ケグドラフト
皆さんは「ケグドラフト」と言う物をご存知だろうか。
おそらくはほぼ全ての人がなんだそれ?となるのだろう。
ケグドラフトは、圧縮充填という技術を使って、絞りたての新鮮な味わいをそのままお届けする日本酒などをしぼった直後のままに出来る画期的な技術。
その技術を使った日本酒は発酵過程で自然と生まれる微発泡の炭酸ガスや、もぎたての果実のようなフレッシュな香りに吟醸香と圧倒的なスムースな飲み心地があるこれまでは蔵元でしか味わえ無かった物だ。
後から添加しない自然な炭酸ガスを多量に含んだ生原酒を、圧縮しその炭酸ガスを液中に閉じ込めて、特殊な圧力容器にそのまま充填する事で、しぼりたての鮮度を長期間維持する事ができるんだ。
まさに「しぼりたて」のそのままだ。
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今日の影打君はインスタゴラムで引っ掛かったそのケグドラフトと言う物とはなんぞやと取り扱い店に突撃したのだ。
三宮駅の北側にある少し良い魚介居酒屋「魚」だ。
しかし、大丈夫かね。
居酒屋チェーンとは違ってそこそこ値段はするよ?
なに?
ジャパンカップで勝ったから金はあるだって?
私が仕事で目を離した隙にそんな事してたのか。
まあ、付き合おうじゃないか。
私もケグドラフトは概念だけは知っていたが初めてだ。
さて、乾杯だが普段はビールだが少し変わったものを頼むとしようか。
うん、これだ「フリージング最強レモンハイボール」
凍結レモンを入れた甘酸っぱいのに飲み応え抜群なハイボールにしよう。
タップリとグラスに盛られた凍結レモンにハイボールは爽やかさが堪らない。
影打君は烏龍茶か。
本命に全力を使うつもりだね。
いい判断と思うよ。
じゃあ乾杯!
最初の料理は「旬魚刺身盛合せ」の王道スタイル。
みんなは知っているかな?
旬と言うものは何も美味しく安いだけでは無い。
旬の食材はその時期に身体が必要とする効能を持っており、自然のリズムに合わせた食事をすることで、体調管理(免疫力向上)に役立つのだ。
つまり、旬の食材を意識して選ぶことは、美味しく、健康的に、そして経済的に豊かな食生活を実現するのだ。
美味い!
そろそろ寒い時期の訪れなのだ。
魚達もタップリと脂を蓄えてきた時期だ。
しかし、ハイボールは少し失敗したかな?
魚と醤油の味と喧嘩している感じがするね。
⋯影打君、そのニヤニヤ止めないか。
うん、やっぱり美味しかったね。
2品目に合わせて本命と行こうじゃないか。
ケグドラフトを!
この店のストックは「残◯蓬莱」と「櫻◯宗」か。
悩むが悩むなら両方だな影打君。
然り2人で頷く。
そして2品目は鱧湯引きだ。
その淡白な味が酒の味を邪魔しないのだ。
キタキタ来ましたよ。
本日のメインイベント!
ケドドラフトとは如何なるものか?
ほう⋯液面に広がる淡い粒。
確かに微発泡している発酵由来の炭酸ガス。
決して後から添加した物では無いな。
先ずは香りだ影打君。
額面通りならフレッシュな果実感を持つ吟醸香⋯
うん「櫻正◯」は凄く香り高いぞ。
確かに吟醸酒から漂う、リンゴやバナナ、メロン、花のようなフルーティーで華やかな香りだ。
カプロン酸エチルや酢酸イソアミルが豊富に生成されている証拠だろう。
飲む前から素晴らしい酒だと分かるな。
では頂こうか。
なんと!上善◯の如しを遥かに凌ぐスムースさ。
これこそ水では無いか。
それに日本酒特有の苦味が全く無い。
確かに感じるぞフレッシュな甘みと舌で弾ける炭酸を!
日本酒とは元来こんなに爽やかな物だったのか。
甘いベタつくなどの悪いイメージが一変するぞ。
なあ、影打君。
⋯って、もう鱧と呑んでるじゃないか!
