生み出された者
「そして、やっぱり結愛ちゃんのもないです。」
「……結愛も?」
柊木さんの声が低くなる。
「どういうことだ。」
「分かりません。ただ……」
縛は並んだファイルを見る。
「この200冊とは別に、管理されていた可能性があります。」
「いや、それはおかしい。」
柊木さんが静かに否定する。
「あの日、保護された子どもと亡くなった子どもを数えた上で200人だった。」
「……でも、ないのは事実です。」
縛の言葉に、誰も返せなかった。
すると、柊木さんは手に持っていたファイルに視線を落とす。
「それに……逆もある。」
「逆?」
「ファイルがあるのに、あの場所にはいなかった人間だ。」
「どういう事ですか?」
柊木さんは少しだけ黙った。
そして、ゆっくりファイルを開く。
そこには――
『FILE:H-2
NAME:HIMARI HIIRAGI』
「……この子、俺の妹なんだ。」
「え……?」
「25年前、行方不明になった。」
柊木さんの指が、名前の部分で止まる。
「ずっと探してた。」
「でも……」
小さく息を吐く。
「あの日、あの施設にひまりはいなかった。」
柊木さんの言葉が重く、俺達は何も言う事ができなかった。
いったい何が真実なんだぁ?
事件の終わりが見えたと思ったら、謎がどんどん増えていく。
「東雲には、ハクの記憶があるんだよな?」
柊木さんの言葉に、縛は少し黙った。
「……あります。」
「じゃあ、何か分からねぇのか?」
そう聞かれた縛は、ゆっくり周りを見る。
光るカプセル。
並んだファイル。
そして、手元にある自分のファイル。
「……ハクの記憶では、この施設はありません。」
「ない?」
「はい。でも、中に入った時、構造は似ていると思いました。だから、僕も驚いています。」
縛は静かに続ける。
「それに……」
「それに?」
「あの培養液も、ハクの記憶とは違います。」
「培養液?」
柊木さんが眉を寄せる。
「………培養液です。」
縛は少し言葉に詰まりながらも、いつもの顔で言う。
その言葉が何を意味しているのか。
俺はなんとなく分かってしまったような気がした。
「縛……」
縛の名前を呼ぶ俺の声はひどく情けないものだった。
縛はこっちを見る。
いつもの縛だった。
でも、今から言おうとしている事だけは、今まで聞いたどんな話よりも信じられない気がした。
「これ以上聞いたら、もう引き戻れませんよ。」
静かな声だけが響く。
俺達は何も言わなかった。
いや、きっとここに来た時点で覚悟をしていたのかもしれない。
柊木さんは縛から目を逸らさなかった。
「言え。」
短い言葉。でも、それが柊木さんの答えだった。
縛は俺を見る。
俺は何も言わずに頷く。
縛は一度目を閉じる。
そして――
ゆっくり口を開いた。
「このファイルに書かれている200人は……」
「…………。」
「作られた人間です。」
「作られた……?」
俺が思わず聞き返す。
縛は俺の声に反応してこっちを見る。
悲しそうでも。
怖がっているようでもない。
ただ、ずっと抱えていた事実を伝えるように。
「一般的には――」
少しだけ間を置いて。
縛は言った。
「クローンと呼ばれる存在です。」




