↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類の罪  作者: 華
幸せの形
137/144

秘密の部屋

カチャ。


ギィィ……。


扉が開いた瞬間、俺たちの間に緊張が走った。


「…………。」


俺は縛の後ろから、そーっと顔を出して覗く。


扉の向こうには、一人の男性が立っていた。


……誰だ。


「……あれ?」


その男性の後ろから、見慣れた顔がひょっこり現れた。


「正樹くん?」


「あ!獅鳳くん!」


俺が声を上げると、縛が小さく息を吐いた。


「……獅鳳さんでしたか。」


「え?何?どうしたの?」


獅鳳くんは不思議そうに俺たちを見つめた。


その後ろには、柊木さんと小鳥遊さんも立っている。


「いやぁ、誰か来たから、びっくりしちゃった!」


「……それはこっちも同じなんだけど。」


獅鳳くんが苦笑いを浮かべた。


「病院から戻ってきたんだ。叔父さんが屋敷に寄りたいって言うから、一緒に来たんだけど……。」


「……おじさん?」


俺は一番前に立っている男性を見つめた。


「初めまして。」


男性は穏やかに微笑んだ。


「由一・ウィルソンです。獅鳳の叔父です。」


「……ウィルソン?」


「はい。」


「……外国人?」


「日本人ですよ。」


「……あれ?」


俺は首を傾げた。


……日本人なのに、ウィルソン?


「佐伯。」


後ろから柊木さんの声が聞こえた。


「お前、初対面で何聞いてんだ。」


「だってぇ!」


「由一さんは海外で結婚されて、ご主人の姓を名乗っているんですよ。」


縛が隣から説明してくれた。


「……へぇ!」


なるほど!そういうことかぁ!


「じゃあ、ウィルソンさん!」


「由一でいいですよ。」


「分かった!由一さん!」


俺が笑うと、由一さんも笑ってくれた。


……優しそうな人だなぁ。


「ところで……。」


獅鳳くんが書庫を見渡した。


「巻物、見つかった?」


「あ!そうだった!」


俺は思い出して、奥を指差した。


「見つかったよ!あと、秘密基地も!」


「……秘密基地?」


獅鳳くんが首を傾げた。


「うん!こっち!」


俺は縛の横を通り抜け、本棚の奥へ向かった。


「正樹さん、走らないでください。」


「走ってないよぉ!」


……まだ。


「……おい、佐伯。」


柊木さんが後ろから声を掛けてきた。


「なんだよ、秘密基地って。」


「見れば分かるよ!」


「……嫌な予感しかしねぇ。」


そんなことを話しながら、俺は開いた本棚の前で足を止めた。


「じゃーん!」


両手を広げる。


「…………。」


「…………。」


「…………。」


……あれ?


誰も話さない。


俺は三人の顔を見比べた。


獅鳳くんは目を丸くしている。


柊木さんは頭を抱え始めた。


そして、由一さんは――。


「……え?」


本棚をじっと見つめていた。


「……ちょっと待って。」


「ん?」


「……何、それ?」


「秘密基地です!」


「いや、そうじゃなくて!」


由一さんが一歩前に出た。


「そこ、部屋になってるの!?」


「?開きましたよ。」


「えええええ!?」


……おお。


すごい驚いてる。


「僕、そんな部屋知らないんだけど!?」


「……え?」


今度は俺が驚いた。


「知らないですか?」


「知らないよ!!」


「……ここに住んでたのに?」


「住んでたけど知らないよ!!」


「……開けちゃいけなかったもしかして。」


「……いや、こんな部屋があるってことは、何か理由があったんだろうけど……。」


由一さんが俺を見つめた。


「正樹くん。」


獅鳳くんが、ゆっくりと口を開いた。


「……これ、どうやって見つけたの?」


「本を押したら開いたよ〜」


「……本?」


「うん!」


俺はさっきの綺麗な本を指差した。


「この本!」


「…………。」


獅鳳くんは本と俺を交互に見つめた。


「……偶然?」


「うん!」


「…………。」


……ん?


なんで黙るの?


「……佐伯。」


柊木さんが額を押さえた。


「お前、また何かやったのか。」


「本を読もうとしただけだよ!」


「それでなんで隠し部屋が出てくるんだよ!」


「俺に聞かれても!」


「……まったく。」


柊木さんは大きくため息を吐いた。


その隣で、小鳥遊さんが静かに笑っていた。


「相変わらずだねぇ、正樹くん。」


「……えへへ。」


「褒めてないと思いますよ、先輩。」


道徳が後ろから呟いた。


……え?


そうなの?


