番外編 〜忘れられない日〜
カニ鍋を食べた後、俺は皆から離れて、ある部屋の前に来た。
コンコン
「入るぞ、ひまり。」
そう言って、俺は誰もいない部屋のドアを開けた。
この部屋はあの日のまま。
俺は知ってる、この部屋を母さんが今でも毎日掃除して、いつかひまりが帰って来るのを待っている。
もう25年も、この部屋の主を待っている。
今でも思い出す。
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「お兄ちゃん?」
「んぁ?なんだ?」
顔を上げると、そこには今日18歳になるひまりが立っていた。ハーフアップの長い髪に、メガネ。そして、何よりも生意気な妹。
「もう!話聞いてなかったでしょ?!」
制服を着て、なにやら怒ってる。
「おー、聞いてた聞いてた。」
俺がパンを食べながら言うと、ひまりは文句を言い始めた。
「絶対聞いてない〜!」
そう言いながら、俺の背中を何度も叩く。
「わぁーたから!聞くから、なぁ?聞くよ。」
そう言うと満足したのか、叩く手を下ろした。
「今日は友達と遊びに行くから、送ってって〜。」
「いいけど、何時に帰るの?」
俺が聞くと、ひまりが五本の指を突き出す。
「17時です!」
「そりゃ随分早いなぁ。」
俺が言うと、ひまりは笑いながら言った。
「だって、せっかく外出届けを出して帰って来てくれたのに、あのゲームの勝負を終わらせないのはもったいないじゃない?」
そう言うと、ゲーム機を掲げて笑い出した。
「おうおう、せっかくだからもっと遊んで来たら?」
「いいの!それにここ北海道だよ。何もないんだから。」
すごい威張って話すじゃん。と俺が見ていると、母さんがこっちに歩いて来る。
「あら〜そんな事言って〜今日は憧れの圭太くんも来るんでしょ〜。」
母さんのその言葉に、俺はニヤッとした。
「おっ、さすが18歳〜。」
パシッ
そう言うと、ひまりは俺の頭を叩く。
「もう!お母さん言わないでよ。見て、この悪巧みの顔!!」
「圭太くん〜♡と一緒に遊ぶんだもんな。」
俺がそう言うと、ひまりはさらに怒って携帯を取り出す。
何するんだぁーと見ていると、ひまりはどこかに電話する。
「真美ちゃん聞いてー!お兄ちゃんが、意地悪する。」
そう言って俺にあっかんべーをして去って行こうとする。
「待って待って待って、なんで真美ちゃんの電話番号持ってる!?」
俺が追いかけると、逃げるひまり。
そんな日々が続くと思っていた。
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「もう!お兄ちゃんたらっ!」
真美ちゃんとの電話を取られて、その後は人の携帯でいちゃついて〜もう。羨ましいんだから。
「ひまりー!」
芽依の声が聞こえて、私が顔を上げる。
あっ、もう皆集まっていたんだ。
「おまたせー!!」
そう言って、駆け寄って行くと、憧れの圭太くんの姿があった。
「け、圭太くんも今日来れてよかったね!」
そう話しかけると、
「うん、塾が休みになって本当嬉しい。」
返事してくれた事が嬉しくて、私は思わずもじもじしてしまう。
「もう、早く行こう〜!せっかくショッピングモールに来たんだから。」
そう言って芽依は私の腕を掴む。
「ほらっ、圭太行くぞ。」
芽依の彼氏の勇人も、友達の圭太くんを引っ張って行く。
雑談しながら、私達は色んな店を回った。
うわぁ〜、あの浴衣可愛い!
店に入ると、圭太くんがそばに来る。
「似合いそうな浴衣だね。」
「え!?」
思わず胸が高鳴った。だから、芽依達がこそこそ話をしていた事に気づかなかった。
「いい?勇人。今日はドキドキ作戦であの2人をそろそろくっつけるわよ!」
「分かってる。あいつらもう2年もあんな感じだぜ。いつか付き合うと思ったら、まさかこの夏になるまでフリーのままなんて、意外だぁ。」
「そうよ!私はもう待てないよ。大好きな2人がくっついてくれる事が何よりなんだから。それに勇人聞いた?」
「聞いた聞いた。今日帰り道で告白するって言ってたよ。」
「じゃ、2人の時間つくらないとだね。」
芽依達はニヤッとする。
私達は映画を見て、フードコートでご飯を食べて、そのあとは家に帰ろうと芽依が言った。皆賛成と嬉しそうに手を上げる。
「ちょっとお手洗い行って来る。」
私がそう言うと、芽依も行くと途中まで一緒だったけど、カバンを机に忘れたと言って、取りに行った。
私は思わず、今日の圭太くんの言葉を思い出す。
あー、今日の圭太くんもかっこいい〜!
