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人類の罪  作者: 華
幸せの形
103/144

Ramen, Come On!

「正樹さん?」


縛の声に俺は現実に引き戻される。


ん?あれ?


見慣れた顔ばっかり……


縛に、道徳に、獅鳳くん。


少し離れたところには、小鳥遊さんもいる。


みんな俺のことを見ていた。


「ううん。なんでもないよ……。」


そう言って笑うと、縛が少しだけ眉を寄せた。


『ぐぅー』


「………お腹空いたかも。」


一瞬、部屋が静かになる。


縛は俺のお腹へ視線を落とすと、呆れたように小さく息を吐いた。


「それはそうですよ。2日間寝てたのですから。」


「え?!2日間!!!?」


俺は勢いよくベッドから起き上がって、縛を見る。


ズキッ。


「いったぁ……。」


「正樹さん!」


縛が慌てて俺の肩を支える。


「急に起き上がったら駄目だよ〜。」


小鳥遊さんは困ったように笑いながら、俺をもう一度ベッドへ寝かせる。


「だ、だって2日って……。」


「?そうですよ?」


縛は何をそんなに驚いているのか分からないとでも言いたげに、首を傾げる。


「え!てことはもう海の上!!?」


「ずっーと海の上ですよ。」


「いやいや!そういう事じゃなくて!」


俺が両手を振って否定すると、道徳が「ああ」と何かに気付いたように笑った。


「先輩が言いたいのは、多分船がもう動いたのかと思いますよ。」


「おー、さすが道徳。」


獅鳳くんが感心したように道徳を見ると、道徳は獅鳳くんを肘でつく。


「そう!それ!船!もう出航したの!?」


俺が何度も頷くと、獅鳳くんは少しだけ目を丸くしたあと、ニヤッと笑った。


「とっくにしてるぞ。」


「うそぉぉぉぉぉ!!」


俺の叫び声が部屋中に響く。


道徳が思わず耳を塞ぎ、縛の眉間には皺が寄った。


2日。


2日も寝てたってことは……。


俺の休みが2日も消えたってこと!?


まだ船の中、全然見てないのに!


お土産だって途中だし!


食べたいものもいっぱいあったのに!


俺が絶望しながら頭を抱えていると、縛が冷めた目で俺を見る。


「……そんな絶望した顔しなくても、まだ船旅は続きますよ。」


「だって2日だよ!? 2日あったらラーメン何杯食べられると思ってるの!?」


「知りません。」


縛は呆れた顔で即答した。


「いっぱいだよ!」


「でしょうね。」


『ぐぅぅぅぅー』


再び、お腹が鳴る。……さっきより大きい。


「…………。」


「…………。」


縛が無言で俺を見る。


俺も縛を見る。


「……ラーメン。」


「駄目です。」


「まだ何も言ってないよ!?」


「言いましたよ。」


縛の表情は一切変わらない。


言ったけど!


「ふふっ。正樹くんは頭も打ってるし、2日間ほとんど何も食べてないからね〜。最初は胃に優しいものにしようか〜。」


ベッドの近くにいた小鳥遊さんが、俺達のやり取りを楽しそうに眺めながら口を開く。


「胃に優しいラーメンは?」


「ないですね。」


縛が即答する。


「探せばあるかもしれないじゃん!」


「ありません。」


「世界は広いよ!」


「諦めてください。」


縛は呆れたように俺を見る。


ぐっ……。このラーメンの敵め!


俺はお腹を押さえながら、ベッドに沈み込む。


ラーメン……。俺のラーメン……。やばっ、ラーメン考えていたら食べた過ぎる。


そんな俺を見て、道徳が口元を押さえて笑っている。


「とりあえず、何か食べられるものを持ってきてもらいますか?」


「チャーシュー。」


「却下です。」


「パスタ。」


「却下です。」


「グラタン。」


「却下です。」


「……プリン。」


縛が少し考えるように目を細める。


「それなら聞いてみます。」


「よしっ!」


ふふっ、このラーメンにも使えるぞ!!


俺が小さくガッツポーズをすると、道徳が吹き出した。


「先輩、本当に元気そうで良かったです。」


そう言った道徳の表情が、ほんの少しだけ緩む。


「うん。俺は元気が良過ぎる気がする。」


頭はまだ少し痛いけど。


体もなんとなく重たい。


でも、それ以外はいつもの俺だ。


……多分。


「そういえば。」


海………海といえば。


ふと、頭の中に海の景色が浮かんだ。


青い海。


遠くに浮かんでいた、人のようなもの。


「俺が見つけた人、どうなったの?」


「人?」


道徳が首を傾げる。


「ほら、海に浮かんでた人。俺、船員さんに言ったじゃん。」


「ああ。」


獅鳳くんが思い出したように声を上げる。


「あれか。」


「助かった?」


俺が聞くと、獅鳳くんの表情から僅かに笑みが消えた。


「いや。そもそも人じゃなかったぞ。」


「……え?」


「マネキンだった。」


「マネキン?」


俺は目を瞬かせる。


「そう。船員に回収させたけど、ただのマネキンだったらしい。」


「…………。」


マネキン。


俺が見たのは、人じゃなかった?


俺が黙っていると、縛が俺の顔を覗き込む。


「正樹さん?」


「いや……。」


頭の中に、あの時の光景を思い浮かべる。


遠かったし〜海の上だったし、ちゃんと見えたわけじゃない。


だから、人と見間違えたのかぁ〜。


そう言われれば、それまでなんだけどなぁ〜……。


「俺、人だと思ったんだけどなぁ。」


「遠目だったんですよね?」


道徳が少し困ったように眉を下げる。


「うん。」


「なら、見間違えてもおかしくないと思いますよ。」


「……まぁそうだよなぁ〜。」


そうだよね。


マネキンだったなら、よかったよかった〜。


人が海に浮かんでたわけじゃなかったんだから。


その方が、ずっと嬉しい。


『ぐぅぅぅー』


「あ。」


縛が半目になる。


「今度はなんですか。」


「やっぱりお腹空いた。」


「プリンが来るまで待ってください。」


「ラーメンも頼んでいい?」


「駄目です。」


ですよねぇー。

俺はもう一度、ベッドに沈み込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……まだ見つからないのか?」


低い声が、静かな廊下に響く。


「はい。お部屋にもいらっしゃいませんでした。」


報告を聞いた男の眉間に、深い皺が刻まれる。


「連絡は?」


「何度かしておりますが、繋がりません。」


「…………。」


男は険しい表情のまま、ゆっくりと視線を落とした。


船内。客室。レストラン。デッキ。


立ち寄りそうな場所は、一通り確認した。


しかし、どこにもいない。


「最後に姿を確認したのは?」


「昨日の夜です。」


男は僅かに眉を寄せる。


そして、もう一度スマートフォンへと視線を落とした。


何度掛けても、返事はない。


次第に、その表情から余裕が消えていく。


「もう一度、船内を探せ。」


「かしこまりました。」


スタッフが足早にその場を離れていく。


残された男は、険しい表情のまま静かな廊下の先を見つめた。


「……知らせないと。」


そう呟きながら、ポケットからiPhoneを取り出し、ある人物へ電話をかけた。

滑り込み投稿です!

まだ今日は金曜日!!!間に合った!!!


正樹にラーメンはやはり欠かせない。

次回もよろしくお願いします〜!!

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