好奇心の代償
みんな俺を見ていた。
「…………開いたね。」
そう言って、俺は扉を指差した。
…………。
何で誰も話さないの?
そう思っていると、道徳がこっちに来る。
「開いたよ。」
俺がそう言うと、道徳は俺の肩に手を置いた。
「先輩、お願いだから座ってて。」
そう言われて、俺は木の下まで連れていかれ、そのまま座らされる。
俺以外の皆は急にワタワタし始めた。
何でダァ??
そう思いながら、俺は皆を見上げる。
あー、なんか仲間外れな感じ〜。
そう思いながら手を上げて、そのまま後ろに寝そべった。
ガチャ。
…………。
気のせい気のせい。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
気のせい気のせい。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
………やめて、視線が痛い。
周囲の視線に耐えられず俺が起き上がると、俺のすぐそばで地面が割れていた。
「割れたね。」
俺がそう言うと、縛がニコニコしながらこっちに来る。
「正樹さんは、もう僕の腕に掴まっていてください。」
「え、いやだぁ。」
「…………。」
こっわ!!
そんなにじっと見なくても!!!
そう思った俺は、大人しく縛の腕に掴まる。
文彦さんが地面の割れ目の近くまで行くと、驚いたように目を見開いた。
「これは……防空壕ですね!」
「防空壕?」
文彦さんは割れ目の奥を覗き込む。
「え?文彦さん、知っているのですか?」
「知っていますよ。戦争の時には、実際に私の父もここに隠れていたそうですからね。」
「えーーー!!」
俺が声を上げると、文彦さんは父から聞いた話を思い出すように何度か頷いた。
「私の家は代々、尾野家に仕えさせていただいておりますので。父から、この防空壕の話も何度か聞いたことがあります。」
「へぇ〜。」
「私自身も昔、この辺りに防空壕があるという話は聞いていましたが……。」
文彦さんはそこで言葉を止めると、もう一度、地面に開いた暗い穴を覗き込んだ。
「まさか、今も残っていたとは……。」
「文彦さん、入ったことはないの?」
俺が聞くと、文彦さんは首を横に振った。
「ありません。父から話を聞いていただけですから。」
「じゃあ、中がどうなってるかは分からないんだ。」
「ええ。」
…………。
俺は暗い穴をじーっと見つめる。
「じゃあ、入ってみよっか。」
「ダメです。」
縛が即答した。
「まだ何も言ってないよ!?」
「言いました。」
「最後まで聞いてないじゃん!」
「聞かなくても分かります。」
「えーーー!!」
そう言いながらも、俺は穴に向かって駆け出す!!
早い者勝ちー!!!
「正樹さんーーー!!!!!!」
やばっ!怒ってる!!!
俺はタタタッと陽の光を頼りに階段を駆け下りる。
その時――。
ゴッ。
何かを踏んだ。
ん?
「縛〜〜!!!なんかある〜〜!!」
俺はそう言いながら足を止め、暗闇の中に目を凝らす。
「あるわけないじゃないですか。な、にを…………。」
後ろから追いついてきた縛の声が止まった。
「…………正樹さん。」
「ん?」
「早くこっちに来てください。」
「え?」
「いいから!!早く来い!!!」
「は、はい!!」
こっわ!!!
初めて縛の敬語が崩れた!!
何!?
俺、そんなに怒られることした!?
急に心臓がバクバクしてきて、俺は慌てて縛のところまで走っていく。
すると縛は俺の顔を両手で掴み、そのまま出口の方へ向けた。
「いいですか?絶対に振り向いたらダメですからね。」
「え?何で?」
「何でもありません。言うことを聞いてください。じゃないと、ラーメン禁止生活を延長しますよ。」
「はい!!仰せのままに!!」
そう言うと、俺は縛に背中を押されながら階段を上っていく。
縛が階段の下にある物を見つめていることにも気づかずに。
⸻
本当に、何でこの人はいつも何かしら自分から巻き込まれにいくのですかね!?
僕は正樹さんに心の中で文句を言いながら、階段の下に転がっているものを見つめた。
暗くて全体は見えない。
けれど、陽の光が僅かに届いた場所に、それはあった。
人のものと思われる肉片。
そして、その周囲には黒ずんだ血の跡が広がっている。
…………間違いない。
人間の遺体です。
しかも――。
バラバラにされている。
「…………。」
僕は一度息を整えると、正樹さんの後を追って階段を上った。
地上へ出ると、すぐに声を上げる。
「警察に連絡してください。防空壕の中に遺体があります。」
「なに?なんかあったの?」
正樹さんは不思議そうに僕を見る。
「…………。」
この人、本当に何も気づいていないのですか?
その時、iPhoneを持った柊木さんがこちらへ近づいてきた。
「東雲、どうし――」
言葉が止まる。
柊木さんの視線が、正樹さんの足元に向いた。
みるみるうちに、その顔から血の気が引いていく。
「おいおい……佐伯。なんつう物を持って帰ってきた。」
「え?」
柊木さんの言葉につられ、僕も正樹さんの足元へ視線を落とす。
「…………っ。」
正樹さんの足首に、赤黒い何かが絡みついていた。
腸だ。
「ん?なに?」
正樹さんが足元を見ようとする。
「ダメです!」
その瞬間、僕と柊木さんは同時に正樹さんの顔を掴み、ぐいっと上に向けた。
「いたっーーーーーー!!!!!!」
「上を見ていてください。絶対に下を見ないでくださいね。」
「え?」
「絶対ですからね。」
「う、うん?」
何が何だか分かっていないのか、正樹さんは戸惑いながらも頷いた。
しばらくすると、獅鳳さんと道徳くんがこちらへ向かってくる。
「警察、あと10分で着くって。」
「そこで止まれ!」
柊木さんが声を上げた。
二人が同時に足を止める。
「え?」
「それ以上こっちには来るな。砂利道で待ってろ。」
「何かあったのか?」
「後で説明する。それより、文彦さんに佐伯の新しい服を全部用意してもらえ。」
「服?」
獅鳳さんが眉を寄せる。
「いいから用意しろ。警察が来て、確認が終わったらすぐ着替えさせる。」
「……分かった。」
二人は納得していない様子だったが、そのまま離れていった。
「…………。」
正樹さんは何も言わない。
何があったのかは分かっていない。
けれど、僕たちの様子から何かがおかしいことだけは分かったのだろう。
さっきまでふざけていた表情は消え、正樹さんの顔から少しずつ血の気が引いていた。




