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人類の罪  作者: 華
幸せの形
130/144

ゆゆゆゆゆれいー!!

翌日、警察から呼び出され、再び皆で集まった。


「……間違いありません。」


警察官の言葉に、部屋の空気が静まり返った。


「尾野千代子さんの死亡記録を再確認しましたが、確かに亡くなられています。」


「…………。」


誰も言葉を発しない。


獅鳳くんは腕を組んだまま俯き、道徳は険しい表情で警察官を見つめていた。


俺は警察官の顔をじっと見つめた。


……亡くなってる。


な、亡くなってるんだよね?


え?……じゃあ……。


「…………。」


俺はゆっくりと縛の方を向いた。


「……縛。」


「はい。」


「千代子さん、死んでるんだよね?」


「……そうですね。」


「でも、ビデオに映ってたよね?」


「映ってましたね。」


「…………。」


俺はもう一度、警察官を見ると、警察官もなんとも言えない顔をしている。


それから縛を見ると、縛は変わらず冷静だぁ。


でも……俺には無理ダァーーーー!!!


「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊だぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「正樹さん!?」


「幽霊!!幽霊が出たぁぁぁぁ!!!!」


俺はその場で飛び上がった。


道徳が驚いて振り返り、警察官の一人が持っていた書類を落とした。


バサバサッ。


「落ち着いてください!」


縛が俺の両肩を掴む。


「無理!!無理無理無理!!!」


だって!


死んでるんだよ!?


なのに映ってるんだよ!?


それって幽霊じゃん!!!


「……正樹さん、まだ本人だと決まったわけではありません。」


「でもぉぉぉ!!!」


「……はぁ。」


縛が大きくため息を吐く。


その後ろでは、道徳が苦笑いを浮かべていた。


一方、獅鳳くんは何も言わず、パソコンの画面を見つめている。


俺が大騒ぎしていると――。


パサッ。


ポケットから何かが落ちた。


「……ん?」


床に落ちた一枚の名刺。


俺はそれを拾い上げた。


『ユタ 麗子』


「…………。」


あ。


ああああああああ!!!!!


いた!!!!


幽霊の専門家!!!!


俺は慌ててiPhoneを取り出すと、名刺に書かれた番号へ電話をかけた。


プルルルル……。


プルルルル……。


ガチャ。


「はい、ユタの麗子です。」


「こ、こここ、ここここここ!」


「……?こ?」


「こここここ!ゆ!ゆうれい!!!」


「はい、除霊のご依頼ですね。」


「そ、そそそそ!」


「では、場所を教えてください。」


「く、く、クルーズ!!!」


「………クルーズ?………もしかして、正樹さんですか?」


「そ、そ!」


「………。なるほど、今から向かいます。」


プツッ。


電話が切れた。


「…………。」


き、来てくれる。


助かったぁぁぁぁ!!!


「は、縛!!!!」


「……はぁー。お金を用意いたします。」


縛は大きくため息を吐くと、渋々どこかに電話をかけ始めた。


「……え?お金?」


道徳が呆れたようにこちらを見る。


「除霊をお願いしたみたいです。」


「……本気か?」


獅鳳くんまでこちらを振り返った。


本気だよ!!幽霊だよ!?


その時だった。


「いらんさぁ。」


「…………。」


ん?今、誰か何か言った?


「……え?」


声のした方を見る。


海が広がっているはずの窓。


そこには――。


「…………。」


麗子さんがいた。


……うん。


しかも、狼に乗って。


「…………。」


…………。


「ぎゃああああああああああ!!!!!!!!」


「正樹さん!?」


「お、お、お、おおおおおおおおおお!!!!」


な、なんで!?


なんで窓の外にいるの!?


しかも狼!?狼って、あの狼!?


なんで!?ここ船だよ!?


「なっ……!?」


獅鳳くんが目を見開き、思わず一歩後ずさった。


道徳も口を開けたまま固まっている。


「……おい、あれ……。」


「……狼、ですよね?」


警察官たちが顔を見合わせる。


一人は椅子から立ち上がり、もう一人は慌てて無線機に手を伸ばした。


「ちょ、ちょっと待ってください!どうやってここに!?」


誰かが叫ぶ。


そりゃそうだよ!!俺も聞きたいよ!!!


