縛
柊木さんに掴まれながら、俺は縛に近付こうとする。
でも、それを柊木さんは許さない。
俺は柊木さんをじっと見る。
今行かないと、縛はこのまま戻って来ない。
そんな気がした。
「はぁー。」
柊木さんはため息をつくと、ゆっくり手を離した。
俺は縛に近付く。
「これで不思議仲間だぁ。」
そっと、縛の手を握る。
縛の指先に微かに力が入る。
あー……
なんでか分からないけど、縛も怖かったんだ。
「ほらっ、もう夫婦ごっこやってないで説明しろ。」
柊木さんが後ろから声を掛ける。
ただ、心なしか少し離れている気がする。
まぁ、確かに柊木さんからしたら、不思議生命体が2体いるようなもんだ。
「……実は、僕………ある人の記憶があるんです。その人の記憶が、僕を突き動かすんです。」
ここに来て初耳である。
「そして、その人の記憶だと、鉄格子が掛かっていて、掃除ロボットが動いているという事は、この施設には今、人がいないという事らしいです。」
「誰の記憶だ?」
柊木さんが聞くと、縛は握っている手にさらに力を入れる。
「………東雲 ハクです。」
「はぁ?それお前の名前じゃないか?」
柊木さんからの質問に、縛は答えられず、ただ手を握り締めるだけだった。
「…………。」
東雲ハク。
同じ名字。
同じ記憶。
でも、縛はその名前を自分の事のようには言わなかった。
いや、言えなかったのかもしれない。
まるで、知らない誰かの名前を呼ぶみたいに。
「……縛。」
名前を呼ぶと、縛はゆっくり顔を上げ、俺と目を合わせる。
「じゃあ、今俺の手握ってるのは誰でしょう?」
「……え?」
「俺を見つけてくれたのは誰でしょう?」
縛は何も答えない。
「家に帰ったら、ご飯作って置いてくれるのは?」
「…………。」
「俺の家に気付いたら住み着いたのは?」
「それは……」
「東雲縛でしょ?」
そう言うと、縛は目を見開いた。
「ハクって人の記憶があるのかもしれないけどさ」
俺は握った手に力を入れる。
「今ここにいるのは、甘い物大好きな縛じゃん。」
「…………。」
「だから、難しい事は後で一緒に考えよう。」
俺は目の前の大きな扉を見る。
「今は、この先に何があるのか確かめよう。」
そう言うと、俺は柊木さんを見る。
「おいおい、俺を悪者にするんじゃねぇ。俺は全員の安全を守る為にも聞いているんだ。」
そう言うと、柊木さんが頭をポリポリと掻く。
「ほらっ、突っ立ってないで行くぞ。」
そう言って、柊木さんはいつものように俺達の前に立つ。
ありがとう、柊木さん。
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扉に入ると、俺らはその異常さにすぐ足を止めた。
「なんだこれは……。」
暗闇の中で光るカプセル。
あれはなんだ?
ピッ……ピッ……
コポッ……
止まっていたはずの機械音が、静かな部屋に響いていた。
でも――
俺はこの音を知っている。
理由は分からない。
なのに、懐かしいと思ってしまった。
カプセルに引き寄せられるように近付く。
中には胎児がいた。
なんだ、これは?
周囲には割れたカプセルもある。
柊木さんは俺の後に続いて進む。
そして、一つの割れたカプセルの前で足を止めた。
「何か気になる事ありました?」
柊木さんは答えない。
ただ、そのカプセルに残された小さなプレートを見つめていた。
「……柊木さん?」
呼び掛けても、その視線は動かなかった。
まるで、そこに書かれた文字から目を離せないみたいだった。
「ここ資料ありそうですよ。」
部屋の奥から聞こえた縛の声に、俺達はそちらへ向かう。
そこにはたくさんのファイルが並んでいた。
『生命と精神について』
『神と人間』
『病の根源』
……難しいものばっかりだぁ。
そう思っていると、同じ形のファイルが大量に並んでいる事に気付いた。
なんだ?
俺は一番最後に置かれたファイルを手に取る。
『FILE:H-200』
数字が書かれていた。
200。
その下に書かれた名前を見て、俺は息を止めた。
『NAME:SINONOME HAKU』
「……ハク?」
さらに下へ視線を落とす。
そこに書かれていた文字に、俺達は言葉を失った。
『東雲ハクの記憶・人格継承実験』




