ご機嫌斜め
ネームタグを持って店を出ると、見慣れた黒い人が見える。
…ん?あれ縛じゃねぇ?
どこ見てるんだ?あいつ。
「おーい、縛〜。」
と俺が声を掛けると、縛はこっちを見る。俺が笑顔で手を振ると、ヘルメットをこっちに投げる。
うぉっと、あぶなぁ!
「あぶないよ!ヘルメットを突然投げるなぁ!?ん?これなんのヘルメットだぁ?」
持っているヘルメットを持ち上げて、眺めていたら、縛はポンポンと近くにあるバイクを叩く。
……なんだ?その高そうでかっこいいバイクは!?
「なに!なにこれ!?買ったの?スゲェー、カッケー。」
そう言うと満足そうにヘルメットをかぶって、バイクに跨る。そして、自分の後ろを指差す。
おー、さすがワイルドイケメン。よくバイクが似合うことで!俺もヘルメットを被ると、バイクに跨る。
…………いや、喋れよ。
と今更ながら、1人で話していた事に気付く。
どんどん変わっていく景色に、さっきまでの不満も吹っ飛ぶ。
やはりバイクってロマンあるよなぁ〜。
そう思いながら、景色を見て思わず鼻歌が出る。
縛は何も言わずに、ただバイクを走らせていた。
家に着いて降りると、縛はまたもや無言のままこっちをじっと見る。
家でも時々こうやってじっと見る事があるから、もう慣れた。そういう時に、声を掛けるとすぐ機嫌が良くなるから、俺はこれを構ってちゃんモードと呼んでいる。
「今日用事があったんじゃなかったのか?」
「……すぐ終わった。」
「ふーん、まぁ迎えに来てくれてありがとうなぁ。」
「別に……迎えに行ったわけじゃない。」
そう縛はぶつぶつ言いながらも、口角が上がってるぞーと俺は心の中でツッコミをする。
鍵穴に鍵を入れて、突然気付く。
あれ?俺店の場所教えていたっけ?
恐る恐る振り返ると、素晴らしい笑顔で立っているご機嫌なボーイがいるじゃないか。
……うん、俺は何も気づいてない。
この話はおしまい。
リビングのソファーに座ると、机の上に箱を置く。
「なんですか?それ?」
あっれーさっきまでご機嫌だったのに、急に機嫌がまた悪くなったぞ〜ソファーに先に座ったのがいけなかったのか??
「これ?施設長の小鳥遊さんから貰った。」
そう言った瞬間、縛の眉がピクリと動いた。
……ん?なんか今、地雷踏んだ?
縛は無言のまま箱を手に取ると、そのままゴミ箱の方へ歩き出した。
「ちょちょ、ちょっと待ったー!それ俺の物!」
ピクッと動きを止めて、じとーっとこっちを見つめる縛。慌てて近寄り、縛の手から俺の箱を取り返す。
「これ大事なんだから。」
そう言うと、縛はさらにご機嫌が悪くなり、眉間に皺を寄せたままソファーに座る。まったく意味不明である。また捨てられると困るから、とりあえず説明する事にした。
「これ、俺が施設に入る前に付けてたネームタグなんだって。」
そう話すと、縛はギョッとした目でこっちを見る。
「……施設に入る前?」
「そうそう。俺も覚えてないんだけど、小鳥遊さんが保管してくれてたみたい。」
その言葉を聞いた縛は、もう一度箱を手に取った。
今度は捨てるためじゃなく、確かめるように。
中に入っていたネームタグを取り出し、じっと見つめる。
「……なんだ、これ?」
めっちゃ初めて見ましたみたいな顔してる。
「なにって、これネームタグ。」
そう言ったけど、何言ってるんだぁみたいな顔しとるぞ〜〜。
ぐぅー……
断じて言おう、俺ではない。
ぐぅー……
お互いに顔を見合わせた。
「夜ご飯、牛丼はどう?」
俺が提案すると、縛は机の引き出しからチラシを出した。
「これがいい。」
持っているチラシを見ると、回転寿司の広告だった。確かに美味しそうだけど……ん?……丸が付いてある。
抹茶パフェに丸が付いてある。
……迎えに来てもらったし……
「ラーメンがいい。」「これがいい。」
2人で拳を前に出すと、
「さいしょは、ぐー、じゃんけんぽん!」
やったー、俺の勝ちーーー!!!!ラーメン!!!
と思ったが、縛がしょんぼりしているのを見て。
「あー、でも寿司も食べたい気分になったなぁ〜。やっぱ寿司行こう〜。」
そう言うと、元気になった縛は出かける準備を始める。
目的は多分パフェだけど、あの性格だからきっと頼みたくても、頼まないだろうなぁ〜。
iPhoneを出して、柊木さんに連絡する。
『今から新しく開いた寿司屋さんに行くんですが、よかったらみんなで一緒に行きませんか?奢りますよ〜。』
こういう時こその女子高生パワーを頼るべき。