「……それにしても。」


由一さんが隠し部屋を覗き込んだ。


「こんな場所があったなんて……。」


さっきまでの驚いた表情が、少しずつ真剣なものに変わっていく。


「……誰が作ったんだろう。」


「由一さんも知らないんですね。」


縛が尋ねる。


「うん。少なくとも、僕が住んでいた頃には聞いたことがないよ。」


「……そうですか。」


「中には何があるの?」


「巻物と、写真です。」


「……写真?」


「はい。少し気になるものがありまして。」


縛がスマホを取り出した。


「中は狭いので、まずはこちらを見ていただけますか。」


「もちろん。」


俺たちは書庫の机の周りに集まった。


縛がスマホの画面を開く。


「まず、こちらです。」


画面には、三本足の白いカラスが描かれた巻物が映っていた。


「……あ。」


獅鳳くんが声を漏らした。


「これだ。」


「覚えがありますか?」


「うん。小さい頃に見たものと同じだと思う。」


獅鳳くんは画面に顔を近づけた。


「……本当にあったんだ。」


「うん!俺が見つけた!」


「……正樹くん、すごいな。」


「でしょ!」


俺は胸を張った。


……ふふん。


やればできる男なのだ!


「……それで、こちらの写真なんですが。」


縛が画面を切り替えた。


一枚目。


若い男女と、一人の赤ちゃん。


「……あ。」


獅鳳くんが小さく呟いた。


「父さんと母さんだ。」


「やっぱり!」


俺は思わず声を上げた。


「じゃあ、この赤ちゃんは獅鳳くん?」


「……たぶん。」


「たぶん?」


「うん。こんな写真、見たことないから。」


獅鳳くんは不思議そうに画面を見つめた。


「……でも、なんで一人なんだ?」


「そう!それ!」


俺は指を差した。


「凰真くんは?」


「……分からない。」


獅鳳くんが首を横に振った。


「俺も初めて見る写真だから。」


「……そっかぁ。」


俺は画面を覗き込んだ。


……やっぱり、不思議だなぁ。


「次はこちらです。」


縛が二枚目の写真を表示した。


短い髪の、幼い男の子。


「……ん?」


由一さんが画面を見た瞬間、首を傾げた。


「……あれ?」


「どうしました?」


縛が尋ねる。


「これ……姉さんだ。」


「……え?」


俺は由一さんを見つめた。


……姉さん?


「この男の子が?」


「うん。千代子姉さん。」


「……女の子なの!?」


俺は思わず写真を見直した。


短い髪。


男の子みたいな服。


……どう見ても男の子だと思ったのに。


「……でも、おかしいなぁ。」


由一さんが小さく呟いた。


「ん?」


「姉さん、こんなに髪が短かった時なんてあったっけ?」


「……違う人じゃないの?」


俺が尋ねると、由一さんはもう一度写真を見つめた。


「いや……顔は姉さんなんだよね。」


「……へぇ。」


「でも、いつ撮った写真なんだろう。」


由一さんは不思議そうに首を傾げていた。


「小さい頃の写真って、意外と覚えていないものですからね。」


小鳥遊さんが言った。


「……そうなのかな。」


由一さんは納得しきれない様子だった。


俺ももう一度、写真を見た。


……千代子さん。


……獅鳳くんのおばさん。それ以外は、何も知らないんだよなぁ。


「最後はこちらです。」


縛が三枚目の写真を表示した。


患者服を着た、そっくりな二人の男の子。


「あっ。」


獅鳳くんが声を上げた。


「これ、俺と凰真だ。」


「やっぱり!」


俺は嬉しくなって笑った。


「道徳も分かったんだよ!」


「懐かしい。」


道徳が笑う。


「この頃、よく遊んだよね。」


「そうだな。」


獅鳳くんは写真を見つめた。


その表情が、少しだけ柔らかくなる。


「……凰真、昔から変わらないな。」


「うん。」


二人は懐かしそうに笑った。


俺はその様子を見ながら、もう一度三枚の写真を思い出した。


赤ちゃんが一人だけの家族写真。


千代子さんの幼い頃の写真。


そして、獅鳳くんと凰真くんの写真。


……なんで、この三枚なんだろう?


「……ねぇ。」


俺は口を開いた。


「はい?」


縛がこちらを見る。


「この写真って、誰が隠したんだろうね。」


「…………。」


その言葉に、みんなが黙った。


「……確かに。」


獅鳳くんが呟いた。


「なんで、こんなところに……。」


由一さんも画面を見つめたまま、何も言わなかった。


俺はもう一度、隠し部屋の方を見る。


本棚の奥。


誰も知らなかった、小さな部屋。


そこに隠されていた巻物と写真。


……誰が、何のために?


「……とりあえず。」


柊木さんが口を開いた。


「警察にも報告した方がいいだろうな。」


「そうですね。」


縛が頷く。


「現場の確認をお願いしましょう。」


由一さんは静かに頷いた。


「……僕からも話しておくよ。」


俺はもう一度、写真の中の子どもたちを思い出した。


……なんだろう。


さっきから、何かが引っかかっている。


でも、その正体が分からない。


「…………。」


……まぁ、いっか。


俺は小さく息を吐いた。


きっと、調べれば分かるよね。


そう思って顔を上げると、縛が俺を見ていた。


「……正樹さん。」


「ん?」


「もう本には触らないでくださいね。」


「……え?」


「お願いします。」


「…………。」


……はい。


俺は大人しく頷いた。


……本を読もうとしただけなのにぃ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。