常識で知ってる?
いよいよ、今日は北海道に行く日。
キャリーケースを持って玄関に行くと、縛が車に乗って待っていた。
……この車、実はレンタカーじゃない。昨日出掛けて帰って来たなぁ〜と思ったら、車に乗って帰って来てた。
……金持ちで怖い。
キャリーケースを後ろのトランクに入れようとすると、縛が運転席から出てきて、キャリーケースを入れてくれた。そして、後ろのドアを開ける。
「……………?」
意味が分からず縛をじっと見ていると、何を勘違いしたのか、後部座席をはたき始めた。不思議だぁ。と思いながら、助手席のドアを自分で開けて座る。
その姿が何か衝撃だったのか、縛が固まった。
「縛?もう出ないといけない時間じゃない?早く行こう。」
そう言うと、縛は静かに運転席に戻る。
運転中も、俺が話しかけても、ずっと静かなままだぁ。いいやー。道徳と小鳥遊さんに連絡入れないと。
『道徳、ちょっと北海道行ってくる。お土産は楽しみになぁ。』
ピコン
『いいっすね!北海道!お土産、白い恋人がいいです!』
道徳と軽く雑談して、次は小鳥遊さんに連絡を入れる。
『小鳥遊さん、少し北海道行ってくるので、留守にしてます。』
しばらくして着信が入る。
『お〜〜お土産はしゃけとばでよろしく〜。何か見つかるといいね。』
『ありがとうございます。しゃけとば了解です。いい報告できると俺も嬉しいです……』
そう送った後に、指が止まった。
……あれ?
俺、何かを探しに行くなんて言ったっけ?
画面をじっと見つめる。
いつもの小鳥遊さんだ。
適当で、自由で、掴み所がなくて。
だからこそ、たまに分からなくなる。
あの人は本当に何も考えていないのか。
それとも――
「んー。分からん。」
「何が分からないのですか?」
「え?いや大丈夫!仕事の話。」
「有給中も仕事で大変ですね。」
……ないよ。
ホワイト企業だから、仕事休みの日には連絡来ないんだよ。
「ほら、空港着きましたよ。あっ、おっさん達も居ますね。」
柊木さん呼ぶ時だけ、なぜかいつも口悪いよなぁ〜。
そう思って窓の外を見ると、結愛ちゃんと真美ちゃんがこっちに手を振っていた。
駐車場に車を停めた後、キャリーケースを下ろすと、縛が俺のキャリーケースを引いて歩き出した。
こりゃ、また言っても聞かないやつだぁ。
諦めて、待っている柊木さん達の所に行く。
「めっちゃ荷物少なくない?」
結愛ちゃんは、縛のリュックを指差す。
「俺も言った。そしたら、足りなかったら買うから大丈夫だってさぁ。」
そう俺が言うと、結愛ちゃんは「うぇ、金持ち。」と変な声を出していた。
「あー、なんか最近毎日顔合わせてるから、1日ぶりだと少し不思議な気がすんなぁ。」
そう言った柊木さんはガハハと笑う。
慣れて来たのか、最近さらに豪快になって来てる気がする。
「まぁ〜2人共。まずは東雲くんにありがとうでしょ?飛行機も宿も予約してくれてるんだから。」
真美ちゃんが結愛ちゃんと正志さんに話すと、2人が「ありがとう〜!」と縛に言う。
縛は「あー。」とだけ答える。
相変わらずマイペースですなぁ。
縛の道案内でチェックインカウンターに向かうが、どんどんチェックインカウンターから離れて行く。
なんだ?
「縛、チェックインカウンターあっちだぞ。」
そう指差す俺に、縛はふっと鼻で笑った後。
「もう、終わってる。」
と言った。
え?
終わったの!?
いつの間に?
