もう一人
♪〜♪〜♪
突然、獅鳳くんのiPhoneから着信音が鳴る。
獅鳳くんは画面を確認すると、すぐに電話に出た。
「はい、尾野です。」
電話の向こうから何かを聞いた瞬間、獅鳳くんの表情が変わった。
「……え?」
さっきまで普通だった顔が、どんどん曇っていく。
「わりぃ、お、俺行かないと。」
獅鳳くんがそう言うと、額から冷や汗が流れる。
顔色もどんどん白くなっていった。
iPhoneを持っている手も震えてる。
「どうした? 獅鳳? 顔色悪いぞ。」
道徳が聞くと、獅鳳くんの手からiPhoneが滑り落ちた。
ガタンッ。
「い、いないんだ……。」
「ん?」
「凰真が……。」
獅鳳くんがハッとしたように口を閉じる。
「……いや、なんでもない。」
そう言って、何度も頭を振った。
「………。」
「と、とりあえず、行かないと!」
獅鳳くんが扉へ向かおうとする。
その時、道徳がその腕を掴んだ。
「……もう一人の獅鳳に何かあったの?」
道徳がそう言うと、獅鳳くんが驚いた表情で振り返る。
「……な、何言ってるのか……。」
「なんとなく、言ってはいけないことだとは分かってる。でも……その焦り方は、きっと片割れに何かあったんだろ?」
「な、なんで!?」
「……前から、少し変だと思ってた。」
「え?」
道徳が獅鳳くんの顔をじっと見る。
「前に話したことを覚えてなかったり、逆に俺が知らない話をしてきたり……。最初は忘れてるだけだと思ってた。」
「………。」
「でも、それだけじゃない。」
道徳の視線が、獅鳳くんの顔のある一点に向く。
「会うたびに、なんとなく違う時があった。」
「っ……。」
獅鳳くんが反射的に顔を逸らした。
……どういうこと?
俺には、ずっと同じ獅鳳くんにしか見えない。
「だから、もしかしたらって思ってただけだよ。今日まで聞くつもりもなかった。」
「………。」
「でも、今の顔見たら……。」
道徳が一度言葉を止める。
「何かあったんだろ? もう一人の獅鳳に。」
獅鳳くんは答えない。
ただ、震えていた手を強く握り締めた。
「………。」
なんだ?
二人が何を話しているのか、全然分からない。
もう一人の獅鳳?
凰真?
さっき獅鳳くんが言った名前と関係があるのか?
聞きたい。
めちゃくちゃ聞きたい。
でも、獅鳳くんの顔を見ていると、いつものように簡単に聞いてはいけない気がした。
パンパンッ。
突然、小鳥遊さんが手を二回叩いた。
皆が小鳥遊さんを見る。
「ほらほら〜。急がないといけない事情があるんでしょ?」
小鳥遊さんがそう言うと、獅鳳くんは少し迷ったあと、小さく頷いた。
そして、そのまま何も言わずに部屋を出て行ってしまう。
「……道徳。どういうこと?」
俺は残った道徳に聞こうとする。
けど、道徳は頭を振ると、そのまま獅鳳くんを追うように部屋を出て行ってしまった。
「道徳?」
俺も追いかけようとすると、縛が俺の腕を掴んだ。
俺は何事か? と振り向く。
縛は無表情のまま、静かに頭を振った。
「………。」
俺は何も言わずに頷く。
柊木さんも縛の後ろで頷いていた。
そして、小鳥遊さんはなぜか俺の頭を撫でる。
「………。」
……俺、子どもじゃないけど?
しばらく時間が経つと、柊木さんが口を開いた。
「まぁ、人のことにはあんまり突っ込まない方がいいってことだなぁ。話したい時に話してくれると思うぞ。」
「……うん。」
「さぁ、正樹くんも体調が少しずつ戻ったことだからね〜。そろそろ自分の部屋に戻ってもいいよ〜。」
小鳥遊さんの言葉を聞いた瞬間、俺は一気に元気になった。
「おーーー!!!!! やったーーーー!!! ラーメンーー!!! 食べるぞー!!」
「ダメです。」
俺は聞こえないふりをする。
「ダメですよ。」
「そうだよ〜。さっぱりした物とか、消化のいい物にしてね〜。」
「……。」
「ほらっ。始まったぞ〜。」
柊木さんが扉の近くまで行くと、ひょいっと外を覗いた。
「……おっ? 真美ちゃん?」
「はい! さっぱりした消化のいい物食べます!」
「お〜。聞いたからね〜。」
「ふふ、聞きましたね。」
「ははっ、聞いたぞー。次返事しなかったら、真美ちゃんに言うからなぁ〜。」
「………。」
はっ!
嵌められた!!!
「カァー。」
「………。」
今、窓の外からシロにバカにされたような気がした。