あの浴衣、ちょっとおねだりして買おうかなぁ。それで、皆で――
……あれ?
なんか……
眠い……
そうだ。
帰ったら、お兄ちゃんとゲームして……
それから……
圭太くんと……
……
お祭り、行きたかったなぁ。
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あの日、俺は何度も考えた。
なんで、あの時「待ってるよ」って言えなかったんだろう。
なんで、あの時トレイの入り口付近で待たなかったのだろう。
もし、行ったら
何か変わっていたんじゃないかって。
「ん〜?勇人達、ひまり見た?」
戻って来た芽依がそんな事を聞いて来る。
「いや、こっち来てないけど?」
勇人が答える。なんだろ、なんか嫌な予感がする。
「ひまりちゃん、お手洗いにいなかったの?」
俺が聞くと、芽依は首を横に振った。
「そうなのよ、トイレに入った後待っててくれるって言ってたのに、どこにもいないから、電話もしたけど……」
「またまた〜いつも学校でやってるお前らのイタズラだろ?」
「そんな事ないよ。今日は本当だって!」
芽依が、勇人に何度も言う。真剣な顔がとても冗談には見えなかった。
そんな時に、後ろからおばちゃんが歩いて来た。
「ねぇ、お嬢ちゃん。これお嬢ちゃんの鞄じゃない?」
おばちゃんが持って来た鞄は、見覚えがあった。
「おばちゃん、それ私のじゃないよ。」
芽依がそう言うと、おばちゃんが鞄についているパスケースを見せる。
「え?でも、パスケースにはあなた達の写真が付いているのよ?」
そう言った、おばちゃんの手に持ったパスケースを見て、芽依が焦り始めた。
「おばちゃん、これどこで見つけたの?これ友達のだけど。」
「あらっ、やだ!取ってないわよ!廊下に落ちてたから拾って、ちょうどあなた達が見えたから持って来たのよ!」
「………どこに落ちてたの?」
「え?あそこだけど?」
おばちゃんが指差してたのは、トイレの方だった。一緒に歩いて確認しに行くと、従業員ドアの前に、ひまりちゃんの携帯が落ちていた。
その瞬間、芽依は膝から崩れ落ちた。
「最近……ひまりが言ってたのよ。時々誰かが付いて来ているって。でも、ここ最近なかったから気のせいかもって言ってたのよ……ひまりはどこに行ったの?」
勇人が芽依の背中をさすった。
「おばちゃん、警察呼んで。」
そう言った俺の声も震えていた。
その様子を見て只事じゃないと感じたおばちゃんは近くの警備員に声を掛けた。
ショッピングモールの中を全て探したが、ひまりちゃんの姿はなかった。
今日告白をするはずだった。
明日も皆で遊ぶはずだった。
今年こそは一緒にお祭りに行くはずだった。
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プルルルル
「はい、柊木です。」
母さんが電話に出てくれた。やべぇ、そろそろひまりを迎えに行く時間だ。
俺が車の鍵を持つと、母さんに声を掛けようと思っていた。
母さんの顔色がどんどん悪くなり、ついには泣き出してしまった。
「どうした!?母さん!?」
俺が母さんに近付くと、嫌な予感がした。
「ひ、ひ、ひまりがね。いないんだって。」
震える母さんの腕を支えながら、倒れないようにする。
「いないんだって。」
そう言って母さんは気絶した。
『もしもし?柊木さん?大丈夫ですか?落ち着いてください!』
俺は電話を耳に当てた。
「母さん倒れたから、代わりに俺が聞きます。」
『どなたですか?』
「息子の柊木正志です。」
『息子さんですね、いいですか、落ち着いて聞いてください。妹さんの………』
この電話が俺らを地獄まで突き落とした。
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今日はひまりの誕生日。
「ひまり誕生日おめでとう。もう43歳のババァだなぁ。」
そう言いながら俺は机を撫でた。
やっと25年掛けて掴んだ。
お前に繋がる道を。




