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人類の罪  作者: 華
幸せの形
121/144

見つけた

パシャッ。


パシャッ。


警察の人が、俺の足元を何度も写真に撮っていく。


「…………。」


俺は動かないように、その場でじっと立っていた。


足元には、まだ赤黒い血が付いている。


腸はもう警察が回収した。


気持ち悪い。


「足元に付いた物について、何か心当たりはありますか?」


「分かりません。」


「ありません。」


俺の言葉に被せるように縛が答える。


「入った時には、すでに付着していましたか?」


「分かりません。」


「おそらくは出る時に階段を登った際に付いたものだと思います。暗くて最初は分からなかったんですけど……。」


縛の言葉に警察の人が頷きながらメモを取っていく。


その横では、別の警察の人たちが地下へ続く入口を調べていた。


「他に気になる事や気付いた事ありますか?」


警察が俺らに聞く。


「あ、そうだ。」


俺は思い出して、屋敷を指差す。


「屋敷、鍵が開いてました。」


「鍵が?」


「はい。俺たちが来た時から開いてました。」


その言葉を聞いた瞬間、警察の人たちの表情が変わった。


そして、道徳達の所に行く。


「皆さん、一度屋敷から離れてください。」


「え?」


「中に誰かいる可能性があります。確認が終わるまで、外で待機してください。」


「……犯人が?」


「可能性の話です。念のためです。」


道徳達は言われるまま、屋敷から少し離れた場所まで移動した。


その後、警察の人たちが何人か屋敷の中へ入っていく。


…………。


長い。


俺はぼーっと屋敷を眺める。


長いなぁ。


足、冷たい。


服も気持ち悪い。


なんか……。


疲れた。


「正樹さん?」


隣にいた縛が俺の顔を覗き込んでくる。


「ん?」


「大丈夫ですか?」


「うん。大丈夫。」


そう答えたけど、正直そろそろ限界だった。


しばらくして、屋敷の中を確認していた警察の人たちが戻ってきた。


結局、開いていた扉以外に不審なところはなく、人の姿もなかったらしい。


「すみません……。」


俺は近くにいた警察の人に声を掛ける。


「着替えてもいいですか?」


「着替えですか?」


「はい……。そろそろ、ちょっと……。」


俺が自分の服を見ると、警察の人も察したように頷いた。


「分かりました。こちらも確認したいものがありますので、同行します。」


「お願いします。」


警察の人と一緒に屋敷の中へ入り、文彦さんが持って来た服に着替える。


着ていた服は、そのまま警察の人が袋に入れて回収していった。


足元に付いていた血も綿棒のようなもので採取される。


「…………。」


なんか。


急に疲れたなぁ。


着替えを終えて戻ると、縛がすぐに俺の顔を覗き込む。


「正樹さん。」


「ん?」


「顔色悪いですよ。」


「そう?」


「佐伯、こっち来い。」


柊木さんにも呼ばれ、そのまま屋敷の中にあったソファへ連れていかれる。


「座ってろ。」


「はーい。」


俺は素直にソファに座った。


ふぅ……。


座ったら、一気に体の力が抜けた気がする。


「では、少しお話を聞かせてください。」


警察の人が俺たちの前に立つ。


「第一発見者はどなたですか?」


縛が静かに手を上げた。


「僕と彼です。」


そう言って、俺を指差す。


警察の人が俺を見る。


「お二人ですね。」


「はい。」


「地下への通路を最初に発見したのは?」


「彼です。」


また俺を指差す。


「あなたが?」


「はい。」


「どのように発見したのですか?」


「…………。」


俺は少し考える。


どうやってって……。


「寝転がったら、手に何か当たって。そのままゴゴゴってなって、地面が割れました。」


「…………。」


警察の人のペンが止まった。


「寝転がって……ですか?」


「はい。」


「なぜ、そこで寝転がったのでしょうか?」


「え?」


なんでだっけ?


俺が首を傾げていると、隣から縛が口を開いた。


「彼の通常運転の仕草なので、気にしないでください。」


「通常運転……。」


警察の人が俺を見る。


俺も警察の人を見る。


「はい。」


「…………そうですか。」


なんか納得してない顔してる。


その後も、島に来た時間や屋敷に来た経緯、地下への入口を開けてから警察へ連絡するまでの流れを一通り聞かれた。


「分かりました。現場はこちらで引き続き確認します。皆さんは一度クルーズ船へ戻って待機してください。必要があれば、改めてお話を伺います。」


「分かりました。」


よし。


帰れる。


俺はソファから立ち上がる。


「…………あれ?」


足に力が入らない。


グラッ。


「正樹さん!」


縛がすぐに俺の体を支えた。


「あれぇ?」


おかしいなぁ。


「無理しないでください。」


「大丈夫。歩ける歩ける。」


「歩けてません。」


「今から歩ける。」


「駄目です。」


そう言うと、縛が俺の前に腕を伸ばしてくる。


「正樹さん、失礼します。」


「ん?」


縛が俺の体を持ち上げようとした、その時。


「やめてあげれ〜。」


柊木さんが縛の肩を掴んだ。


「?」


縛が不思議そうに柊木さんを見る。


「なんですか?」


「いや……横抱きはやめてあげれ。」


「なぜですか?」


「なぜって……。」


柊木さんが俺を見る。


俺も柊木さんを見る。


「…………。」


「…………。」


なんだ?


