アヒル隊長
柊木さんが飛行機のチケットを取ってくれると言ったが、縛はそれを拒否した。
自分が全員分のチケットと宿を取る。
そう言って聞かないので、結局任せることになった。
店を後にした俺達は、いつものようにバイクで家へ向かう。
「北海道行き決まってよかったなぁ〜。」
「…………。」
あれ?返事がない。
横目で縛を見ると、なぜか胸の辺りに手を当てたまま動かない。
なんだ?
やっぱり心臓とか痛いのか?
珍しく固まっている縛を気にしながらも、俺はお風呂の準備をすることにした。
まぁ、いつも用意してもらってるし〜。
たまには俺がやってあげてもいいよね〜。
そんなことを思いながら風呂場に入ると――
……すでにお湯が溜まっていた。
「…………。」
俺が知らないだけで、この家、もう一人住んでたりする?それとも小人でもいるのか?
……ちぇ。
せっかく用意しようと思ったのに。
少しやさぐれながらリビングに戻り、冷凍庫からアイスを取り出す。
「……うまっ!!何このアイス!!」
そう思ってパッケージを見る。
…………。
やばい。
これ、俺のアイスじゃない。
そして、なんか視線を感じるぞぉ……。
ゆっくり顔を上げると、そこには無表情の縛が立っていた。
「うぉっ!?……脅かすなよ〜。ちゃんと見てなかった俺が悪かったからさぁ。」
そう言って食べかけのアイスを差し出す。
縛は何か言いたそうな顔をしていたが、結局何も言わずアイスだけ受け取った。
そしてソファーに座り、机の下から当たり前のように取り出したのは――俺のパソコン。
……だから、それ俺のパソコンだってばぁ。
もういいや。
風呂入ろう。
湯船に浸かろうとした瞬間、目が合った。
ぷかぷか浮かぶアヒル隊長。
「…………。」
人の趣味には突っ込まない主義だ。いや違う。
突っ込み始めたら疲れるから、放っておく。
これが正解だ。
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風呂から上がると、今度は縛が立ち上がり2階へ向かった。どうやら風呂に入るらしい。
まぁ、俺はiPhoneでも見るか。
そう思いながらベッドに横になる。
北海道に行けば、何か分かるかもしれない。
そう思っていたはずなのに――
いつの間にか、意識は沈んでいった。
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「……許さない。僕を置いてどこかに行くなんて、許さないですからね。」
そう言って、眠っている俺を見下ろしていたのは、見慣れた顔の人物だった。
相変わらず、長く白い指をしている。
泣きそうな顔だなぁ。
そう思って頭を撫でようと手を伸ばす。
でも――重い。
ひどく、手が重い。
視線を落とすと、自分の体には何本もの管が繋がれていた。小さな啜り泣きが聞こえる。
握られている手に、少しだけ力を込めた。
驚いたように顔を上げる姿に、思わず笑ってしまう。
「どんな方法でも……見つけ出しますから。」
震えながらそう言う姿を見て、俺は言葉を飲み込んだ。
『それは、俺じゃないかもしれないのに?』
その言葉を、胸の奥に沈めた。
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パッと目が覚めた瞬間、違和感を覚えた。
「…………暑い。そして、重い。」
寝返りを打とうとして、腰に回っている腕に気付く。
…………幽霊にしては暖かい。
これ、縛だなぁ。
一緒に暮らし始めて分かったことがある。
縛はどうやら夢遊病を持っているらしい。
時々こうやってベッドに潜り込んでくることもあれば、誰かを探すみたいに家の中を歩き回ることもある。
最初、廊下で鉢合わせた時は驚きすぎて叫んだよね〜。
でも本人は何の反応もないし、翌朝には覚えていない。
わざわざ掘り起こすのもなぁ。
施設にいた時にもこういう子はいた。
精神的なものもあるって聞いたし、無理に起こさない方がいいって言われていた気がする。
手を伸ばしてiPhoneを確認すると、時計はまだ5時を指していた。
明日は北海道へ行く準備をしないといけない。
……今日はもう寝よう。




