H-200
『東雲ハクの記憶・人格継承実験』
「……どういう意味だ?」
カプセルから離れた柊木さんがファイルを取る。
そこには、縛のことが淡々と書かれている。
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FILE:H-200
NAME:SINONOME HAKU
【研究目的】
対象者が保持していた記憶及び人格情報を、遺伝子的同一個体へ移行した際、自己認識及び人格形成にどのような影響を及ぼすか観察する。
【経過記録】
培養開始後、身体的成長は正常。
記憶情報の定着率、過去最高値を記録。
言語能力、運動能力、思考傾向において、元個体との高い一致を確認。
感情反応、行動選択にも類似性あり。
記憶継承実験、初の成功例と判断。
【問題点】
個体自身の意識が強い為、対象者の記憶との混乱が生じる事がある。
継続観察が必要。
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研究結果みたいな文章。
何故こんな事が書かれているのか分からない。
ただ分かるのは、この研究結果は存在してはいけない。
ここに書かれているのは縛のはずなのに、俺の知っている縛じゃないみたいだぁ。
こんな報告書、まるで実験動物みたいじゃないか……
俺は顔に不安な表情が出ないよう、意識する。
縛がいる方向を見ると、当の本人は何も気にしていない。
他のファイルを手に取りながら、淡々と見ていた。
これも記憶の影響なのか……
柊木さんは縛のファイルを持ったまま、縛を見る。
その表情は、どこか悲しそうで、何かを堪えているようだった。
俺もどんな言葉を掛ければいいのか分からず、縛の資料を見る。
H-200
やけにその文字が目に入る。
………ん?
200?
そう思った俺は顔を上げて、目の前のファイルを数える。
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12………
100.101.102.103……
194.195.196.197.198.199。
そして今手に持っている最後のファイル、200。
丁度200冊のファイル。
俺は最近この数字に打撃を受けた記憶がある。
……なんだっけ……
あっ!
「これ、14年前の事件と同じ被害者の数のファイルじゃないですか!?」
俺が言うと、柊木さんが縛のファイルから顔を上げる。
「……確かにそうだ。という事は、これは14年前の事件の……」
柊木さんの言葉に縛が頷く。
という事は――
「ここに、俺のもある……」
そう思って、俺は残り199冊のファイルを一冊一冊手に取ってみる事にした。名前が書かれている所を見ていく。
違う。
違う。
これも違う。
ん?なんでこれ黒く塗りつぶされているんだ?
しかも赤丸がついてる。
このファイルも黒く塗りつぶされてるけど、これには赤丸がない。なんとなく何かありそうだなぁと思って、赤丸がついてあるファイルを端っこに避けて行く。
最後のファイルを手に取ると、そのファイルにも赤丸が付いていた。
しかも、知っている人の名前が書かれている。
『FILE:H-1
NAME:NOA-RORAN』
そこにはハンコが押されていた。
『FAILED』
…………希空ちゃん。
俺にはこのハンコの意味が分からない。
でも、なんとなくこのハンコは俺に嫌悪感を与える。
失敗って、なんだよ。
希空ちゃんは物じゃないのに。
「佐伯、見つかったか?」
柊木さんはそう言うと、ファイルの一冊を手放さず持っていた。
縛は自分のファイルを持っている。
「………ない、ないです。」
「はぁ?そんな訳ないだろ?」
「でも、ないです。」
縛も一冊ずつ確認して行く。
「……ないですね。正樹さんの。」
事件に関する新聞では、被害者は200人。
ここにあるファイルも200冊。
じゃあ、俺は?
14年前の事件に巻き込まれた俺は――
一体、何なんだ?
そう考えていると、縛はまだファイルを見続けていた。
「……縛?」
呼び掛けても、縛は返事をしない。
ただ、何かを確認するように、一冊一冊見ている。
そして――
縛の手が止まった。
「正樹さん。」
いつもと違う低い声。
「もう一つ、おかしい事があります。」
嫌な予感がした。
「何?」
縛はゆっくり顔を上げる。
「そして、やっぱり結愛ちゃんのもないです。」




