目が覚めた後
「正樹くん?」
「……はい。」
「これなに?」
顔を上げて真美ちゃんの手のひらを見ると、そこには俺が最近飲んでいなかったサプリがあった。
「……俺のじゃないです。」
「ん?」
「俺のです……。」
「もしかして、前にそれで大変だったこと、忘れたのかなぁ?」
真美ちゃんに言われて、俺は思い出そうとする。
…………。
コッコッコッ……チーン!
あ!!あれかぁ!!
「あーー!!」
俺が声を上げると、真美ちゃんは「あらあら」と呟いた。
その後ろでは、小鳥遊さんと縛が揃って頭を抱えている。
「どうします?あれ、多分またやりますよ。」
「小鳥遊に聞かないでよ。もう14年間、飲ませるのに必死だったんだから。」
「……どうしましょうね。」
縛と小鳥遊さんが真剣な顔で話し合っている。
その横では、柊木さんがやれやれと頭を振っていた。
「こうしましょう。これからは飲んだら私に連絡すること。そして、たまに抜き打ちチェックに来るからね?」
真美ちゃんがそう言うと、俺はこくこくと頷いた。
「隠したってすぐ見つけるわよ。」
「はい!」
俺が勢いよく返事をすると、真美ちゃんは「よしっ」と頷いた。
ふぅ……。
やっとお説教から解放されたぁ。
真美ちゃんの後ろでは、メンズたちがなんとも言えない顔をしている。
「あれ、絶対またやりますよ。」
「やる顔してるね。」
「あー、してるな。」
こそこそと話す三人の声が聞こえてきた。
聞こえてますよーー!!
俺は心の中でツッコミを入れた。
さてと。
とりあえず、今日の分のサプリを飲まないとー。
俺はサプリを用意すると、口に入れて飲み込んだ。
「…………。」
「…………。」
ん?
なんか視線を感じる。
顔を上げると、縛と小鳥遊さんが俺をじーっと見ていた。
「……何?」
「いえ。ちゃんと飲んだなと思いまして。」
「僕も同じこと思ったよ〜。」
「え!?俺、そんなに信用ないの!?」
「ありません。」
即答!?
「ひどい!!」
俺が抗議すると、二人は何事もなかったように顔を逸らした。
えええええ!!
コンコン。
誰かがドアをノックしている。
「はい〜。」
そう言って、小鳥遊さんがドアを開けた。
「いらっしゃい〜。獅鳳くん〜、道徳くん〜。」
ドアの向こうに立っていたのは、獅鳳くんと道徳だった。
「先輩、起きました?」
「ん?うん。起きたぞー。」
「じゃあ、そろそろ指定された場所に移動しましょう。」
そう言うと、先ほど屋敷で会った警察官が、道徳たちの背後から姿を現した。
警察官に案内されて、俺たちは指定された部屋へと向かった。
そこには、すでに関係者たちが集まっていた。
「まずは、被害者についてなんですが……。」
「はい。」
「回収された遺体の一部は、この船に乗っていた船員、鈴木翔太さんのものとみられます。」
「鈴木翔太?」
初めて聞く名前に、みんなキョトンとする。
すると、文彦さんがわずかに眉を寄せた。
「……鈴木、ですか。」
「知ってるの?」
俺が尋ねると、文彦さんは静かに頷いた。
「船員の一人として、名前は存じております。ただ、直接お話ししたことはほとんどございません。」
「ん?船員ということは、うちの従業員か?」
獅鳳くんが首を傾げる。
「そういうことになります。ですので、捜査へのご協力をお願いします。」
「もちろんです。」
獅鳳くんは文彦さんに声を掛け、調査への協力をお願いした。
「では、また詳しいことが分かりましたらお伝えいたします。それまでは、指定された場所で待機していてください。」
そう言われて、俺たちは決められた場所で待つことになった。
…………。
…………。
………………。
暇だぁ。
俺が立ち上がると、すぐに縛の声が飛んできた。
「座ってください。」
「……はい。」
俺は静かにその場に座った。
…………。
暇だぁ。
「…………。」
よしっ!誰も見ていない!!
