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人類の罪  作者: 華
幸せの形
142/144

何気ない一言

「…………。」


俺は目の前に並んでいる朝ご飯をじーっと見つめていた。


柊木さんが食べているサンドイッチ。

結愛ちゃんのパンケーキ。

道徳と穂乃果が食べている朝食。


「…………。」


……美味しそう。


ぐぅぅぅぅ……。


「…………。」


……ん?


俺は自分のお腹に手を当てた。


……あ。


お腹空いた。

そういえば、昨日の夜から何も食べてないんだった。


「…………。」


俺は隣にいる縛を見上げた。


縛はコーヒーを飲んでいる。


……そういえば。

縛って、朝ご飯あんまり食べないんだよねぇ。


一緒にいる時も、朝はコーヒーだけのことが多いし。

俺はもう一度、皆の朝食を見つめた。


……いいなぁ。

パンケーキも美味しそうだけど。


今は、なんか……。


「……ベーコンエッグ食べたいなぁ。」


ぽつりと呟いた。


「ん?」


柊木さんが顔を上げる。


「まだやってると思うぞ〜。取りに行って来たらどうだ?」


「……あ。」


そうじゃん!


俺は勢いよく立ち上がった。


「行ってきまーす!」


その瞬間。


ガタッ。


「…………。」


隣で縛も立ち上がった。


……ん?


俺は縛を見上げる。


「…………。」


縛は何事もなかったように、俺の隣に立っている。


……あれ?


俺は首を傾げながら歩き出した。


トコトコトコ……。


トコトコトコ……。


「…………。」


後ろから足音がする。


振り返る。


縛がいる。


「…………。」


……え?


俺は足を止めた。


「……自分で行けるんだけど?」


少しむっとしながら言うと、縛は首を横に振った。


「迷子になりますよ。」


「ならないよ?」


「…………。」


「……ならないってば。」


その時だった。


ぽんぽん。


突然、頭の上に手が置かれた。


「……っ!?」


びっくりして顔を上げる。


「……あ。」


小鳥遊さんだ。


「おはよう、正樹くん。」


「お、おはようございます。」


小鳥遊さんはにこにこしながら俺を見下ろした。


「迷子になると思うから、付いて行ってもらいなよ〜。」


「…………。」


……え!?


ならないよ!!

俺、もう二十四歳なんだけど!?

子どもじゃないんだけど!?


「…………。」


でも。

小鳥遊さんに言い返すのは……。


……うん。やめておこう。


「……はーい。」


俺は素直に返事をした。


「うんうん。いい子だねぇ。」


小鳥遊さんはもう一度俺の頭をぽんぽんと叩いた。


「…………。」


……なんか納得いかない。


俺は少しだけ頬を膨らませながら、朝食を取りに向かった。


------------------------------------------------


「……おおおおお!!」


俺は目の前に並んでいる料理を見つめた。


ベーコン!


卵!


ソーセージ!


焼きたてのパン!!


「……うまそぉぉぉ。」


俺は早速、お皿を手に取った。


まずはベーコン。


それから目玉焼き。


……あ。


スクランブルエッグもある。


……どうしよう。


「…………。」


よし。


両方!


俺はお皿に料理を盛り付けていく。


……ふふふ。


最高だぁ。


「正樹さん。」


「ん?」


「取りすぎないようにしてくださいね。」


「分かってるよ〜。」


俺は縛に返事をしながら、最後にパンを一つ取った。


……よし!完璧!!


「…………。」


ふと隣を見る。


縛もお皿を持っていた。


そこには、ベーコンエッグが乗っている。


「…………。」


……あれ?


俺は縛のお皿をじっと見つめた。

……縛も食べるんだ。


珍しいなぁ。


……ふふ。

やっぱり美味しそうだったもんねぇ。


俺は心の中で笑った。


「正樹さん、前を見て歩いてください。」


「大丈夫だよ〜。」


俺はお皿を持ったまま歩き出した。


その時。


「あっ。」


……ん?


足がもつれた。


「……え?」


ぐらっ。


身体が前に傾く。


……あ。


これ。


やばいやつだ。


ガシャーーーン!!


