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人類の罪  作者:
止まっていた時間
39/89

H-200

『東雲ハクの記憶・人格継承実験』


「……どういう意味だ?」


カプセルから離れた柊木さんがファイルを取る。


そこには、縛のことが淡々と書かれている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


FILE:H-200

NAME:SINONOME HAKU


【研究目的】


対象者が保持していた記憶及び人格情報を、遺伝子的同一個体へ移行した際、自己認識及び人格形成にどのような影響を及ぼすか観察する。


【経過記録】


培養開始後、身体的成長は正常。


記憶情報の定着率、過去最高値を記録。


言語能力、運動能力、思考傾向において、元個体との高い一致を確認。


感情反応、行動選択にも類似性あり。


記憶継承実験、初の成功例と判断。


【問題点】


個体自身の意識が強い為、対象者の記憶との混乱が生じる事がある。


継続観察が必要。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


研究結果みたいな文章。

何故こんな事が書かれているのか分からない。


ただ分かるのは、この研究結果は存在してはいけない。


ここに書かれているのは縛のはずなのに、俺の知っている縛じゃないみたいだぁ。

こんな報告書、まるで実験動物みたいじゃないか……


俺は顔に不安な表情が出ないよう、意識する。


縛がいる方向を見ると、当の本人は何も気にしていない。

他のファイルを手に取りながら、淡々と見ていた。


これも記憶の影響なのか……


柊木さんは縛のファイルを持ったまま、縛を見る。


その表情は、どこか悲しそうで、何かを堪えているようだった。


俺もどんな言葉を掛ければいいのか分からず、縛の資料を見る。


H-200


やけにその文字が目に入る。


………ん?


200?


そう思った俺は顔を上げて、目の前のファイルを数える。


1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12………


100.101.102.103……


194.195.196.197.198.199。


そして今手に持っている最後のファイル、200。


丁度200冊のファイル。


俺は最近この数字に打撃を受けた記憶がある。


……なんだっけ……


あっ!


「これ、14年前の事件と同じ被害者の数のファイルじゃないですか!?」


俺が言うと、柊木さんが縛のファイルから顔を上げる。


「……確かにそうだ。という事は、これは14年前の事件の……」


柊木さんの言葉に縛が頷く。

という事は――


「ここに、俺のもある……」


そう思って、俺は残り199冊のファイルを一冊一冊手に取ってみる事にした。名前が書かれている所を見ていく。


違う。


違う。


これも違う。


ん?なんでこれ黒く塗りつぶされているんだ?


しかも赤丸がついてる。


このファイルも黒く塗りつぶされてるけど、これには赤丸がない。なんとなく何かありそうだなぁと思って、赤丸がついてあるファイルを端っこに避けて行く。


最後のファイルを手に取ると、そのファイルにも赤丸が付いていた。


しかも、知っている人の名前が書かれている。


『FILE:H-1

NAME:NOA-RORAN』


そこにはハンコが押されていた。


『FAILED』


…………希空ちゃん。


俺にはこのハンコの意味が分からない。


でも、なんとなくこのハンコは俺に嫌悪感を与える。


失敗って、なんだよ。


希空ちゃんは物じゃないのに。


「佐伯、見つかったか?」


柊木さんはそう言うと、ファイルの一冊を手放さず持っていた。


縛は自分のファイルを持っている。


「………ない、ないです。」


「はぁ?そんな訳ないだろ?」


「でも、ないです。」


縛も一冊ずつ確認して行く。


「……ないですね。正樹さんの。」


事件に関する新聞では、被害者は200人。


ここにあるファイルも200冊。


じゃあ、俺は?


14年前の事件に巻き込まれた俺は――


一体、何なんだ?


そう考えていると、縛はまだファイルを見続けていた。


「……縛?」


呼び掛けても、縛は返事をしない。


ただ、何かを確認するように、一冊一冊見ている。


そして――


縛の手が止まった。


「正樹さん。」


いつもと違う低い声。


「もう一つ、おかしい事があります。」


嫌な予感がした。


「何?」


縛はゆっくり顔を上げる。


「そして、やっぱり結愛ちゃんのもないです。」

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