なんたるフライングだよ。
確り味わうのも良いがマリアージュこそが大事だと?
言うじゃないか。
確かに日本酒は食中酒の側面が強い。
特に日本酒のグルタミン酸と魚介のイノシン酸との相乗効果は抜群だし魚の生臭さも低減させるからね。
うん、これは酒が進むねぇ。
淡白な鱧に梅肉も良いアクセントだ。
あっという間に杯が空いたよ。
このスムースさはちょっと危ないかも知れないね。
じゃあ、二品目は魚介天ぷら盛り合わせだ。
「残草◯莱」は揚げ物に良く合うそうだ。
えび2尾・穴子・いか・たこ・白身・ししとうの盛合せ。
黄金色に輝く揚げ方だね膨らみ方も丁度良い。
くくっ、良いじゃないか。
私は天ぷらが大好きだよ。
言っては悪いが何でも天ぷらにすれば大抵の食材は美味くなる。
そう、天ぷらと言う技法が素晴らしいのだよ。
⋯喋っていても先ほどの様に影打君に先手を取られてしまうな先ずは「残草莱◯」を頂こう。
うん、控えめながら炊きたての米やほのかなバナナ様の穏やかな香りにフレッシュなしぼりたて特有の微炭酸にドライなキレが際立つ。
そして生原酒らしい濃醇な旨味がありつつも、強めの酸が全体をタイトに引き締め、揚げ物や肉料理の脂を綺麗に流してくれる。
そして「残◯蓬莱」と「櫻正◯」に共通するのはやはりフレッシュさと水の様なスムースさ。
それに微発泡。
つまり、これがケドドラフトと言う訳だな。
影打君もご満悦の様子。
私も「サクッ」天ぷらがこうばしい。
そして「グイッ」と呷る。
口に宇宙が広がる。
これは良いなと幾らでも呑めると同時に不味いと分かりつつも杯が止まら無いぞ。
いかん、天ぷらと酒はやめられない。
寿司まで来たぞ。
ケドドラフトのスムースさと微発泡が油を流してくれるのが不味い。
舌が新しくなってしまえばまた、油ものや魚介のサイクリングが始まってしまうじゃないか!
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気づけば私はテーブルに突っ伏すして寝ていた。
「ウッ」と私は身体を起こすが視界と足が覚束ない。
影打君はそうでも無い様だ。
酒が弱いならそんなに飲むなと影打君。
そうだったね。
酒は飲んでものまれるなだ。
全く私としたことが情け無い事だ。
そんな我々に水の入ったグラスが置かれる。
なんて気が利く店員だと顔を向けると其処には⋯
異能個体「テナー」じゃないか!
私達をJazzの暴力で打ち負かした宿敵。
ここでやる気かと影打君は身構えるが「テナー」は踵を返し自分のテーブルに戻りケドドラフトと刺身盛合せを流れる様に平らげる。
なんと言うスマートさだ。
そして早々に席を立ち会計で店内全員の分を支払い去って行く。
そして「酒は程々にな」と表情で示す。
あまりにクール。
影打君を呆然と立ちつくし私は足から崩れ落ちた。
そんな私達を横目に周囲は拍手喝采。
あれ?
もしかしなくても「テナー」が「ヒーロー」なのでは?
またしても彼に敗北を突きつけられられた私達はなんなのか?
影打君の立場が無いじゃないか。
握り締める手に握られる影打君の箸が圧縮断裂を起こした。
私達は力を無くしグラスから水を呷る。
渋面しか出て来ない。
モンスターに奢られる「ヒーロー」と私の惨めな事。
「ヴバァッ!!ヴォオオオーーーン!!」そして、店外から響くサックスの咆哮と観衆の歓声が追い打ちをかける。
「俺は、あのモンスターに勝ちたい⋯!」
影打君の独白。
器のデカさで完全に圧倒された私達の明日はどっちだ。
そんな彼が今日も熱く情熱を吹き上げる理由は明白だ。
人々を救う希望の光。
つまり「ヒーロー」だからだ。




