蛍
「お待たせしました。こちら、ソーキそばとサーターアンダギーです。」
店員さんが目の前に持って来たソーキそば。
ホカホカの湯気と共に、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「いただきますーー!!!」
俺が箸を割ると、隣で縛が店員さんに「ありがとうございます」と代わりにお礼をしてくれた。
早速!一口目!!
まずはスープー!
くぅー!!!うまっ!!!
次は麺!!
俺は一口分を箸で取ると、鼻いっぱいに入ってくる美味しい香りを味わう。
ズ、ズズー。
う、うまーーー!!!
麺と絡んだスープがうまい!!!!!!!!!!!!!!!!
次は、チャーシューも一口。
う、うまぁーーーーー!!!!!!
「正樹さん。」
うま、うま!うますぎる!!!
「正樹さん!」
「うま!う、うま?」
「声に出てますよ。」
「う、うまうま?」
「…………。日本語でお願いします。」
「お、た、大変!美味し過ぎて日本語忘れるところだった!」
俺がそう言うと、店内のあっちこっちからクスクスと笑う声が聞こえた。
はっ!!ここ、店の中だった!!!!
恥ずかしい!!!
穴の中に入りたいーー!!!
そう思いながら、縛の服のチャックを下げると、その中に潜り込もうとする。
「…………はぁー。」
縛のため息が聞こえ、俺は目の前にある筋肉に気づく。
ごくっ。
「え、縛が筋肉マンになった。」
「なってません。早く出てください!」
「は、はい!」
そう言うと、またもや店の中から笑い声が聞こえる。
俺が顔を上げると、斜め前にいる女の子と目が合った。
ん?珍しい髪色してる。
お?琥珀色の目?
まぁ、今時珍しくもないか。
そう思っていると、向こうも俺が見ていることに気づいたのか、ニコッと俺に笑顔を向けた。
その笑顔に、俺は思わず顔を赤くする。
その瞬間、隣から椅子がわずかに軋む音がした。
見ると、縛がいつの間にか俺との距離を詰めている。
肩が触れそうなくらい近い。
「……正樹さん?」
いつもより少し低い声で呼ばれ、俺は反射的に縛を見た。
縛は女の子のほうを一度だけ見たあと、すぐに俺へ視線を戻す。
その顔は笑っているのに、目だけがまったく笑っていなかった。
「な、なに?」
「いえ。何しているのかなぁと思いまして。」
「え?」
「……いえ、何でもありません。」
そう言いながら、縛は俺の前に置かれたソーキそばを、俺のほうへ少し押し出した。
「冷める前に、食べてください。」
「う、うん。」
俺が女の子から視線を戻すと、縛はようやく少しだけ表情を緩めた。
けれど、俺がまたちらりと斜め前を見ようとすると、縛の指がテーブルの上でぴくりと動く。
「正樹さん。ほら、早く食べないと麺伸びますよ。」
なんだ、その冷たい声は。
そう思いながら、自分のソーキそばに顔を戻す。
「スピードが命。」
俺はそう言うと、目の前の麺に集中した。
隣から冷たい視線を感じるけど、無視!無視!!
俺はそう思いながら、ひたすら目の前のソーキそばのみ!!!!
しばらくして、隣の縛はやっと動き、サーターアンダギーを食べる。
甘い物に癒されたのか、隣から冷たい風がなくなった。
うん。これから縛用に甘い物持ち歩こう。
うんうん。
そう決意して、俺は目の前のソーキそばを食べ終える。
「ごちそうさまでした!」
俺が食べ終えると、縛が荷物を持って立ち上がる。
「ん?」
「行きますよ。」
いつもゆったりしている縛にしては珍しい。
そう思いながら俺が立つと、縛が俺の背中を押す。
「先に外で待っててください。」
「ん?ご飯のお金。」
「共有財布から今日出すので、いいですよ。」
「え!いいの!!?」
「いいですよ。」
「やったー!ラッキー!」
共有財布とかいつも生活費にしか使えないのに〜。ふふ、ラッキー。
俺がスキップしながら、店を出る。
縛ははぁーと後ろでため息をつきながら、俺が赤面した女性を見て、
「本当、面食いですね。」
とボソリと言っていたことに、俺は気づかなかった。
俺が店を出ると、シロは目の前の木に止まっていた。
本当、今日人がいる時にいるの珍しいなぁ。
「シロ、お待たせ〜。」
俺がそう言うと、シロは「カァー」と鳴きながら顔を背ける。
「ん?」
反応が微妙なシロに、俺は首を傾げる。
すると、後ろから縛の声が聞こえた。
「何、野生動物に挨拶しているのですか?」
「……シロは知ってる動物です。」
「そういう意味で言っていたわけじゃないですけどね。」
「ん?」
「まぁ、いいです。ほらっ、行きますよ。ジェラートの店行きますよ。」
縛に腕を引っ張られながら、俺はそのまま歩き出す。
「え、シロは?」
