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人類の罪  作者:
止まっていた時間
27/89

気付かない振りをしていた

今日で北海道に来て3日目。

柊木さん一家は柊木さん以外旅行を楽しんでます。おれら男3人は何をしているかと言うと、専門の機器を使って、鈴鳴りダムを捜索している。


今の所怪しい所はなく、明日は実際に鈴鳴りダムに行くことになった。この3日間、パソコンやら資料やらと昼夜関係なく調べていた為か、目がシバシバする。


「おっ、東雲これ見てくれ。」


柊木さんが一枚の資料を縛に渡す。そこに書いてあったのは、鈴鳴りダム開発に関する新聞記事だった。


『鈴鳴りダム建設計画、住民との交渉難航』


古びた新聞には、そんな見出しが大きく書かれている。内容は、ダム建設予定地だった鈴鳴り村の住民達が、最後まで立ち退きを拒否していたというものだった。


理由は先祖代々受け継いできた土地を守りたいというもの。


……まぁ、よくある話だ。


だが、読み進めるうちに少し違和感を覚える。


『村長を含む一部住民、外部との接触を拒否』

『調査員の立ち入りを制限』

『村内に住民登録されていない子どもがいるとの噂も』


「……子ども?」


思わず、その一文に目が止まる。


「なぁ、柊木さん。これ……」


「俺もそこが気になった。」


柊木さんは真剣な表情で新聞を指差す。


「ただ、当時は田舎特有の閉鎖的な村ってことで片付けられてる。実際に調査も入ったらしいが、問題なしって報告されてるな。」


「問題なし……ねぇ。」


縛が小さく笑う。


でもその笑顔は、いつものものとは違った。


「問題がない場所ほど、隠すのにはちょうどいい。」


その言葉に、部屋の空気が少しだけ重くなった。


ぐぅー…………

ぐぅー…………相変わらず締まらない腹である。


そういえば昨日の昼から何も食べてなかったなぁ……なんて、自分のお腹を見ていると――


ピッピッ


部屋のロックが解除される音が響いた。


「ちょっと!!」


勢いよくドアが開き、入ってきたのは真美ちゃん達だった。

「さすがに三日間も部屋に篭りっぱなしは体に悪いわよ!」


真美ちゃんは腰に手を当てて、完全に怒っている。


……真美ちゃん、ぷんぷんまるだぁ。


「ほらっ!外行くよ。」


「おー。」


「…………。」


柊木さんと縛が適当に返事をする。

その瞬間、真美ちゃんが静かに荷物を置いた。

そして拳を握る。


……あっ。


これはまずいやつだぁ。結愛ちゃんが俺に向かって、小さく手招きする。俺は静かに移動した。


ゴンッ!


「いったー!!」


真美ちゃん、力技だぁ。……ん?縛、澄ました顔して俺の隣にいるけど。


俺は見たからな?真美ちゃんが柊木さんにゲンコツした瞬間、誰よりも早く立ち上がって避難したの。


まぁ、確かに三日間も篭ってるのは俺でもダメだと思う。柊木さんは現在、真美ちゃんから絶賛お説教中である。


ぐぅー……。……お腹空いたなぁ。


そう思った瞬間、真美ちゃんの視線がこっちに向いた。


「もう!ほら、佐伯くんお腹ぺこぺこじゃない。あなたがしっかりしないと、この子達ご飯もちゃんと食べないでしょ!?」


……なんかすまん。


でもご飯かぁ。


北海道だし、味噌ラーメン食べたいなぁ。


そんなことを考えて少しワクワクしていると、縛が静かに口を開いた。


「先に鈴鳴りダムへ行ってきます。皆さんは明日来てください。」


…………。このタイミングで言うかぁ?


思わず、少しイラッとした。


「あら。来る前に約束したでしょ?行くなら皆で行きましょうって言ったわよね?」


真美ちゃんがそう言うが、縛は静かに首を横に振った。


「そもそも、行動を制限される意味が分かりません。僕は自分のペースで行きます。」


そう言いながら、縛は左胸のポケットを押さえる。

その仕草を見て、少しだけ違和感を覚えた。


でも、その時の俺は気付かなかった。


「縛、その言い方はないだろ?真美ちゃんは俺達のことを思って言ってくれてるんだから。」


「そんなの僕には関係ありません。僕は早く行かないといけないんです。」


いつもの縛じゃないことには気付いていた。


気付いていたけど。


「今日と明日の差だろ?そんな変わらないじゃん。」


「変わります!」


珍しく縛が声を荒げた。


「やっと……やっと見つけた手掛かりなんです。」


「でも、たった十数時間だろ?早く行ったところで、この間に何か変わるのか?」


「…………。」


縛は答えない。


「とりあえず僕は行きます。」


「だから、皆一緒に明日行こうって話してるじゃん!」


「それじゃ遅いです!」


肩を震わせながら怒る縛。


初めて、子どもみたいに感情をぶつけて来る。

いつもは澄ました顔で、大人の対応をする事が多い縛。


だからなのか。


俺も、ずっと引っかかっていたことを口にしてしまった。


「……なんでそんなに焦ってるんだよ。」


「…………。」


「もう14年も探してきたんだろ?だったら、あと少しぐらい――」


言った瞬間。


縛の表情が変わった。


あっ、間違えた。


そう思った時には、もう遅かった。


「……もう14年なんですよ。」


縛は俺の服を掴んだ。


「14年も探したんです……」


怒っているはずなのに、縛の目から涙が落ちていた。


「毎日、毎日、探して……調べて……」


「何もなくて……」


「それでも諦められなくて……」


「やっと……やっと、ここまで来たんですよ……」


分からない。


俺には分からない。


縛が何を探しているのか。


何が、ここまで縛を動かしているのか。


「……おかしいよ、お前。」


口にした瞬間、自分でも最低だと思った。


縛の手から力が抜ける。


そして――


ドンッ


気付いた時には、俺は床に座り込んでいた。


縛は何も言わず、部屋を出て行く。


「東雲くん!」


真美ちゃんと結愛ちゃんが慌てて後を追いかけた。


残された部屋は、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに静かだった。


柊木さんが、俺の前にしゃがむ。


「佐伯。」


「…………。」


「流石に、今のは言い過ぎだぁ。」


「……分かってますよ。」


分かってる。


言っちゃいけないことだった。


縛が14年間、どんな気持ちで探していたのかなんて俺には分からない。


でも――なんでだろう。


あいつが鈴鳴りダムに行くって言った瞬間。


胸の奥がモヤモヤした。


縛が何かを見つけたら。


全部終わったら。


もう俺の家に勝手に入ってくることも。


ご飯を作って待っていることも。


当たり前みたいに隣にいることも。


なくなる気がした。


「…………あぁ。」


やっと分かった。


俺、怖かったんだ。


縛が離れていくことが。


縛はこの先もずっと一緒にいると思っていた。

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