俺が驚いていると、縛があるドアの前で止まった。
「東雲だ。」
ドアの前の人に声を掛けると、ダンディーな職員が出てくる。
「東雲様、お久しぶりです。本日もご利用いただきありがとうございます。お連れ様のお荷物、お預かりします。」
そう言って、キャリーケースを何名かのお姉様が持って行く。
職員がドアを開けると、縛が中に入って行く。
その後に続いて俺らも入ると、柊木さん一家が口をぱっくり開けていた。
「……あいつ、思ったよりすごいやつなのか?」
そう聞かれたが、俺は「分からないです。」と小さく答えた。
「お時間になるまで、こちらでゆっくりお休みください。お土産などもこちらでサンプルをご用意しておりますので、何かご用があればお申し付けくださいませ。」
そう言って職員が下がって行く。
うわぁーと辺りを見渡していると、縛は慣れた様子で黒いソファーに座る。
黒色がよく似合うことで〜。
専用のラウンジで柊木さんは大はしゃぎしながら、ご飯を取って食べる。結愛ちゃんは、お土産を真美ちゃんと見ていた。
俺は窓際に座っている縛のそばに行くと、縛はじぃーっと外を見ていた。
どこを見ているのかは、俺には分からなかった。
でも。
14年。
縛にとってはきっと何かあるのかなぁー。
そう考えると、少しだけ声を掛けづらくなった。
だから俺は――
柊木さんの所に行き、ラーメンを探す。
「……あと少し。」
誰もいなくなった窓際で、縛は小さく呟く。
「必ず見つけます。」
窓に映った縛の顔は、いつもの無表情とは少し違っていた。
怒っているような。
泣きそうなような。
それでも、その目だけは真っ直ぐ前を見ていた。
あの後も驚きの連続だった。何が驚きかと言うと、庶民派の柊木一家が絶句してるぐらい。
まずは、プライベートジェット機でしょ。
それから専用車でしょ。
それから、それから。
高級ホテルの最上階2部屋でしょ。
キャパオーバーです。
おかしいなぁー。
飛行機と車で数時間は移動していたはずなのに、なぜかあっという間だったなぁ。
驚き過ぎて。
ちなみに俺は震えてます。
「安い所で申し訳ないですが、1週間ここに滞在する予定になります。」
そう言う縛に、全員がいやいやいやいやいやと手を振る。安い?
今、安いって言った?
俺の知ってる安いと意味違う?
ちなみにオーナーは縛らしいから、宿代節約でお金掛からないらしい。……違う。
節約って言葉を使っていい金額じゃない気がする。
庶民代表として抗議したい。
ん?縛ってデリバリー配達員じゃなかったってこと?
え?じゃあ何の仕事してるの?聞くか?いや、聞いたら絶対、聞かなきゃよかったって後悔しそう。
こういう時は、何も考えないのが一番。
うん。……こわい。
お金持ちでこわい。
……おうち。おうちに帰りたいよ。
まだまだ身震いが止まりません。
ちなみに、さっきから柊木さんが息しているのか心配である。
「お父さん、生きてる?」
「……真美ちゃん。」
「なに?」
「俺、刑事やってて良かった。」
「どうしたの急に。」
「普通なら一生経験できねぇぞ、こんなの。」
そう言う柊木さんの目は輝いていた。
……この人、復活早いなぁ。
部屋の前に案内されると、柊木さん一家は「また後で」と言いながら部屋の中に入る。
かと言う俺も、縛がどんどん入って行くので入りたい。入りたいが。
このドアを入った瞬間に何か終わってしまう気がする。
庶民のサイレンが俺の中で鳴り響く。
「正樹さん?」
「はい。」
「早く入らないとドア閉めますよ?」
こっちを見てニヤッとする縛に、俺は察した。
こいつ。
全部分かってて楽しんでやがるー!!
そうと分かれば、俺はもう遠慮しないぞぉ。
部屋に入ると、流石高級ホテル。
配置も上品なことで……
…………なんだぁ、このパソコンと電子機器の数は?
部屋の雰囲気ぶち壊しだぞ。
高級感どこ行った?
「今夜からは寝かせませんよ。」
あらー、僕ドキドキしちゃう〜♡
じゃないだろぉ。
どこの乙女ゲームのセリフだぁ。
目の前にあるのは大量の資料。
大量のパソコン。
そして、目を輝かせた縛。
……あ。
これはダメなやつだ。
初めてだぁ。
こいつを殴りたいと思ったのは。
……まぁ、この後。
本当に寝られなくなるなんて、この時の俺は思ってもいなかった。