「落ち着きよー。」


麗子さんは冷静に狼から降りると、そのまま部屋の中へ入って来た。


そして、俺の前まで歩いて来る。


「落ち着きなさい。」


そう言うと、俺の口を手のひらで塞いだ。


「むぐっ!?」


「騒ぎすぎさぁ。」


「むぐぐぐぐ!!!」


麗子さんは俺を無視して、周囲を見渡した。


その後ろでは、一緒に来た狼が部屋の中へ入って来る。


狼の大きな足が床に触れるたび、コツ、コツと音が響いた。


警察官たちは壁際に寄り、狼から目を離さない。


道徳は警戒するように少し身を引き、獅鳳くんも狼の動きを追っていた。


「…………。」


グルルルルル……。


狼が唸ってる。


ん?どこか見てる。


その視線の先には――。


「……小鳥遊さん?」


小鳥遊さんがいた。


グルルルルルル……。


狼は小鳥遊さんに向かって、低く唸り続けている。


なのに、小鳥遊さんはまったく動じていなかった。


むしろ、狼ではなく麗子さんの方を見ている。


「…………。」


小鳥遊さんは麗子さんの姿を見ると、目を見開いた。


そして、口だけを動かした。


「……神の子。」


「…………。」


麗子さんはすぐに口元へ人差し指を当てた。


シーッ。


「……へぇ〜。」


小鳥遊さんが、ニヤッと笑った。


その笑顔を見た麗子さんも、ほんの少しだけ目を細める。


……ん?何?今の何?


「……知り合いですか?」


縛が二人を交互に見ながら尋ねた。


さっきまで俺の肩を掴んでいた手も離れ、今は二人の様子をじっと観察している。


「「いや、初対面。」」


…………。


声、揃った。


絶対なんかあるじゃん。


縛も納得していないのか、眉を寄せたままだ。


グルルルルル……。


狼は相変わらず小鳥遊さんに向かって唸っている。


「よい。これも運命。」


麗子さんがそう言うと、狼はぴたりと唸るのをやめた。


そして、その場に静かに腰を下ろす。


「…………。」


すごっ。


「……それにしても、早いですね。」


縛が尋ねる。


「近くにおったからの。」


「……近く?」


「うむ。」


「…………。」


縛は窓の外を一度確認すると、何か言いたそうに口を開いた。


けれど、結局何も言わなかった。


……うん。


聞きたいことは分かるよ。


俺もいっぱいあるもん。


麗子さんはそれ以上説明せず、そのまま道徳の前へ歩いて行った。


「…………。」


じーっ。


道徳を見つめる。


「……あの?」


道徳が困惑したように声を出す。


麗子さんは答えない。


道徳は俺たちに助けを求めるように視線を向けたけど、誰も何も言えなかった。


しばらく観察した後、今度は隣にいた獅鳳くんへ視線を移した。


「…………。」


じーっ。


「……なんだよ?」


獅鳳くんが眉を寄せる。


腕を組み直し、麗子さんを警戒するように見返した。


「ふむ。」


麗子さんは小さく頷いた。


そして、最後に俺を見た。


「…………。」


ん?


何?


俺?


麗子さんは何か納得したような顔をすると、小さく呟いた。


「……これも歩むべき道。」


「……え?」


何の話?


俺が首を傾げると、麗子さんは何事もなかったように表情を戻した。


「で?なんでわしを呼んだ?」


「…………。」


あ。


そうだった!!!


「ゆ、ゆ、幽霊!!!!」


「幽霊?」


「そう!!ビデオ!!ビデオに映ってたの!!!」


俺は慌てて警察官の方を向いた。


「すみません!!もう一回見せてください!!!」


「……え、あ、はい。」


警察官は状況についていけない様子で、パソコンを操作した。


……というか。


警察官の人たち、さっきからずっと狼を見てる。


画面を操作している警察官も、何度も狼の方へ視線を向けている。


うん。そりゃそうだよね。


普通、船の中に狼いないもんね。


「これ!!これです!!!」


俺は画面を指差した。


映っているのは、死んだはずの千代子さん。


麗子さんは画面をじっと見つめる。


「…………。」


誰も口を開かない。


獅鳳くんも麗子さんの後ろから画面を覗き込んでいた。


そして――。


「このビデオには、幽霊はおらんが?」


「…………。」


……え?


「い、いないの?」


「おらん。」


「…………。」


じゃあ、幽霊じゃないの?


よかったぁぁぁぁ!!!


俺は胸を撫で下ろした。


「……幽霊じゃない?」


獅鳳くんが小さく呟く。


道徳も考え込むように顎に手を当てていた。


「ただし。」


「……ん?」


「それを言うなら、お主の足に男がしがみついておるぞ?」


麗子さんが、俺の足元を指差した。


「…………。」


…………。


え?


俺はゆっくりと足元を見た。


……何もない。


「…………。」


俺は麗子さんを見た。


麗子さんは頷いた。


「……男が?」


「うむ。」


「……俺の足に?」


「そうじゃ。」


「…………。」


…………。


「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!!!」


俺はそのまま縛に飛びついた。


「正樹さん!?」


突然飛びつかれた縛が、よろめきながら俺の身体を支える。


「むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむり!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「正樹さん!!落ち着いてください!!」


「むりぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


道徳は慌てて俺たちの方へ駆け寄り、獅鳳くんは呆然と立ち尽くしていた。


警察官たちも突然の大絶叫に驚き、何事かとこちらを振り返る。


その中で、麗子さんだけが平然と俺を見ていた。


「……騒がしいのぉ。」


俺の大絶叫が、クルーズ船内に響き渡った。

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