだ北海道にいるんでしょ?行っても意味ないじゃん。」
「え?あっ、俺いつ帰って来るのか言ってなかったでしたっけ?」
「そうだよ〜、なになに帰って来たの??お土産何か買って来てくれた??小鳥遊さん楽しみだなぁー。」
電話から聞こえる小鳥遊さんの声はもう俺には届かなかった。
俺は自分の目の前にある箱をただ眺める。
さっきまで戻って来たと思っていた日常が、少しずつ崩れていく音がした。