「…………。」


「…………。」


俺は床に倒れ込んだ。


そして。


目の前には――。


ベーコン。


卵。


パン。


全部、床に落ちていた。


「…………。」


……あ。


俺の。


……俺のベーコンエッグ。


「…………。」


うそでしょ。


俺は床に散らばった料理をじっと見つめた。


……せっかく取ったのに。


「…………。」


……悲しい。


ものすごく悲しい。


「……そんな気がしました。」


頭の上から、縛の声が聞こえた。


「…………。」


俺はゆっくり顔を上げた。


縛が立っている。


片手には、無事だったベーコンエッグのお皿。


「……正樹さん。」


「…………。」


「戻りましょう。」


「……俺の。」


「はい。」


「……ベーコンエッグ。」


「……はい。」


「…………。」


縛は小さく息を吐いた。


そして、空いている方の手で俺を立ち上がらせた。


「ほら。」


「…………。」


俺はしょんぼりしながら立ち上がった。


近くにいた清掃員の人が、こちらへ駆け寄って来る。


「あっ、お怪我はありませんか?」


「……はい。」


俺が小さく返事をすると、縛が頭を下げた。


「すみません。お手数をおかけします。」


「いえいえ、大丈夫ですよ。こちらで片付けますので。」


「ありがとうございます。」


縛はもう一度頭を下げると、俺の手を引いて歩き出した。


「…………。」


……俺のベーコンエッグ。


さようなら。


-------------------------------------------------


「……おかえり。」


柊木さんが顔を上げた。


「…………。」


俺は無言で椅子に座った。


「……どうした?」


「…………。」


「……佐伯?」


「……ベーコンエッグ。」


「ん?」


「……落とした。」


「…………。」


柊木さんは俺を見つめた。


そして、縛を見る。


「……お前、付いて行ったんじゃなかったのか?」


「付いて行きましたよ。」


「……それで?」


「転びました。」


「…………。」


柊木さんが深いため息を吐いた。


「……お前なぁ。」


「…………。」


……俺だって転びたくて転んだわけじゃないもん。


そう思っていると。


コトッ。


「……ん?」


目の前にお皿が置かれた。


「…………。」


ベーコンエッグ。


「……え?」


俺は顔を上げた。


縛が、何事もなかったように隣へ座った。


「食べたかったのでしょう?」


「…………。」


……え。


「……いいの?」


「はい。」


「……縛のじゃないの?」


「僕はコーヒーだけで十分です。」


「…………。」


……え。


じゃあ。


さっき取ってたのって……。


「……俺の?」


「そうですよ。」


「…………。」


……縛!!


「ありがとう!!」


俺は嬉しくなって、早速フォークを手に取った。


……いただきまーす!!


ぱくっ。


「…………!」


うまっ!!


ベーコンの塩気。


半熟の黄身。


焼きたてのパン。


……最高!!


「……ふふふ。」


俺は幸せな気持ちで朝食を食べ始めた。


そして。


「あっ!!」


「……っ!?」


突然声を上げた俺に、周囲の視線が集まった。


「そういえば!! 昨日会った二人!!!」


「……昨日?」


獅鳳くんが顔を上げる。


「ほら! コーンスープこぼしちゃった人!」


「ああ……あの二人?」


「そうそう!!」


俺はフォークを持ったまま頷いた。


「あの二人、初日からずーっと近くにいたような気がする!」


「……え?」


道徳が眉を寄せた。


「どういうことですか、先輩?」


「もごもごもごもご!」


「…………。」


「もごもご! もごもごもご!」


その瞬間。


すっ。


「……んぅ!?」


縛の手が、俺の顎を下からそっと押さえた。


「んぅーーー!!!!」


俺は抗議する。


……何!?


なんで!?


「正樹さん。」


「んーー!!」


「口の中のものを飲み込んでから話してください。」


「んぅーー!!」


「佐伯。」


今度は柊木さんが口を開いた。


「食い終わってから話せ。」


「……うあい。」


俺は素直に頷いた。


もぐもぐもぐ……。


ごくん。


「……ふぅ。」


その時。


コトッ。


「……ん?」


目の前に、カップが置かれた。


「…………。」


黄色いスープ。


湯気が、ふわふわと立ち上っている。


「……あ。」


コーンスープ!!


「…………!」


俺は思わず縛を見上げた。


「飲みたかったのでしょう?」


「……うん!!」


俺は嬉しくなって、カップを両手で持った。


ふぅー。


ふぅー。


ごくっ。


「…………。」


……あったかい。


そして。


……美味しい。


「……はぁぁ。」


俺は幸せなため息を吐いた。


……やっと飲めた。


昨日からずっと飲みたかったコーンスープ。


……最高だぁ。


「……それで?」


道徳が俺を見つめた。


「さっきの話、どういうことですか?」


「……あ!」


そうだった!


俺はカップを置いた。


「昨日会った二人なんだけどさ。」


「うん。」


「俺、前にも何回か見たことあるんだよね。」


「……前にも?」


獅鳳くんが聞き返す。


「うん! 船に乗った時とか、結婚式の時とか。」


俺は指を折りながら数え始めた。


「あと、森に行く前にもいたような気がする。」


「…………。」


「なんかねぇ、ずっと俺たちの近くにいたんだよ。」


「……二人ともですか?」


縛が聞いてきた。


「うん。背の高い男の人と、綺麗な人。」


「…………。」


「最初は全然気にしてなかったんだけど、さっき海を見てたら急に思い出したんだよねぇ。」


「…………。」


皆が静かになった。


……あれ?


俺は首を傾げた。


「だからさ。」


「……うん?」


「結婚式の映像にも映ってるのかも。」


「…………。」


その瞬間。


「……あ。」


獅鳳くんが突然、顔を上げた。


「……そういうことかぁ!」


「ん?」


「凰真の病室で見た映像だよ。あの時、おばちゃんが映ってると思ったんだけど……。」


「……うん?」


「もし、あれが昨日の人だったとしたら……。」


獅鳳くんは、そこで言葉を止めた。


「…………。」


俺は獅鳳くんを見つめた。


……ん?

どういうこと?


「……でもさぁ。」


俺はコーンスープをもう一口飲んだ。


「……ん?」


「もしかしたらだけど。」


皆が俺を見る。


「……可能性の話なだけなんだけどね?」


「……何ですか?」


縛が聞いてきた。


俺はカップをテーブルに置いた。


「もし千代子さんに双子のきょうだいがいたら、あの写真の子って、昨日の人だったりして〜。」


「…………。」


「だって、あんなに似てたんでしょ?」


俺は笑いながら続けた。


「千代子さんの双子だったら、そっくりでもおかしくないじゃん?」


「…………。」


「……なんてね〜。」


……はは。


さすがに、そんな偶然ないかぁ。

俺は再びコーンスープを飲もうとした。


……ん?


「…………。」


誰も話さない。


……あれ?俺は顔を上げた。


縛。


柊木さん。


真美ちゃん。


獅鳳くん。


道徳。


穂乃果。


皆が、じっと俺を見つめている。


「…………。」


……ん?


なんか。


皆、すごい顔してない?


「…………。」


俺はゆっくりカップを下ろした。


……え?


俺、なんかやばいこと言った?

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