光
麗子の名刺を持って、俺らはとりあえずクルーズに戻る。
道中で俺がまた一人でどこかに行かないよう、四方向に皆それぞれ歩いていた。
おかしいなぁ。どこかに行ったのは皆なのに〜。
「佐伯、ジェラート買い終わったらすぐ合流できるようになぁ。」
「そうですよ。僕たち、店の看板の前でずーっと待っていましたよ。なのに、正樹さん、そのまま森に行くのですから。」
「本当!あれは驚いたなぁ。」
周囲が盛り上がる中、俺の頭の中で一つの言葉がループする。
『お主の目は、もう答えを見ておる。』
あれはどういう意味なのだろう……。
ん〜、わからないなぁ。
俺がもう見てる?
答えって、何を?
「…………。」
考えても、やっぱり分からない。
そういえば、蛍がヒントだって言っていたなぁ。
蛍……。
俺は、お尻が光ったり、消えたりする蛍を思い出す。
チカッ。
チカッ。
光って、消える。
チカチカするなぁとは思うけど……ん〜。
ん?
チカチカ?
チカ……?
ん?
そういえば、何日前にも見たような気がする。
なんだろう。
蛍みたいな淡い光じゃなくて。
もっと遠くで……。
一瞬だけ。
キラッと――。
ん?!
あ!!!!
「マネキン!!!」
「うぉっ!?」
俺の思考がようやくつながると、柊木さんが声を上げて驚いた。
「マネキン!マネキンだよ縛!!!」
「どうしたのですか?大声出さないでください。」
「あらあら、大興奮ね。」
そうだ!あの時だ。
海に浮かんでいた、人みたいな何か。
俺が人だと思って騒いで、獅鳳くんが船員さんに回収を頼んでくれた。
あの時、一瞬だけ何かが光った。
結局、回収されたのはマネキンだったけど……。
麗子さんが言っていたのは、あれのことだったんだ!
「と、とりあえず!早くクルーズに戻らないと!!」
俺は船がある方向を見る。
そういえば何が光ったのかをまだ確認していなかった。
だったら――今から確かめればいい!
⸻
そう言って、正樹さんがその場で足踏みをする。
「どうしたのですか?」
落ち着かない様子に声を掛けると、正樹さんは「クルーズに行ったらすぐ分かる!」と言いながら、目の前を歩いている柊木さんの背中を押した。
「ちょ、佐伯!押すな!」
「早く早く!」
「分かったから!」
……本当に、どうしたのですかね。
小さく息を吐きながら、正樹さんの後ろ姿を見る。
さっきまで森の中で知らない女性と話していた人とは思えない。
その姿を見ているうちに、少し前の出来事が脳裏に浮かんだ。
……そう。
正樹さんは、また勝手にいなくなった。
いや、なろうとしていたのか正解かもしれない。
ジェラート屋を出て、森歩き出した時、すぐに追った。……別に、また迷子になると思ったからではありません。
ただ、一人でちゃんと戻って来られるのか信用できなかったのです。
そして、観光していた時のことを思い出す。
「…………。」
ソーキそば屋で、正樹さんが何かに視線を奪われて、顔が赤くなる。
ただ、それだけです。
それなのに。
なぜか、面白くなかった。
胸の奥がモヤモヤして。
自分でも、あの時の感情には驚いた。
僕が、あんなことで嫉妬するなんて。
それに――。
会計の時。
店員さんが僕を見て笑った。
『楽しいお友達ですね。』
友達。
前だったら、その言葉を聞いて少し複雑な気持ちになっていたかもしれない。
なのに。
あの時は――。
不思議と、それで満足していた。
正樹さんの友達。
それだけで、少し嬉しかった。
「…………。」
僕は一体、何を考えているのでしょう。
自分でもよく分からない。
そして、ジェラート屋さんでのあの行動ですよ。
「正樹さん?」
森の方を見ている。
視線の先には、一匹の蛍。
淡い光を点滅させながら、ふわふわと飛んでいる。
蛍が森の方へ進む。
すると――。
正樹さんも一歩、森へ入った。
「正樹さん?」
近づきながら、もう一度声を掛ける。
でも、返事がない。
「どこに行くのですか?」
振り返らない。
ただ、目の前を飛ぶ蛍を見つめながら、森の奥へ進んでいく。
「正樹さん!」
さすがにおかしい。
急いで後を追った。
途中で異変に気づいた柊木さんたちも合流する。
「佐伯、どこ行くんだ?」
「正樹くーん?」
声を掛けても、反応がない。
ただ進んでいく。
暗い森の中を。
迷うことなく。
右へ。
左へ。
木々の間を抜けていく。
まるで――。
最初から道を知っているかのように。
「…………。」
おかしい。
正樹さんですよ?
何もないところでも迷子になる正樹さんが、暗い森の中を一度も迷わず歩いている。
僕は前を飛ぶ蛍を見る。
小さな、小さな光。
森の暗闇の中では、今にも消えてしまいそうな淡い光なのに。
なぜでしょう。
正樹さんの顔だけが、はっきりと見える。
まるで。
蛍が正樹さんだけを照らしているように――。
その時。
正樹さんが突然、足を止めた。
僕も驚いて顔を上げる。
「…………。」
そこには、昼間の女性が立っていた。
白い服。
昼間、僕たちが会った女性。
正樹さんが何かを話している。
女性も、正樹さんに何かを話している。
でも――。
聞こえない。
「……?」
少しだけ近づこうとするが、動けない。
すぐ近くにいるはずなのに。
二人の声だけが、森の中から切り離されているようだった。
やがて女性がふっと、こちらを見た。
「…………。」
目が合う。
その瞬間。
風が吹いた。
ザァァァ……。
木々が大きく揺れる。
思わず目を細めた。
「……え?」
女性の姿がない。
さっきまで、確かにそこにいたのに。
「どこに……。」
周囲を見回した、その時だった。
ふわり。
耳元を風が通り抜ける。
そして――。
誰もいないはずの場所から、声が聞こえた。
『探しむんや、上んかいあるよ。』
「……っ!」
勢いよく振り返る。
でも。
そこには誰もいない。
「…………。」
探し物?
上?
何の話か分からず、僕たちは正樹さんを連れてクルーズに戻ろうとした。
「マネキン!マネキンだよ!」
興奮しながら言う正樹さんに、僕はやれやれとため息をつく。
その時。
僕の脳内に、あの言葉がパッと浮かんだ。
『探しむんや、上んかいあるよ。』
上……?
なんとなく、ゆっくりと顔を上げる。
さっきまでいた森の木々の隙間から見えるのは、暗い夜空。
そして――。
そのさらに上。
山の上に、一つだけ小さな明かりが見えた。
「…………。」
あれは――。




