届かない心音
「クローンと呼ばれる存在です。」
そう言った縛は、ゆっくりと胎児が入ったカプセルに近付く。
「そして……この子も、生み出される筈だった子です。」
そう言って、縛はそっとカプセルに触れた。
「生み出される筈だった?」
「そうです。この子はもう亡くなっています。」
「なんで分かるの?」
俺が聞くと、縛は少しだけ黙った。
そして、カプセルから手を離す。
「……心音がしないからです。」
「心音?」
「ここでは、本来ならカプセルに入った子達の心音が聞こえる筈なんです。」
……でも、ここに入ってから聞こえたのは、機械の音だけ。
「どういう事だ?」
柊木さんが聞くと、縛はモニターを指差す。
「あそこのモニターが動いていれば、必要な栄養が培養液へ送られます。」
「そして、あのモニターからは――」
縛は動かなくなった画面を見る。
「その子が生きている証として、小さな心音が流れるんです。」
縛はこっちに戻って来る。
「だから、あの子はもう亡くなっているのです。」
そう言うと、縛は悲しそうな顔をした。
「あとで供養してあげよう。」
柊木さんが口を開く。
「……難しいかと思います。」
「なんでだ?」
「カプセルは、簡単には開かないようになっています。」
縛はカプセルを見て、小さな鍵穴を指差す。
「施設長が持っている専用の鍵がない限り、開けられません。」
施設長……ここの施設長は誰だろう。
いや……俺らは知っている。
「………久遠。」
そう呟く俺に、縛がビクッと肩を揺らす。
あー、やっぱりそうか。
目線をファイルに向けると、ファイルの入った棚の隙間に、微妙に出ている紙が見えた。
なんだぁあれは?
そう思って、紙に近付いて引っ張ると、手紙の封筒が出て来た。
………手紙?
なんでここに?
そう思って手紙をくるくる回して見ると、そこには――
『ハクへ
久遠 理』
…………俺はやっぱり、悪運が強いみたいだぁ。
重たい雰囲気の2人にどう話しかけようかなぁと悩んでいると、柊木さんがこっちに気付く。
「………少し見てない間に、何持っているんだ?」
「……………て、手紙です。」
なんとなく、怒られたような気持ちにはなった。
「手紙ですか?」
「うん、手紙。しかも……久遠からのやつ。」
…………………。
2人とも固まってしまった。
「久遠から!?」
柊木さんが俺の肩を揺らす。
「う、うん。あっ、はい。そうです。」
手に持っていた手紙を、誰かがすっと取っていくのを感じた。
縛だぁ。
「………どこで見つけたのですか。」
静かだけど、涙を堪えたような声が縛からする。
「あそこの棚の間から。」
縛は手紙を持ったまま、顔を棚に向ける。
「あの人らしい……やっと、やっと、手掛かりを一つ見つける事ができた。」
そう言って、縛は手紙を大事に胸に抱えた。
その姿に、俺は無性に……いや、少し?ムカムカした。
「……東雲。」
「……はい。」
「……久遠って、どんなやつだった?知っているのか?」
「…………。」
縛は何も言わなかった。
そして、しばらく考えた後、口を開く。
「……もう少しだけ、時間をください。時が来たら、ちゃんと言いますから。」
そう言って、縛は申し訳なさそうにする。
……久遠になると、やけに表情が豊かな気がするのは気のせいかなぁ……
「……分かった。信じて待つ。」
柊木さんはこれ以上何も言わなかった。
「ねぇ……その手紙、内容見てもいい?」
俺がそう聞くと、縛は目元を拭いた。
「はい。……今、開きますね。」
縛がそう言うと、手紙を開封する。
そして中から一枚の紙を取り出した。




