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人類の罪  作者: 華
幸せの形
102/135

まさかの同室者

真っ暗だ。


……あれ?


俺、何してたんだっけ?


ゆっくりと目を開ける。いや、開いてるんだけど、真っ暗すぎて何も見えない。


とりあえず体を起こしてみると、頭にズキッとした痛みが走った。


「いったぁ……。」


頭を押さえながら、意識を失う前のことを思い出す。


確か……クルーズ船で迷子になって、救命ボートに乗って、それから海に落ちて……。


あ。落ちてないやぁー。多分。


俺、頭打ったんだった。


そうだそうだ。それで小鳥遊さんが診てくれたはず……うん。


「…………。」


改めて考えると、今回の旅行に来てからなんだか大変だぁ。


迷子になるし、救命ボートと衝突事故したし、頭まで打つ。


そして今は、なぜか真っ暗な部屋で一人。

縛ぐらいはいるものだと思ってたよ。


「あー……俺、不運だなぁ〜。これで道徳の結婚式に参加しても大丈夫なんかなぁ〜。なんかやらかしそう。」


俺は大きくため息を吐くと、とりあえず電気をつけようとベッドから足を下ろした。


ぐにっ。


「?」


何か踏んだ。


やたらと柔らかいような……いや、硬い?


なんだぁ?


俺は足元をじっと見つめるが、真っ暗すぎて何を踏んだのか全く分からない。


荷物か?


誰か、こんなところに荷物置いた?


「危ないなぁ〜。」


とりあえず踏んだものを避けると、壁に手を付きながらゆっくりと移動する。


電気のボタンは壁にあるはずだから……。


「んー……。」


手探りで壁を触っていくが、なかなか見つからない。


こっち?


……ない。


じゃあ、もうちょっと先?


「あった!!!!」


指先にスイッチらしきものが触れ、俺は勢いよく押した。


パチッ。


「うぉっ、眩しい〜!」


突然明るくなった室内に目がついていかず、咄嗟に腕で目元を覆う。


暗闇に慣れていたせいか、目が全然開かない。


「うぅ……。」


しかも、なんか足裏湿ってるし。


さっき踏んだやつ?


水でもこぼれてたのかな?


もう〜誰だよ〜。こんなところに水こぼしたの。


そんなことを考えているうちに、少しずつ光に目が慣れてきた。


「お?」


まだ少し眩しいけど、室内が見える。


俺はゆっくりと腕を下ろすと、何気なく足元に目線を向けた。


「……ふぇ?」


人が……倒れてる。


その人の周りには、赤いものが広がっていた。


「…………。」


え?


俺は何度か瞬きをする。


でも、目の前の光景は消えない。


「血……?」


俺は恐る恐る自分の足を見る。


足の裏にも、同じ赤いものが付いていた。


さっき湿ってると思ったの……水じゃない。


「え、待って。」


うそ。


え?


俺……踏んだ?


人を?


俺は恐る恐る、倒れている人に近付いていく。


一歩ずつ距離が縮まるにつれて、床に倒れている人の顔がはっきりと見えてきた。


「……鳳獅くん?」


鳳獅くんが、血を流しながら倒れていた。


え?


なんで?


なんで鳳獅くんがここにいる?


っていうか、血!


めっちゃ血出てる!!


「だ、だいじょぶ!?」


俺は慌てて鳳獅くんの横にしゃがみ込むと、肩を掴んで揺さぶる。


「鳳獅くん!? 鳳獅くん!!」


返事がない。


何度呼んでも、鳳獅くんはピクリとも動かなかった。


やばい。


どうしよう。


救急車……いや、船の中だから救急車来れない!


小鳥遊さん!


いや、その前に誰か呼ばないと!


「iPhone!!」


慌ててポケットに手を突っ込む。


右。


ない。


じゃあ左。


……ない。


「え?」


もう一度、両方のポケットを探す。


ない。


「待って、ない!!」


え!!!


どこ!?


ベッド!?


俺は鳳獅くんの横に座ったまま辺りを見渡すが、それらしきものはどこにも見当たらない。


「鳳獅くん!!! 大丈夫!?」


俺がもう一度大きな声を出した、その瞬間だった。


――ゴッ。


「っ……!」


突然、頭の後ろから強い衝撃を感じた。


なに……?


誰かいる?


振り返ろうとするが、急に体から力が抜けていく。


目の前の景色がぐにゃりと歪み、床がどんどん近付いてきた。


「……だれ……?」


最後に見えたのは、血を流しながら倒れている鳳獅くん。


そして俺の目の前は――また、真っ暗になった。


「…………ん。」


眩しい。


瞼の向こうから光を感じ、俺はゆっくりと目を開ける。


窓から差し込む光が、室内を明るく照らしていた。


「……あれ?」


俺は天井を見つめたまま、何度か瞬きをする。


ここ……。


さっきの部屋?


俺はベッドに横になっていた。


ゆっくりと体を起こして辺りを見渡すが、室内には誰もいない。


俺一人だけ。


「……鳳獅くん?」


返事はない。


俺はさっき鳳獅くんが倒れていた場所を見る。


「…………。」


何もない。


血もない。


倒れていた鳳獅くんもいない。


あれだけ真っ赤だったはずの床は、何事もなかったように綺麗になっていた。


「……あれ?」


俺はベッドから足を出すと、恐る恐る足の裏を見る。


何も付いていない。


綺麗だ。


どういうこと?


俺……夢見てた?


ガラガラッ!


「正樹さん!?」


突然扉が開き、俺はビクッと肩を揺らす。


「起きたのですね!」


「……縛?」


縛が勢いよく俺のところへ駆け寄ってくる。その後ろからは、道徳達もぞろぞろと部屋へ入ってきた。


「先輩! 大丈夫ですか?」


「……うん。」


まだ状況が理解できないまま、俺はみんなの顔を見る。


縛。


道徳。


柊木さん。


それから――。


「…………え?」


みんなの後ろにいる人物を見て、俺の目が止まった。


鳳獅くん?


そこには、さっき血を流しながら倒れていたはずの鳳獅くんが、何事もなかったように立っていた。


血なんて流していないし、服も汚れていない。怪我をしている様子もない。


「鳳獅……くん?」


「どうした?」


普通に返事が返ってくる。


俺は鳳獅くんを見る。


それから、床を見る。


もう一度、鳳獅くん。


床。


鳳獅くん。


床。


「…………。」


あれ?


さっきまで、ここに倒れてたよね?


俺は何もない床をじっと見つめる。


夢?


あれは……夢だったのか?


「正樹さん?」


縛が不思議そうに俺の顔を覗き込む。


「どうかしましたか?」


「いや……。」


俺はもう一度、鳳獅くんを見る。


普通に立ってる。


生きてる。


じゃあ、やっぱり夢だったんだ。


頭を打ったし、変な夢でも見たんだろう。


「……なんでもない。」


そう言って頭を掻こうと、手を上げた。


その時。


ズキッ。


「いっ……!」


「正樹さん?」


思わず後頭部を押さえる。


痛い。


そこは、救命ボートと衝突した時に打った場所とは少し違う。


もっと後ろ。


俺はゆっくりと、その場所に触れる。


ズキッ。


やっぱり痛い。


「…………。」


ここ……。


さっき、誰かに殴られた場所だ。


俺はゆっくりと顔を上げる。


目の前には心配そうに俺を見る縛達。


そして、その後ろには何事もなかったように立っている鳳獅くん。


俺はもう一度、綺麗な床を見る。


血なんて、一滴も残っていない。


じゃあ……。


あれは……。


本当に夢だったのか?

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