「見てますからね。皆。」
「……え?」
俺がキョトンとすると、道徳が自分の口を指差しながら言った。
「先輩、言葉に出てますよ。」
「え、うそ。」
「本当だぞ。」
柊木さんまで頷いている。
えええええ!!
信じられない〜!!
最近、心の声が口から漏れ出すことが多い気がする!!
そんなことを考えているうちに、時間だけがどんどん過ぎていった。
…………。
…………。
………………。
暇だぁぁぁぁ!!
窓の外を見ると、いつの間にか空がオレンジ色に染まっていた。
そして、さらに時間が過ぎると、外はすっかり真っ暗になっていた。
「…………。」
俺はソファに座ったまま、天井を見上げる。
暇。
暇。
暇。
あーーーー!!
暇すぎるぅぅぅぅ!!
「正樹さん、落ち着いてください。」
「まだ何も言ってないよ!?」
「顔に書いてあります。」
「え!?」
俺は慌てて自分の顔を触った。
「……書いてないじゃん。」
「そういう意味ではありません。」
「えー。」
そんなやり取りをしていると――。
コンコン。
突然、部屋のドアがノックされた。
「失礼します。」
入って来たのは、昼間に会った警察官だった。
「お待たせして申し訳ありません。これから順番にお話を伺いたいと思います。」
「事情聴取ですか?」
縛が尋ねると、警察官は頷いた。
「はい。事件について、皆さんがご存じのことを確認させてください。」
そう言って、警察官は一人ずつ名前を呼び始めた。
一人、また一人と部屋を出ていく。
そして――。
「佐伯正樹さん。」
「はい!」
俺は立ち上がった。
「こちらへお願いします。」
「分かりました。」
警察官について廊下を歩いていく。
案内されたのは、小さな部屋だった。
中には机と椅子が置かれていて、別の警察官が待っていた。
「どうぞ、お掛けください。」
「失礼します。」
俺は軽く頭を下げてから椅子に座った。
「それでは、いくつか質問させていただきます。」
「はい。よろしくお願いします。」
警察官は手元の資料を確認しながら、俺に質問を始めた。
屋敷に行った理由。
地下室を発見した時の状況。
そして、血の付いた物を見つけた時のこと。
俺は覚えていることを一つずつ話していった。
「ありがとうございます。では、最後にこちらを確認していただけますか?」
そう言って、警察官が一枚の写真を机の上に置いた。
「この人物に見覚えはありませんか?」
「……?」
俺は写真を覗き込んだ。
そこには、一人の男性が写っていた。
「…………。」
んー。
どこかで見たような……。
「どうでしょう?」
「そうですね……。どこかで見たことがあるような気がします。」
俺は写真をじーっと見つめる。
…………。
…………。
あ。
あれ?
この人……。
「あっ!!」
思わず声を上げた俺に、警察官が驚いたように顔を上げた。
「何か思い出しましたか?」
「はい!この人です!」
俺は写真を指差した。
「腕時計を回収していた人です!」
「…………。」
警察官の手が止まった。
「……腕時計、ですか?」
「はい!」
「それは、いつのことでしょうか?」
「えーっと……。」
俺は天井を見上げながら、記憶を辿る。
「結婚式の日です。確か、腕時計を拾っていたんですよね。」
「…………。」
警察官はもう一人の警察官と顔を見合わせた。
そして、再び俺に視線を戻す。
「佐伯さん。その腕時計について、詳しくお聞かせいただけますか?」
「はい。確か、結婚式の会場で腕時計が床に落ちていて、その人が拾っていたんです。」
俺は写真に視線を落とした。
うん。
やっぱりこの人だ。
「間違いないと思います。」