「ほら、佐伯。」


柊木さんが俺の前で背中を向けてしゃがんだ。


「乗れ。」


「おー。」


俺は遠慮なく柊木さんの背中に乗る。


「よいしょっと。」


そのまま柊木さんが立ち上がった。


「…………。」


隣で縛が不思議そうな顔をしている。


「何ですか?」


「いや、お前はそのままでいい。」


「?」


縛は最後まで納得していない顔をしていた。


そのまま柊木さんにおんぶされ、俺たちはクルーズへ戻った。


部屋に戻ると、俺はそのままベッドに倒れ込む。


「あぁ〜……疲れたぁ。」


「正樹さん、これ目に当ててください。」


縛から温かいタオルを渡される。


「ん。」


俺は言われた通り、目元にタオルを乗せた。


「あったかぁ〜。」


じんわりとした温かさが目元に広がる。


気持ちいい。


そのままベッドに体を沈める。


近くでは、縛と柊木さんが何かを話していた。


「やっぱり、相当疲れてるんじゃないですか?」


「あんなもん見た後だからなぁ。そりゃ疲れるだろ。」


「…………。」


二人の声を聞きながら、俺は目を閉じる。


なんか……。


段々、声が遠くなってきた。


眠い。


今日は色々ありすぎたなぁ。


…………。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「腕時計、渡したじゃないですか!?何でこんな所に連れてくるんですか!」


クルーズ船の船員と同じ制服を着た青年が叫ぶ。


両手は後ろに回され、身動きが取れない。


「俺は言われた通りにした!誰にも見られてません!」


「そうねぇ。」


女の声が聞こえる。


姿は暗闇に溶け込み、顔までは見えない。


「じゃあ、何で……!」


「俺らの顔を知ってるからかなぁ?」


「誰にも言いません!本当に!だから離してください!」


「ふふっ。」


小さな笑い声が響く。


「それは無理な話だよ。」


女声の人物が、ゆっくりと青年へ近付いていく。


「口では言わなくても、人は目や表情から出てしまうからね。」


「…………。」


青年の顔から血の気が引いていく。


その時。


女声の人物の後ろから、大柄な男が姿を現した。


「……上手い話には裏があるんだよ。」


男の手に、何かが光る。


「勉強になったなぁ。」


「ま、待っ――」


グサッ。


青年の喉仏に、包丁のようなものが突き刺さった。


「…………っ。」


青年の目が大きく見開かれる。


声にならない息が漏れ、その体がゆっくりと崩れ落ちていく。


ポタッ。


ポタッ。


赤い液体が床へ落ちる。


その時だった。


大柄な男が、突然後ろを振り向いた。


「…………。」


「どうしたの?」


「誰かいる。」


「え?」


男が何かの機械を取り出す。


画面には、暗い森の木々がいくつも映し出されていた。


監視カメラの映像。


男が次々と映像を切り替えていく。


一台。


二台。


三台。


そして――。


祠を映しているカメラで、男の指が止まった。


「…………。」


そこには、一人の青年が映っていた。


茶色い髪。


天然パーマ。


青年は何かに気付いたように、こちらを見ている。


その直後。


誰かに手を引かれ、走り出した。


「……あら。」


女声の人物が画面を覗き込む。


「これは今から追いかけても駄目ね。」


画面から青年の姿が消えていく。


「まぁ、ここを見つけるのは、よっぽど運がいいのか……。」


女声の人物がクスクスと笑う。


「それとも、悪いのか。」


「…………。」


「どっちかしかないけどね。」


そう言うと――。


女声の人物が、ふっと顔を上げた。


監視カメラではない。


男でもない。


ゆっくりと。


こちらを見た。


「…………。」


見られてる。


俺を。


見てる。


「ねぇ〜。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「うわっ!?」


「なになに!?」


俺は勢いよく体を起こした。


「はぁ……はぁ……はぁ……。」


心臓がバクバクしてる。


全身に汗をかいていた。


「どうしたの!?正樹くん!」


一番最初に声を上げたのは、小鳥遊さんだった。


そういえば、島に着いたあと凰真くんのところへ行って、状態を見てきてくれたらしい。


小鳥遊さんが驚いた顔で俺を覗き込み、額に浮かんだ汗を拭ってくれる。


「大丈夫?」


「はぁ……はぁ……。」


「正樹さん?」


縛も心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。


「わかんない!」


「え?」


「分かんないけど……!」


俺は頭を押さえる。


何かを見ていた。


絶対、何かを見ていた。


でも。


細かいところが思い出せない。


ただ――。


一つだけ。


「殺された人は、多分分かった!」


「はぁ?」


柊木さんが目を見開く。


「多分、このクルーズの船員さん!」


「…………。」


「…………。」


「…………。」


みんなが黙った。


小鳥遊さんが俺をじーっと見る。


「……正樹くん。」


「なに?」


「サプリ、ちゃんと飲んでるのよね?」


「…………。」


「正樹くん?」


「…………あっ。」


俺は静かに目を逸らした。


「…………。」


小鳥遊さんの視線が、ゆっくりと縛へ移動する。


「どういうこと?」


「僕はしっかり渡してますよ。毎日ちゃんと減っているのも見ていましたから。」


「…………。」


「…………。」


その時。


柊木さんが何かに気付いたように、俺の枕を見る。


「……なぁ。」


「何ですか?」


「さっきから気になってたんだけど。」


嫌な予感。


「佐伯の枕の下に見えるの、まさかじゃないか?」


「…………。」


俺は勢いよく枕を押さえた。


ガサガサッ。


「…………。」


「…………。」


「…………。」


俺は枕の下に見えていたサプリを、急いで奥へ押し込む。


遅かった。


「正樹さん。」


「…………。」


「これは真美ちゃん案件だなぁ。」


小鳥遊さんの一言に――。


全員が頷いた。


俺以外。

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