「野生動物なので、ほっといて大丈夫です。」
「え、えーーー!シローーーーー。」
俺が声を上げると、シロは「カァ」と鳴いて、顔を少し上げる。
なんか鼻で笑われた気がする。
俺はモヤモヤしながら縛に引っ張られ、そのままジェラートの店へ。
すると、そこには結愛ちゃんがいた。
「あれ!?正樹くんと縛くんじゃん。やっぱここの店来るよねぇー。」
結愛ちゃんがニコニコしながら走って来る。
相変わらず青春の輝きが素晴らしい。
「当たり前ですね。ここのおすすめは食べないとですね。」
縛は当たり前だぁみたいな雰囲気出してるけど、俺は初めてだよ。
「何かおすすめなの?」
俺が聞くと、結愛ちゃんが看板を指差す。
「これ、ちんすこう味!美味しいらしいよ!」
そう言うと、ちょうど店から柊木さん達が出て来る。
「お、結愛ちゃん。ちゃんと待ってたなぁ〜。えらいぞー。」
柊木さんがそう言うと、ジェラートを結愛ちゃんに渡す。
「あらあら、結愛ちゃんはもう高校生ですよ。あんまり小さい子扱いすると、口聞いてもらえなくなるわよ。」
真美ちゃんがそう言うと、「そうだそうだ」と隣にいた結愛ちゃんがジェラートを食べながら頷く。
「お?佐伯達じゃん。」
「柊木さん達、偶然ですね!」
「さっきぶりだなぁ〜。」
そう雑談しながら、俺は看板をチラッと見る。
え、待って。
「ソーキそば味がある。」
俺が言うと、柊木さんが驚く。
「なんだ突然。」
そう言うと、俺の視線の先を見る。
「……うまいのか、それ。」
「世の中はチャレンジですよ!!縛ー!!!」
俺が後ろを振り向くと、縛がいなかった。
え?
「なんですか?」
声がして振り向くと、縛が店内から出て来た。
その手にはダブルのジェラートがある。
「はやっ。」
「ジェラートは逃げますからね。」
「いやいや、逃げないよ。」
俺がそう言うと、縛は返事もせずジェラートを食べる。
まぁ、いいか。
「……見て!ソーキそば味があるよ!」
俺が言うと、縛は嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「邪道です。」
そう言うと、また自分のジェラートを食べた。
その禍々しい紫色と水色のジェラートは何?
とツッコミたいが、突っ込んだら終わりだということは、さすがに俺も知ってる。
そう思いながら、俺はジェラートを注文する。
「お待たせしました。」
店員さんからジェラートを受け取ると、俺は店を出た。
「ん?皆いない。」
俺がキョロキョロと辺りを探すけど、誰もいない。
外も暗くなって来たし、仕方ないので看板の前に立ってソーキそば味のジェラートを食べる。
「…………。」
冷えたスープの味がする。
俺はさっき食べた温かいソーキそばを思い出しながら、ジェラートを食べていると、目の前に急に小さな光が現れた。
「ん?」
俺がその光に視線を合わせると、その光はチカチカと点滅していた。
そう思っていると、また目の前に光が現れる。
「………これ、蛍?」
俺はそう言うと、チカチカ光る蛍についていく。
ガサッ。
ガサッ、ガサッ。
どんどん道を進むと、なんだか草が増えて来たような気がする。
いつの間にか、持っていたジェラートも食べ終えていた。
蛍が葉っぱに止まり、チカチカと光る。
「綺麗〜。」
そう思いながら、しゃがんで蛍を見る。
すると、一匹。
また一匹。
暗闇の中に、どんどん小さな光が増えていく。
「スゲェー!!!」
俺が感動していると、
「カァー。」
聞き慣れた声がした。
「ん?」
俺が振り向く。
ガサッ。
木と木の間から、一人の女性が出て来る。
銀色の長い髪は月の光に照らされ、キラキラと輝いていた。
その周りを、たくさんの蛍が飛び交っている。
暗闇の中で、琥珀色の瞳がやけに目を惹く。
…………綺麗。
俺がその光景に圧倒されていると、女性の肩から見慣れた姿が顔を出した。
「カァー。」
シロだぁ。
「え?」
ガサッ。
さらに、女性の後ろの草むらが揺れる。
そこから姿を現したのは、白い獣。
その後ろには鹿。
さらに、その奥にも様々な動物達がいる。
…………。
銀色の長い髪。
琥珀色の瞳。
肩にはシロ。
周りには蛍。
そして後ろには動物達。
…………ものの◯姫だぁ!!!
【縛と正樹の共有財布裏話】
1.縛7割入金、正樹3割入金(強制)
※正樹は「半分ずつにしよう!」と言いましたが、それを巡って縛と喧嘩。3日間口を聞かない状態が続きました。結局、縛が落ち込んでいるのを見て、正樹が折れました。
【後日の正樹によるコメント】
ありがたいけど、なんか最近周囲から囲まれている気がする………。うん。きっと気のせいだと思う。
うん、多分。




