海の漂流物
山の上に、光が見える。
あそこに、なんかあるのか?
「縛ーー!!!はやくーーー!!!」
クルーズ船の近くまで行った正樹さんの声に、僕は振り向く。
「はい。今行きます。」
僕はそう返事をすると、再度視線を山の上に向けた。
「……光、なくなってますね。」
視線の先に映ったのは、生い茂った木々だけだった。
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「縛ーー!!!はやくーーー!!!」
俺は後ろにいる縛に目線を向けると、なんか上の空だった。
「はい。今行きます。」
そう言うと、縛は再び顔を上げる。
なんだ?星空でも見てるのか?
不思議に思いながらも、俺には早く確かめないといけないことがある!!!
「ちょ、佐伯、痛い痛い!」
柊木さんが俺の手を叩きながら言うと、俺はそっちを見る。
あ、力込めすぎた。
グッと柊木さんの腕を掴んでた。
でも、柊木さんめっちゃ筋肉質なのか、あんまり掴めない。
「す、すみません!」
「もう着くから、手離してもいいと思うが?」
「はい!」
俺が手を離すと、柊木さんは真美ちゃんのところに行き、「まみちゃん〜」と甘えていた。
真美ちゃんの隣にいる結愛を見ると、めっちゃ冷たい目をしていた。
うん。これが柊木家の日常なんだなぁ。
クルーズ船の近くまで来ると、道徳達も急ぎながら帰って来た。
「お?どうした?」
柊木さんが言うと、道徳が焦った様子で口を開く。
「あ、凰真のことで気づいたことがあったんです。」
「え?」
「凰真が運ばれた時のことを思い出したんです!」
「もしかして、光るやつに関係ある?」
「え!?そうです!先輩も!?」
「多分、気づいたことは違うけど……関係あると思う。」
「じゃあ、一緒に行きましょ!」
「行く!」
「「獅鳳のところへ!!!」」
やっぱり同じだったのか!!
そうと決まれば行かないと!!
柊木さんも一緒に来ようとしていたが、道徳は穂乃果ちゃんを柊木さん達に任せることにした。
そして、俺と道徳と縛は、広いクルーズ船の中で獅鳳くんを探す。
部屋。
食堂。
ホール。
海側のテラス。
どこにもいない。
どうしようかと悩んでいると、縛が口を開く。
「船橋は探しました?」
「まだ!!」
そう言うと、俺らは近くにいた船員を見つけて事情を話す。
船員は「上に確認します」と言うと、すぐに連絡を取ってくれた。
そして許可をもらい、俺らはそのまま船橋へ連れて行ってもらった。
あ!いた!!
「獅鳳!」
「ん?どうした、道徳?」
振り返った獅鳳くんの顔色は悪く、目の下にはクマができていた。
「分かった!」
「……何が?」
道徳は獅鳳くんの肩を掴むと、勢いよく揺らす。
「あの腕時計!!おじさんのやつ!!」
「え?親父?」
「そう!!あれ、絶対おじさんがずーっとつけてたやつ!!」
「ん?待て待て。俺の理解力が落ちたのか?」
獅鳳くんが混乱していると、縛が口を開く。
「道徳さん、少し落ち着いてください。最初から状況を説明してください。」
「あ、そ、そうですよね!じゃあ、最初から話しますね。」
「はい。」
「今日、穂乃果さんと店を回っていた時に、偶然時計屋さんに入ったんですよ。」
ん?
今、ノロケ入った?
「そこで偶然、おじさんの昔の写真を見つけたんです!」
「お、おう?ここ開発したの親父だしなぁ。」
「その写真に写ってたおじさんがつけていた腕時計が!!」
「腕時計が?」
「凰真が運ばれた時に、凰真の手から落ちたんです!」
「あ?」
え?
あの腕時計、獅鳳くんのお父さんの?
でも、なんで?
なんで凰真くんが持ってたんだ?
「いやいや、そのはずないぞ。あれはおばちゃんのところにあるはずだぞ?見間違いじゃないか?」
「いや、見間違えてない。」
道徳がそう言い切ると、俺も口を開く。
「獅鳳くんのお父さんのかどうかは分からないけど、俺もあの腕時計を二回見た。」
「え?」
「一回は道徳と同じ。結婚式で凰真くんが運ばれた時。」
みんなが頷く。
「そして、もう一回は……海に落ちてたマネキンが腕に巻いてた時。」
「本気で言ってます?正樹くん。」
「うん。間違いない。」
「……待て。待ってくれ。ちょっと頭を整理させろ。」
獅鳳くんは船橋を出ると、近くにあったベンチに座った。
「はぁー……。」
そう言いながら、考える人みたいなポーズをする。
「凰真が持ってた腕時計を、道徳と正樹くんが見た……。それと同じ腕時計を、正樹くんは海に浮いてたマネキンでも見た……。」
獅鳳くんがブツブツと呟く。
「でも、親父の腕時計はおばちゃんが持ってたはずだ。」
「……はい。」
縛が静かに返事をする。
「おばちゃんは、今回の事件の被害者として亡くなってる。」
獅鳳くんが顔を上げる。
「それなのに、凰真が持ってた。」
「そうです。」
「しかも、同じ腕時計を正樹くんはマネキンでも見た……。」
獅鳳くんの表情が変わる。
「……いや、待てよ。」
突然、獅鳳くんが勢いよく立ち上がった。
「正樹くん!」
「は、はい!」
「あのマネキン、今どこにある!?」
「え?」
ど、どうしたのかなぁ?!
俺が驚いていると、縛も何かに気づいたように顔を上げた。
「……まさか。」
「早く確認するぞ!」
獅鳳くんがそう言うと、縛も頷く。
「行きましょう。」
「え?え?何!?」
俺だけ分からない!!
「回収した漂流物は保管されてるはずだ。案内する!」
獅鳳くんが駆け出すと、二人もついて行く。
え?!
訳が分からないまま、俺もついて行く。
そして、走ること約十分。
ようやく保管室に着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。」
俺は上がった息を整えるのに必死。
でも、三人とも余裕な顔をしている。
……運動しよ。
そう決心した俺だった。
「わりぃ!急いで来てもらって。」
獅鳳くんが目の前の船員に言うと、船員は首を横に振る。
「だ、大丈夫です!!今、鍵開けます。」
大きな体格にそぐわない、優しい声だった。
意外だぁ。
俺はまじまじと船員を見つめると、縛に背中を叩かれた。
ごめんっ!
そう思いながら、自分の背中をさする。
いたい。
ガチャ。
開いた扉の向こうには、広い保管室があった。
傘。
キャリーケース。
服。
ドライヤー……。
とにかく、たくさんの落とし物が置かれている。
俺らは歩きながら、保管室の中を見て回った。
……おかしい。
なんで?
あんな大きい物が、なんで……?
「……ありませんね。マネキン。」
その言葉に、俺らは誰も返事をしなかった。




